アンド・ストライク・ア・ゴング #1

艦娘最大トーナメント
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劉度 @arther456

「ウオオーッ!」「コロセーッ!」「モーターヤッター!」観客席から熱狂の声が巻き上がる。「ブヒヒ!一回戦で5人抜きした南雲機動柔術も形無しじゃのう!」顔の汚いカネモチに嘲られ、しかし提督は答えない。震えているのは屈辱のせいか?否、恐怖のためである。 21

2014-06-19 21:40:28
劉度 @arther456

「ではカイシャクを……ピガッ!?」それは半身をサイバネ化し、過剰な薬物投与と自己暗示によって戦闘マシーンと化したはずの古鷹も同様であった。目の前でボロ屑めいて横たわる艦娘から異様なオーラが放たれている。「イ……イヤーッ!」とどめを刺そうと、古鷹が右腕を振り下ろす! 22

2014-06-19 21:44:49
劉度 @arther456

だが待て!夜よ、見るがいい!重鉄塊腕が赤城を押し潰す直前、閉じられていた赤城の瞳が見開かれ、ガスバーナーの如く青白く発光したのを!右腕が地面に叩きつけられ、水柱ならぬ砂柱が立ち上る!<モーターフルタカ、必殺の一撃!これは間違いなくフィニ……え?> 23

2014-06-19 21:48:07
劉度 @arther456

その瞬間、古鷹も、観客も、提督も、落ちる砂すらも全てが凍りついた。たった今潰されたはずの赤城が、リング中央で直立不動の姿勢で腕を組んでいた。だがその道着の色は紅白ではなく漆黒!そして鋼鉄メンポには「巡」「戦」の文字!「ドーモ、はじめまして……巡洋戦艦・天城です……!」 24

2014-06-19 21:51:25
劉度 @arther456

「巡洋戦艦!?」「巡洋戦艦だと!?」「何者だ!?」どよめき立つ観客!「航空母艦ではないのか!?」客席の少年カネモチがグンバイをへし折る。「よなぐもり/鬼火を纏う/巡洋戦艦……」提督は、静かに、ほぼ無意識のうちにハイクを呼んでいた「……字余り」 25

2014-06-19 21:54:44
劉度 @arther456

「パボッ……!?」振り返った古鷹は、片方がサイバネ化された目を見開いた。青白い鬼火をまとう赤城から発せられる魔力は、今までのものとは違う。深海棲艦とほとんど同じ性質であった。「し……深海棲艦を確認!ゼンメツ・アクション・モードを展開します!」 26

2014-06-19 21:58:04
劉度 @arther456

ガシャン!ガシャン!ガシャン!古鷹の義肢が変形、更に体の各所からミサイルポッドやマシンガンが展開され、全身武装とも呼べる形態に変化した。誤魔化しきれない反則である!「ちょっと待てぇ!審判――」「ゼンメツだ!」KABOOOOOM!!圧倒的火力が審判ごと抗議の声を吹き飛ばす! 27

2014-06-19 22:01:38
劉度 @arther456

古鷹から放たれたミサイルの一発が観客席を直撃!「アバーッ!」その場にいた不運な闇カネモチが爆発四散!「オイ流れ弾、流れ弾ァ!」提督が叫ぶが、背後の汚いカネモチは笑っている。「ブッヒッヒ!ホレイ重工の老いぼれが死んだか!今日もモーターフルタカはいい仕事をするのう!」 28

2014-06-19 22:05:00
劉度 @arther456

ナムサン!この闘技場ではしばしばこのような『流れ弾』が発生する!カネモチ同士のパワーバランスに乗り切れなかったり、出し抜いた闇カネモチを処分するために、他の闇カネモチの暗黙の了解の下公開処刑される不文律システムがこの闇トーナメントに備わっているのだ。 29

2014-06-19 22:08:54
劉度 @arther456

「今までゼンメツ・アクション・モードを前にして生き残った艦娘はおらぬ!丸腰で完全武装の重巡を相手にするのじゃから、のう!お主も今のうちに、あの空母の葬式予算を計算しておいたほうが……」「イヤーッ!」「ピガーッ!」「え?」 30

2014-06-19 22:12:28
劉度 @arther456

拳が古鷹を打ち抜いた。古鷹が圧倒的パワーで吹き飛ばされ、フェンスに叩きつけられる!銃弾とミサイルの嵐を難無くくぐり抜け、古鷹に一撃を与えた赤城が――否、天城が構えを取る。南雲機動柔術とは違う、獰猛なアトモスフィアを纏った攻撃的な構え。 31

2014-06-19 22:16:11
劉度 @arther456

「あれはジュー・ジツ!?」「なのです!」提督の横で肩車して試合を見守っていた雷と電が驚きの声を上げた。「知っているのか、雷、電!」「スポーツ柔道、南雲機動柔術、イェーガー柔道、その他全ての『柔』の祖となった格闘術よ!でも遥か昔に伝承者が途絶えた筈なのに、どうして……!?」 32

