人食い鬼白龍と流浪のアリババ

プレゼントフォートメィトォッ!
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にっちも @nichmosa

@kiseki1110 人の血肉を喰らわねば生きることなどできないのだから、仕方がないだろう。 俺も俺の祖先たちも特に疑問に思うこともなく人を喰らって生きてきた。いつもはそのまま喰らうが、たまには火であぶるのも良い。人間の村で手にいれた香辛料もなかなかのものだ。

2014-07-06 22:04:20
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 それほどに俺達にとって人を喰らうということは特に疑問を持つことじゃなかった。 気になっているのはむしろ痩せた人間よりも肥えた人間の方が美味しいってことくらい。人の街の営みもせいぜいそこに俺達の餌がたくさんあるって認識くらいだった。

2014-07-06 22:05:32
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 角を隠して人にまぎれて村を訪れることもある。人と同じように物を交換し、時には食料を交換する。もちろん、俺達の食糧じゃない。山で狩った猪や鹿の肉を持って行くと、人間達は俺達に気前よく物を売ってくれた。 言葉は通じるし、生活もそこまで大差はない。

2014-07-06 22:10:02
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 違うのは食べ物だけ。その食べ物が問題だが、それ以外はせいぜい近しい隣人だという意識くらいしかなかった。 襲う人間も村の人間と言うより、旅をしている人間を襲うことが多い。それは単純に集団よりも個人を襲う方が効率がいいという認識にだった。

2014-07-06 22:11:28
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 ある日だった。 いつものように狩った猪を担いで村へと俺は降りて行った。村に着いたらいつもと少し様子が違っていた。人は多く、いつもは畑で仕事をしている人すら家の前に立ち尽くしている。いつになく騒がしい様子に俺は首をかしげた。 「どうしたんですか?」

2014-07-06 22:15:25
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 近くにいた村人に声をかければ、なんとも言えないほど気まずそうな顔をして俺のことを見ていた。 「やぁ、白龍さん。また猪を狩ってきてくれたんですかい」 「そうなんですけれど……いつもと様子が違いますね」 「ああ、それは……」

2014-07-06 22:21:19
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 村人が視線を泳がせた先には小さな輪が出来ていた。人の集まり、その輪。中心には二人の人間がいる。 「流れモノですよ。しかも、鬼子と来た」 「鬼子?」 目を凝らせば、母と子のようだった。母親の髪は黒く、しかし、子供の髪は金の穂のように鮮やかな色をしていた。

2014-07-06 22:23:23
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 「あんな髪の色、見たことがない。あれは巷で出ると言われている鬼子か忌子だ! 村にいれば災いが降りかかるぞ」 忌々しいとばかりに村人が吐き捨てる。ようやく村を取り巻いている違和感に理解した。村人に伝染する恐怖。 「確かに……珍しい髪の色、それに瞳の色だ」

2014-07-06 22:27:27
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 好奇心と同時に畏怖。見たことのないモノへの恐れ。 しかし、あの母親も子も見た所、鬼のようには見えなかった。異国の人間かもしれないが、この小さな村ではきっと何を言っても無駄だろう。

2014-07-06 22:35:35
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 「村にいれてくれって言っているんだよ。迷惑だよねぇ」 「……」 その村人の言葉が示すようにもう村の方針は決まっているようだった。 「お願いですっ!私は無理でも構いません。その代わりに子供だけでもどうか…っ!」 「あんたはかまわん。だが、子供はダメだ」

2014-07-06 22:59:31
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 持ってきてた猪を地面に置いてその輪の中に入っていく。子供を見下ろせばその琥珀の瞳が怯えながらも俺を見上げていた。 「怖がらなくていい」 子供だけに聞こえるように呟いてその額に手を当てて前髪を上げてみせた。 「ほら角なんか無いでしょう?」

2014-07-07 20:26:10
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 村人によく見せるようにしてみせれば、またざわめきが戻りつつあった。 「俺は狩場を決める前はよく旅をしていました。海の遠く先の国には金の穂と同じ髪をした人々が住んでいると聞いたことがあります。この子は人間ですよ」 「……だが、しかし……」

2014-07-07 20:29:56
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 煮え切らない言葉はおそらく葛藤しているのだろう。あれほど疑ってかかっていたのだ。簡単にはいそうですかと信じられるものでもないだろう。 「それではこうしたらどうでしょう?しばらくの間、この子供を俺が預かります。その間に母親の話を聞いてあげて下さい」

2014-07-07 20:35:21
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 母親に目を向ければ不安そうに、けれども縋るような目で俺を見上げている。 「突然口を挟んですみません。俺はこの近辺の山に住んで狩りを営んでいる白龍と言います。身の保証は村の方々がしてくれると思います。どうか暫しの間、俺にこの子を預けてはみませんか」

2014-07-07 20:44:48
にっちも @nichmosa

@kiseki1110 この村でこの親子を受け入れるにしても時間が必要だ。ゆっくりと母親の話を聞けば村長や他の村人も恐れは無くなるはずだ。恐れは未知からくる。わからないからこそ恐ろしいのだ。

2014-07-07 20:52:42