Kiss me and Kill them

艦これssです。
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奈楽マン @SonoTaichi

――――無機質な電子音が鳴り響き、小指の先程の厚みしかない薄っぺらなPDA(携帯情報端末)は所有者に着信を伝える。 ホテルの一室の様に整えられた部屋には遮光性の高いカーテンが付けられており、僅かな日差し位しか朝と言う事が分かる情報は無かった。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:01:47
奈楽マン @SonoTaichi

シーツの中から青白い男の手が伸び、電話を取る。 「……もしもし」 「もしもし、『そこは海?』」 「『此処は陸だ』」 「『探し物が有る』の」 隠喩めいた遣り取りは仕事の符牒だ。 男は有り難いモーニングコールに舌打ちをしそうになるのを抑え、頭をビジネスへと切り替えた。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:02:29
奈楽マン @SonoTaichi

「オレの名はセン、探し屋に何の用だ?」 「ある場所に忍び込んで欲しいのよ。早急に」 若い女の声、ソナー音の如く寝起きの頭へキンキンと刺さる。 「そーかよ。直接聞く、電話は安全じゃない」 投げやりな口調だがセンの思考は冷静だった。 「今日は大丈夫?」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:02:53
奈楽マン @SonoTaichi

チラリとベッドの隣へと視線を送る。 予定が無かったと言えば嘘だが、仕事となれば別だ。 「ああ。出来るだけ早い方が良いのならシンジュクの『ディープワンズ」が良い、昼間から後ろ暗い話をするには持って来いだ」 「じゃあそこで。11時から、名前はセンで良いのよね?」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:03:16
奈楽マン @SonoTaichi

「合ってる。それじゃ又後で」 「ええ、また後で」 ぷつりと通話が切れ、センはベッドから起き上がった。 「仕事ですか」 静かな口調でシーツに身を包んだ女が言う。 「緊急のな。『掃除のボランティア』はキャンセルだ」 「お金を貰うかどうかの違いだけかもしれませんけど」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:03:40
奈楽マン @SonoTaichi

僅かに喜びを声に隠し、女は髪を掻き上げて微笑を浮かべた。 その眼は殆ど開いておらず、聖母像のそれに近い慈悲深さを――どんな人格かを知っていれば全く逆の印象を受けるが――感じさせる。 「……さぁな。兎も角シャワーを浴びたら出るぞ、赤城。もう9時半だ」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:04:04
奈楽マン @SonoTaichi

熱いお湯は一夜の内に付いた体液を洗い流し、排水溝へと渦を巻いて吸い込まれていった。 風呂から上がると赤城は自らの髪を乾かすのもそこそこに、センの服を用意して整える。 「ありがとよ。そこまでして貰わなくても良いんだがな」 「秘書艦なら当たり前の事ですよ」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:04:27
奈楽マン @SonoTaichi

何でもない事だと言う表情で返事をして、赤城は長く美しい黒髪へ丁寧にドライヤーを掛けた。 「そーかよ。まぁお前の所だと秘書艦にも一級の振る舞いが求められそうだしな」 赤と黒が混じって錆色の髪を荒っぽくタオルで拭き、歯ブラシを口の中に突っ込む。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:04:46
奈楽マン @SonoTaichi

「格式高いって訳じゃないですけどね。研修を受ける事で秘書艦と言うのは楽な事じゃないと学ぶんです」 ブローを掛け終わった赤城は涼しい顔で毒々しい程にカラフルなエクステを髪へと編み込んでいた。 「贔屓にされてる艦へのやっかみを減らす為って事か」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:05:11
奈楽マン @SonoTaichi

「贔屓、と言うか序列ですね。叢雲さんとかは重要なポジションですけど新入りの子にはそれが理解出来なかったりするので」 眉の色を変え、アイシャドーを濃く塗り、青い口紅を塗る。 健康的な肌をファンデーションで白く染めれば、一般的に想像される赤城モデルの姿はそこに無い。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:05:30
奈楽マン @SonoTaichi

「成る程ね、秘書艦でも無い駆逐艦が偉い顔してるって反発も有るだろうな」 センは蛇口を捻って吐き出した洗浄液を流し、洗面台の鏡を見ながら髪にワックスを付けた。 鏡の向こうに居る不健康そうな男は酸化した血の色の眼でセンを睨み付ける。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:05:52
奈楽マン @SonoTaichi

