地獄鎮守府の日常 #32~36

白金桜花 C103土曜東ヨ18b @YamanekoOuka

巨大な工場街となった区画。 それ自体が町のように、ビル群を内包した区画。 延々と露店が立ち並ぶ区画。 何もない、無人の区画。 様々な区画をモノレールは通りながら。上昇を続ける。 こうしていると眠気が私を襲ってくる、モノレールの中は安全だからだ。 #地獄鎮守府の日常

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モノレールは1車両につき１台の無人レールガン砲台が車内についている。これにより内部に侵入した艦娘を自動判断で迎撃できる。 また、モノレールに対する攻撃を行えばこの交通インフラの利用者全てを敵に回す事になり、各層に点在する自治委員会による報復が来るのがオチだ。 #地獄鎮守府の日常

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なので、よっぽどのバカか余裕の無い奴でない限りモノレールを襲撃するのはまずない。 そう、私が結論付け瞼を閉じようとした時であった。 がくん、と衝撃が体に伝わり、モノレールが止まる。 薄らとついていた車両内の電気もまた、同時に消えた。 #地獄鎮守府の日常

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突撃銃と思われる銃声が二発、車両の奥で鳴る。 「フリーズ！強盗ですわ、この車両は私達が制圧しました、皆様艤装を着込むなどせず、有り金を要求してくれませんこと？」 続いて声、背を屈め、覗き込むとそこにはＡＫＭを構えた熊野の姿があった。 #地獄鎮守府の日常

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「今日は何の日ー！強盗の日だよー！」先頭車両からも銃声と子日の声、どうやらバカは二人居たようだ。 私は席に戻る。 「どうしましょう」 叢雲が困り顔になる。 「何とかできるかい？」 私はダメで元々、という気分で冗談半分に彼女に訊く。 #地獄鎮守府の日常

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熊野も子日も、艤装を着込んでいる。 だがこの車両内で艦娘としての武装を撃てば大惨事になる為、恐らく銃を使っている。 艤装の防御能力があれば一方的な立場を造れる、そしてその立場を利用しての威嚇で、金品を巻き上げるのが目的だろう。 #地獄鎮守府の日常

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流石の叢雲も、艤装無しで艤装を着込んだ相手を倒すのは難しいだろうと考えた時であった。 「そのぐらいなら出来るわよ、おびき寄せて頂戴」 叢雲は笑顔で、私に出来ると言い切った。 「出来るか、どうするんだい？」 「んー、ま、あの熊野をおびき寄せれば解るわよ」 #地獄鎮守府の日常

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叢雲は私に作戦の詳細を語らない。それほどまでに、自信のある手段なのだろう。 「解った、さてじゃあ……まぁ、お金をあげる、と言えば寄って来るかな？」 私はそう言いながら熊野の様子を見る。脅迫するも少し狼狽えてるようで、この手の行動の練度が低いのが伺えた。 #地獄鎮守府の日常

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「問題ないわね、やって頂戴」 叢雲がすまし顔で言う、なら、やる事は一つだった。 「降参だ、金やるから私だけ解放してくれ。ほらこっちに来てくれ」 私は大げさすぎず、少し、深刻さを含んだ様子で熊野に語りかけた。 「良い決断ですわね」 調子に乗る熊野。 #地獄鎮守府の日常

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彼女が金属質の床を踏み、艤装が椅子に多少掠る中、席まで足音が近づいてく。 バッグだけを席の外に置けとも言わない、彼女の隙だらけの行動。彼女が、私の席の前に来る。 「私が渡すわ」 そう言って叢雲は鞄を私から取り上げ立ち上がり、そして熊野に差し出す。 #地獄鎮守府の日常

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熊野が笑みを浮かべ、差し出された鞄を受け取った瞬間であった。 叢雲の掌が、彼女の顔面に激突する。 そして次の瞬間、ワンテンポ間を置いて熊野の頭部が破裂した。 艤装の無い艦娘でも確かに常人を超える体力を持つ。 だがそれでも身体能力にリミッターが架せられる。 #地獄鎮守府の日常

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艤装の無い状態の艦娘が、艤装を装着した艦娘を撃破、それも素手でと言うのは到底無茶な行動なのだ。 しかし、私の目の前で起きた光景は、頭部が破砕されて倒れる、艤装を装着した熊野。 そしてその返り血に染まる叢雲の姿であった。 「少し、服が汚れたわね」 #地獄鎮守府の日常