2014-06-19 22:20:49
劉度 @arther456

「ピガッ……ゼ、ゼンメツだ!ゼンメツだ!」古鷹が左腕のマシンガンを連射!だが天城は鋭いジグザグ走行でこれを回避し接近!鬼火がイナズマめいた青白い軌跡を残す!「イヤーッ!」「ピガガーッ!」ワン・インチ距離まで迫った天城の右フックが、古鷹の顎を抉る! 33

2014-06-19 22:24:42
劉度 @arther456

「イヤーッ!」ふらつきながらも古鷹は反撃の右腕を繰り出す!顔を狙った手刀を天城は首を捻って避け、その腕を左手で絡めとる! 「摩擦熱により、艤装表面温度が……」「ジゴクの炎の熱さはこんなものではありませんよ?」「ピガガーッ!?」天城の鬼火が右腕を灼く! 34

2014-06-19 22:28:27
劉度 @arther456

天城の右手が拳を形作る。腕を取られた古鷹に、それを避ける術は無い。「お覚悟を」赤城の中に巣食う亡霊が、無慈悲に古鷹に告げた。「イヤーッ!」「ピガガーッ!」「イヤーッ!」「ピガガーッ!」「イヤーッ!」「ピガガーッ!」「イヤーッ!」「ピガガーッ!」「イヤーッ!」「ピガガーッ!」 35

2014-06-19 22:31:52
劉度 @arther456

いかな艦娘とて、死ぬまで殴り続ければ実際死ぬ。だが座して死を待つモーターフルタカではない!「パワーアーム、強制パージな!」その掛け声とともに、突如右腕が天城ごと発射された!「ヌゥーッ!?」天城が腕を放そうとして、躊躇う。不運にも真後ろに提督たちのいるベンチがあるではないか! 36

2014-06-19 22:35:09
劉度 @arther456

「「アイエエエ!?」」提督と後ろの汚いカネモチが悲鳴を上げる。このままではロケットパンチが二人を押し潰すだろう。ならばどうすべきか?状況判断だ!「イイイ……」ロケットパンチを抱える天城の腕に、縄めいた筋肉が浮かび上がる!パンチの行く先が上を向く! 37

2014-06-19 22:38:23
劉度 @arther456

ドウッ!方向転換させられたロケットパンチが、天城ごと垂直射出!天井にぶつかる前に天城がパンチを強引に捻り、200度回転させる……すなわち、古鷹目掛けて!「イヤーッ!」天城がパンチを蹴り飛ばす!ジュー・ジツの奥義サマーソルトキックを応用した、オーバーヘッドキックだ! 38

2014-06-19 22:41:47
劉度 @arther456

ジェットの加速にカラテが加わったロケットパンチは、機械化された古鷹の動体視力を持ってなお、捉えることは不可能であった。「ピガッ……」彼女が気付いた時、既にパンチが古鷹に突き刺さっていた。「サ……」バチバチと、火花が散り、「サヨナラ!」モーターフルタカは爆発四散! 39

2014-06-19 22:45:10
劉度 @arther456

赤黒い爆炎を背景に、青白い鬼火を背負った天城が地上に降り立った。<あ、えー……第一試合は、航空母艦・赤城の勝利!>アナウンサーが勝利を告げるが、天城は一切気にせずベンチに向かう。「提督」「ひえっ」やや軽蔑の色を込めた瞳が、提督を見下ろす。 40

2014-06-19 22:48:39
劉度 @arther456

「赤城に何をさせているのですか?」「これはな、ちゃうねん。ホントはもっとマトモな相手のはずだったんだけど」「クチゴタエスルナー!」天城がフェンスを叩く。合板製の木の板が当たり前のように砕けた。「今回は無事だからよかったものの、赤城に何かあったらどうするのですか!」 41

2014-06-19 22:53:02
劉度 @arther456

「アッハイ……」赤城には、実の姉であり艦娘でもある天城が守護霊として取りついている。艤装によって増幅された霊能により、赤城の慢心を頭の中で窘めたり、時にはこのようにして表に出ることもある。「ち、ちなみに、何故鬼火を?」「……怒るとこうなってしまうんです!」 42

2014-06-19 22:56:17
劉度 @arther456

「……すみませんでした。どうしても倒さなくちゃいけない相手がいて、赤城さんの力を借りたのですが……敵を甘く見ていました」「南雲機動柔術はあくまでも守りの技。攻めに移るには不得手ということを忘れないで下さい」「肝に銘じておきます」 43

2014-06-19 22:59:38
劉度 @arther456

「なるほど。此度の相手、一筋縄ではいかないようだな」提督と天城の会話を遠目で見るのは、ベンチで控える主催者側の艦娘たちだ。「チクショー、警備隊長の出番かと思ったんだけどなあ」「ジュー・ジツか。まさか実物をお目にかかれるとはね。百番目の技に使いたいわ」 44

2014-06-19 23:02:53
劉度 @arther456

「……次は、私が出よう。彼らが力を何に使うか、この拳を持って確かめてくる」控えの中でも一際小柄な影が立ち上がった。腰の辺りまで伸ばされた髪は、しかし潤いがなく老いた白。だが橙色の瞳には、若い炎が灯っていた。「菊月、出る」 45

2014-06-19 23:07:04