「私なんかは外に居る事が多いから新しく入った子達には余り知られてなかったりもしますよ」 ゴシックパンクの衣装に身を包み、人目を引きながらも元の顔を隠した赤城は冷蔵庫を漁りながら言った。 「ふーん、と言うか『提督』はお前がオレと寝る事に何も言わないのか?」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:06:27
奈楽マン @SonoTaichi

「何も。提督と私はちょっと性格が近過ぎていまして……、兄妹みたいな感覚なんです。そう言う関係だった時期も在りますけど、武蔵さんが来た辺りからは提督とは寝ていませんね」 碌な固形物が見付けられず、赤城は仕方なく卵を割って生のまま直接中身を飲み込む。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:07:13
奈楽マン @SonoTaichi

「提督とは、って他は……聞くだけ無駄だな」 黒のタイトシャツの上に髑髏のジャケットを羽織り、鎖がジャラジャラと視覚的に煩いパンクスタイル。 セン達がこれから行く場所はこのような格好が自然な場所だった。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:07:34
奈楽マン @SonoTaichi

「男性経験は提督とセンだけですよ」 「そーかよ……。良いから行くぞ、依頼人を待たせちゃ悪い」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:07:50
奈楽マン @SonoTaichi

「どーも、依頼人さん」 水煙草や大麻の煙が天井で渦を巻く薄暗い店でセンと依頼人は顔を合わす。 「はじめまして、五十鈴で良いわ」 相応の錬度を示す改二艦、自分の姿が店内で浮いていると理解していてもその態度には堂々たる物が有った。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:08:43
奈楽マン @SonoTaichi

「こんな喧しい所に呼んで悪いな、少し煙いだろうが我慢してくれ」 店のスピーカーから流れるのはデスボイスのメタルバンドの曲で、並の人間が吸い込めば嘔吐してしまう程の瘴気染みた退廃的な空気だ。 しかし五十鈴は僅かに眉を顰めるのみで、辛そうな表情はセン達に見せない。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:10:10
奈楽マン @SonoTaichi

「別に問題ないわ。と言うかあなた男だったのね、声から女の人かと思ってた」 「……オレは男だ」 不機嫌そうに言うセンの声は確かにハスキーな女性にも聞こえた。 「見れば分かるわよ、ところでそちらの方の紹介をして貰っても?」 ちらりと向けた視線の先には赤城が居る。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:10:34
奈楽マン @SonoTaichi

「ああ、オレのパートナーだよ」 センが翳した左手の薬指に嵌められた指輪は蛇が絡み合ったペアリングであり、内心下劣だと思っていた服装にマッチした背徳的な装飾にも関わらず、五十鈴は神聖さにも近い荘厳な美しさをその指輪から感じた。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:11:03
奈楽マン @SonoTaichi

そんな考えを否定する様に頭を軽く振り、名前を聞こうとした瞬間に店員がオーダーを取りに来る。 セン達は「何時もの」と頼み、五十鈴は出された水にすら口を付けなかった。 安全性が確かでない飲食物は取らないと言う慎重な判断である。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:11:24
奈楽マン @SonoTaichi

「こんな店だから警戒するのも分かるが、食い物は美味いぜ。コックはまともだから薬混ぜたりしないし、衛生にも気を使ってる」 注文を聞いた店員は厨房で既に用意されていたメニューを持ってテーブルへとUターンしてくる。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:11:52
奈楽マン @SonoTaichi

「コックはまともって……そのベニテングタケみたいな物が乗ってる赤い飲み物は?」 センの前に置かれた飲み物を五十鈴が指差した。 「ホワイトチョコチップクッキー入りのラズベリーアイスとバニラのダブルを乗せたウォーターメロンクリームソーダ、通称毒茸汁」 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:12:15
奈楽マン @SonoTaichi

炭酸が発泡している紅い液体の上にはバニラアイスが浮かべてあり、その上に被さる様に置かれた白い斑点混じりの赤いアイスはまるでベニテングタケだ。 「そっちは?」 次に指差したのは赤城の前に山盛りで置かれたピンボール大の目玉である。 #深・艦娘転生

2014-06-13 22:12:36
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