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唖然とする周囲に目もくれず、艤装を接続する叢雲。 「何をやったんだ？」 私は彼女に、問い掛ける。 「電磁障壁は無害と認識した相手を弾かない、それを利用して、そして発勁を浴びせただけよ」 叢雲の説明で、この前交戦した丹陽が、似たような技を行った事を思い出す。 #地獄鎮守府の日常

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「丹陽がやったあの技か」 「ええ、見よう見まねだけど、多少練習したら覚えられたわ」 得意げに話す叢雲、彼女はその手の武術に関しては天才的なセンスがあり、その手の才覚には驚かされる。 「じゃ、次はあの子日を潰してくるわ」 叢雲はそう言って先頭車両に向かった。 #地獄鎮守府の日常

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叢雲は熊野の死骸を子日に投げつけ、砲を向け脅す、そうすると子日はガタガタと震え、両手を上げ降参し、艤装を解除する。そうして彼女の手足を拘束し、艤装を窓から投げ捨て数分すると血まみれの叢雲は戻ってきて、席に座る。 「復旧まで数十分かかるそうよ」 #地獄鎮守府の日常

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不機嫌そうに語る叢雲。 「そうか、あの艦娘は何がしたかったんだ？」 だが、私にとってはあんな真似をした奴等が何者かの方が興味があった。 「ただの強盗よ、それも強盗失敗して逃げる途中に路銀稼ぎをしようとしたみたい」 #地獄鎮守府の日常

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叢雲の説明、つまりあの熊野と子日はバカの上に追い詰められてたと言う事であった。 「強盗も世知辛いものだね」 「ノワール映画を見ればわかるものよ、いくら金を稼いでもすぐ散財してまた同じ事を初めて、そしていつか撃たれて死ぬのが強盗よ」 叢雲は窓を眺める。 #地獄鎮守府の日常

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窓の空は既に黒く染まりつつあり、そして数十分経過すると、モノレールの電気が灯りまた動き始めるのであった。 #地獄鎮守府の日常

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モノレールを降り、血まみれになった叢雲の手を引っ張りながら体を洗える場所を私は探す。 「銭湯は嫌よ」 私に対し叢雲は語りかける。 確かに銭湯は危険だ、多人数が居る場所で服を脱いで大切なものを全部ロッカーにぶち込むからだ。 #地獄鎮守府の日常

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ロッカーには鍵は普通つけられる、だが、艤装を着た艦娘の筋力ならこじ開けられる。 そして風呂場に居るのならほぼ丸腰だ。 警備の艦娘が居たとしても撃ち合いになる可能性もあり、早い話がセキュリティ面に大きな不安があるのだ。 #地獄鎮守府の日常

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なので私はホテルをやっている区画を探す。艦娘の居住区をある程度開けて宿場として流用する区画はそれなりにあり、行商相手の儲けになる。 薄暗い金属質の壁と床に、パイプが張り巡らされ後付の電球が天井や壁にぶら下げられた世界を私と叢雲は進みながら、旅人に宿を尋ねる。 #地獄鎮守府の日常

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「宿かい？それなら僕も探してた所だよ。一緒についてっていいかな？」 旅人である、時雨改二は語る。 「ああ、別に構わないよ」 と私は同意し、三人で通路を進み、同じように旅人に話しかけ。そして何人かに聞いたところようやく信頼できる宿場の情報が取れた。 #地獄鎮守府の日常

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「そういえば、アンタの提督はどうしたの？」 そう叢雲は時雨に問う。 「提督、と言うんだ、おかしいね、他の叢雲なら司令官、と言うんじゃないのかい」 時雨は質問に、質問で返す。 「そういう呼び方も私はするだけよ、それでどうなの？」 叢雲は、さらりと答えた。 #地獄鎮守府の日常

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すると時雨は、左手を私と叢雲に見せる。その薬指には、指輪が嵌められてた。 「死んだよ、他の派閥に殺された」 時雨は重苦しい表情を浮かべる。 「そう、ごめんなさい」 申し訳なさげに、叢雲は答える。 それ以上の会話は、私達の間には存在しなかった。 #地獄鎮守府の日常