『仮想通貨革命』誤りと議論のポイント

野口悠紀雄『仮想通貨革命 ─ ビットコインは始まりにすぎない』(ダイヤモンド社) の内容のうち、ビットコインに関する記述で誤っているところや議論のポイントなどをまとめました。
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Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.94→ランポートらによる 3t+1 (t は裏切り者の数) 以上のノードを必要とする解は、どの将軍の間にも直接の通信路があることを前提条件としています。一方、ビットコインにも通信路について前提があるのですが、そのことが明確になっていません。

2014-06-21 05:55:22
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.94→ビットコインにおける通信路の前提は、どの将軍にもメッセージ(あるいはその結果)がいずれ到達する、という条件です。例えばP2Pネットワークを分断するとこの条件が崩れます。ビザンチン将軍問題が実用的に解けているかは、条件の崩し易さ次第です。

2014-06-21 06:00:15
Kenji Saito @ks91020

『こうしたことを防ぐ手立てとして考えられるのは、難しい計算問題を課すことだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.96→問題が複数の将軍により同時に解かれる可能性があるので、その先を考えることが本質であり、計算問題を課す部分は、解の本質的な部分ではないと思います。

2014-06-21 06:08:02
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.96→また、一応、ビザンチン将軍問題はリアルタイム性をもっていますから、間に合わない可能性のある手法 (解の実行時間の上限を決められない手法) を選択している時点で駄目な気がします。

2014-06-21 06:09:40
Kenji Saito @ks91020

『P2Pで経済活動を行うのは、ビットコインが登場するまでは、不可能と考えられていた。「ビザンチン将軍問題」は解決できないと考えられたからである』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.96→ビットコインがやっている程度にはビザンチン将軍問題はすでに解けてました。最初の解は1982年。

2014-06-21 06:14:17
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.96→また、分散アグリーメントを必要とする問題というのは、経済活動の一部に過ぎません。例えば、BitTorrent は経済活動を行っていると考えることができます。通貨システムでも、デジタル署名を真っ当に使えば問題はもっと単純になります。

2014-06-21 06:18:34
Kenji Saito @ks91020

(リップルについて)『…プルーフ・オブ・ワークが要求されない…プロセスが簡単なのは…ビットコインの場合は「資産」…を動かしているのに対し…リップルの場合は「負債」…を動かしているからだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.117→通貨システムで問題が単純になっている例。

2014-06-21 06:24:53

p.117にはリップルについて「二重使用の問題がないからだろう」と書かれていますが、「負債」を動かすタイプの通貨でも、二重消費の問題は発生し得ます。ビットコインの場合と違うのは、二重消費が起きた場合に不利益を被る主体が明確だということです。「負債」がコピーされたら困るのは誰か、明らかでしょう。

アンフェアなことが起きたとき、全体がそのコストを共有するのか、それとも誰がそのコストを負担するかが明らかかどうかで、システムの強さは全く違ってきます。

Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.117→そして発案はビットコインよりリップルの方が先です。通貨体系をつなぐという考え方なので、個々の通貨システムはP2Pでない場合がもちろんありますが、つなぎかたはP2Pと言えると思います。

2014-06-21 06:29:53
Kenji Saito @ks91020

『ビットコインを用いると、エスクローと同じ結果を実現する取引を行なうことができるのである』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.171→ビットコイン単体でエスクローを実現する方法が想像できません。おそらく、信頼できる第三者を、ビットコインのユーザとして必要とするのでは。

2014-06-21 06:33:28

ビットコインのウォレット MultiBit の FAQ に、ビットコインを用いたエスクローの例が載っていますが、信頼できる第三者ユーザの存在を前提にしています。

Kenji Saito @ks91020

(DAC:非集中自律企業)『ビットコイン自体がDACだとの見方…コインの保有者は株主であり、マイナーは従業員である。マイナーは、ビットコインシステムを維持するサービス(マイニング)を提供し、報酬を得る』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.174→面白い見方ではあります。

