前日譚 - 極彩鮮滅

まだ『染闘(たたかい)』は、始まっていない。
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蓮田 颯丞 @hasterMissing

――ああ、これだ。これこそが我が世界。燃えろ、壊せ、奪い合え。幾ら言葉で理性を愛を語ろうと、我等は小賢しい猿の群に過ぎない事を思い出させてくれ。 #極彩鮮滅

2014-06-11 03:05:22
蓮田 颯丞 @hasterMissing

(戦場に立つ男が一人。顔の筋肉一つを動かす事無く、一見すれば”茫然と”あるいは”冷徹に” 目前の地獄を眺めている) #極彩鮮滅

2014-06-11 03:08:21
蓮田 颯丞 @hasterMissing

(だが、男は笑っていた。極上の笑みを浮かべていた。顔一つ、表情一つ揺らさずに、この地獄に恍惚を得ていた。燃え広がる街並みを、人々の断末魔を、恐怖に突き動かされながら腰を振り続ける兵士達を、彼は愛しくすら思っていた) #極彩鮮滅

2014-06-11 03:11:20
蓮田 颯丞 @hasterMissing

沈黙し、まるで時が止まったかのように動かなかった男は、まるで何かに呼ばれたかのように、その視線を足下へと向ける #極彩鮮滅

2014-06-11 03:12:55
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「ああ……すまなかったな。忘れていたわけでは、無かったんだが」 そのまま、言い訳をする様な声が足下に掛かる。返事は無い。怯えきった瞳が向けられるのみ。

2014-06-11 03:13:59
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「お前に狙われるのはこれで何度目になるか。…ついぞ、俺に刃は届かなかったな」 嘲笑ではなく、事実を確認するように告げる。見下されたヒトの目に涙が滲む #極彩鮮滅

2014-06-11 03:16:49
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「……物語なら、お前みたいな復讐鬼は、俺みたいな人でなしを相手に際限なく強くなっていって、やがて討ち倒すものだが…」  くるん、と。手元で抜身の小刀を弄んで。それを投棄ように無造作に、放り投げる。刃は放物線を描いて飛び、回転しながら刃を下に向けて。  #極彩鮮滅

2014-06-11 03:19:42
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「現実はそうもいかないか。世知辛いもんだ」 ほう、と溜息を吐く。それで男は、それきり足下のものに興味を失った。 #極彩鮮滅

2014-06-11 03:21:12
蓮田 颯丞 @hasterMissing

男はあまりにも強すぎた。誰にも男を止める事はできなかった。男は、飽いていた。何もかもが自分の思い通りになってしまう戦場に。自分の思い通りに踊る人間に。これでは一人で人形遊びをしているようなものだ。つまらない、下らない、面白くない。 #極彩鮮滅

2014-06-11 03:22:56
蓮田 颯丞 @hasterMissing

しかし、男が更なる強敵を、男の手に負えない戦場を求めていたか、といえばそれは違う。男が望んでいるものは、今も昔もひとつだけ。 #極彩鮮滅

2014-06-11 03:23:53
蓮田 颯丞 @hasterMissing

もっと鮮やかな滅びを。地獄の様な彩を。未だ見たことの無い、極上の混沌を!  #極彩鮮滅

2014-06-11 03:25:39
蓮田 颯丞 @hasterMissing

焼き焦がす様な夕焼けは、やがて藍の闇に塗り潰される。その境目、ほんの僅か。黄昏と漆黒の狭間に紫紺の天が空を包む。曖昧で、儚く、太陽も、月も存在する事を許さない冷たい空。

2014-06-11 19:04:15
蓮田 颯丞 @hasterMissing

ああ、つまりこの刹那こそが自分なのだろう。自分は天を焦がす黄昏ではなく、全てを塗り潰す漆黒でもない。焦がされ、塗り潰される、矮小な存在だ。

2014-06-11 19:07:02
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「それで、いい」 口に含む様に、繰り返す。 「それでこそだ」

2014-06-11 19:11:29
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「そうでなければ…」 意味がない。呟く声は、夜の闇に塗り潰された。

2014-06-11 19:13:31
ダスク @dusk_v

覚えている。「きれい……」覚えている。黄昏の美しさを。覚えている。「あの空を花にしてきみにあげたい」ばかげた言葉をくれた人を。覚えている。覚えている。ーー彼女はそっと目を開いた。一瞬の後、愉悦に唇を歪める。忌むべき、夜が来る。 #極彩鮮滅

2014-06-11 05:35:51
ダスク @dusk_v

黄昏は美しい。血を撒いたような黄昏は、痛みの記憶は、美しい。 「  」 叫んだ。空に霧散した。叫んだ名が何なのか、記憶が掠れて今はもう思い出せない。 「  っ……!」 叫んだ。喉に走った鈍い痛みしか、思い出せない。ただ、彼女は必死だった。 彼女は、縫いぐるみを抱いていた。

2014-06-11 18:54:59
ダスク @dusk_v

「きれい、だなぁ……」 呟いた声は、色を失っていた。頭上には、暮れゆく空。 光を失いつつある空。 「きれい、だなぁ……」 声は死んでいた。彼女は、灰色の海に座していた。 視界はやけに開けていた。つい数時間前まで、ビル群が空を切り取っていたはずだった。

2014-06-11 19:28:57
ダスク @dusk_v

「きれい、だなぁ……」 三度目の感嘆が零れた。視界を黄昏の紅が焼く。しかし、それも刻一刻と暮れゆく。 ≪死んだ≫ビル群、彼女の左腕を切り落とした軍人の死体も、全てが夜に呑まれてゆく。 彼女は夜が嫌いだ。色のない世界は美しくないし、何よりも恐ろしい。

2014-06-11 19:33:08
ダスク @dusk_v

暮れゆく空を見上げ、ついに彼女は言葉を発することを辞めた。代わりに立ちあがり、口角をゆっくりと持ち上げた。 世界が夜に呑まれてゆく。 否、元よりこの世界は≪死んで≫いた。 彼が殺されたその時に、ビル群も人間も彼女の左腕も、全てが価値を失った。全てがフラットになったのだ。

2014-06-11 19:36:48
ダスク @dusk_v

彼女はふらふらと歩きだした。「夜は嫌い」とぽつりと呟いた口角はやはり笑みの形をしていた。 嫌いと退屈は重ならない。 歩き出した。来る夜に彼女の≪生≫を造る為に。 元より、全てはゼロである。全ては≪死んで≫いる。全ては平坦に平等に醜い。紛い物の≪生≫が充分に映えてしまうほどに。

2014-06-11 19:41:29
ダスク @dusk_v

美しいものは黄昏だけ。血を撒いたような、痛みの記憶だけ。

2014-06-11 19:41:54
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