2014-06-21 06:41:47
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.174→しかし組織の効率化の果てにDACがあるなら、おそらくマクルーハンの言うようにそれは反転するでしょう。組織というものについて、「会社」の概念によって廃れた過去のものが、別の姿で蘇ることの兆しなのかも知れません。

2014-06-21 06:44:54
Kenji Saito @ks91020

『…イサリアムは…任意のスマート契約または取引をブロックチェーンに記録するためのプロトコルだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.176→ブロックチェイン方式について、ビザンチン将軍問題が解けていない状況を容易に作り出せるとしたら、それを社会の基盤として用いるのは危険です。

2014-06-21 06:48:20
Kenji Saito @ks91020

『…「共有地の悲劇」が起こるのではないか、との懸念があるのだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.177→この直後の例が、マイナーが離脱していく、というものになっていて、どこが「共有地の悲劇」と結びついているのか、よくわかりません。

2014-06-21 06:51:42
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.177→一方で、ビットコインには確実に「共有地の悲劇」の舞台が準備されています。アンフェアな利用者に対するコストを全体が共有する状態だからです。参加者、特にマイナーが善意や惰性よりも合理性を追求し出したとたんに、全体が破綻し得ます。

2014-06-21 06:55:39
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.177→その意味で、マイナーが合理的判断により離脱するというのは、その例と言えなくもありませんが、アンフェアなことではありません。むしろ、マイナーが自身による二重消費を積極的に認めるようなことが、「共有地の悲劇」に当たると思います。

2014-06-21 06:58:03
Kenji Saito @ks91020

『仮想通貨には、中央銀行がなく、部分準備の貸出もできない。したがって、信用創造も起こらない』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.187→たとえば、交換所 Flexcoin は送金の仲介をしていましたが、そういう交換所でしたら信用創造も可能です。

2014-06-21 07:00:14
Kenji Saito @ks91020

『第一に、ビットコインの取引そのものは、暗号化されていない (したがって、「暗号通貨」という呼び方はミスリーディングだ)』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.198→その通りですね。

2014-06-21 07:04:29
Kenji Saito @ks91020

『…公開鍵から、いくらでも新しいアドレスを作れるからだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.198→もう少し丁寧に書いた方がよいかと思います。ひとつの公開鍵から作られるアドレスはひとつです。

2014-06-21 07:06:09
Kenji Saito @ks91020

『大きな変化だから、誰もが影響を受ける。新しい社会で有利な立場につくことを考えるべきだ』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.200→競争への誘いですね。ビットコインは確かにこのような考え方を助長すると思います。しかし、真逆の方向もあるはずです。それこそが大きな変化でしょう。

2014-06-21 07:10:30
Kenji Saito @ks91020

『…「ビザンチン将軍問題」もそうだ。「信頼できないメンバーとの協力作業など不可能」というのが常識だったが、それがビットコインによって覆された』 #野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.225→「信頼できないメンバーとの協力作業」は不可能で、根底にプロトコルに則ることへの信頼があります。

2014-06-21 07:14:38
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.225→何であれ分散アグリーメントはそうですが、ビットコインも、関わる全員が同じプロトコルに則る、と信頼しているから動いているのであって、そこから崩されれば動作しません。プロトコルに則ることが単に善意や惰性だったら、脆弱な仕組みと言えます。

2014-06-21 07:18:52
Kenji Saito @ks91020

#野口悠紀雄 『仮想通貨革命』p.225→「関わる全員」の幅を狭めると、プロトコルの根底が一部で崩されたとしても可塑性のあるシステムを作れます。ビットコインの大きな問題のひとつは、「関わる全員」が、ビットコインネットワークの参加者全員とイコールであることです。

2014-06-21 07:22:09

ビットコインは、世界における唯一の正史であるブロックチェインを全員で維持する仕組みになっているなど、あらゆる意味で「ワンネス (oneness)」を強要します。それは分散システムの考え方とは本来的に相反します。

そして、そこにこのシステムの弱さがあると思います。