座敷鎮守府◆艦これSS◆その1

座敷犬 @zash_dog

8つの敵影が消し飛ぶ。上がる水柱。噴き出す蒼い炎。グリッドからも数秒遅れて赤い点が8つ消える。敵揚陸艦隊撃破。史実で発揮されなかった/有り得なかった圧倒的雷撃能力が遺憾なく発揮された結果だ。だが、これだけで終わるわけではない。入電。《此方陽炎！ 敵支援艦隊と接敵！》 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

#座敷鎮守府　

座敷犬 @zash_dog

「索敵情報反映――戦艦1、重巡1、雷巡1――更に潜水艦2！」オペレータの叫び。彩雲からの報告に無いイレギュラーの登場。周辺海域の潜水艦隊掃討の生き残りか、或いはずっと潜航していたか。いずれにせよ索敵を掻い潜られた。叢雲とか陽炎からは対潜装備がオミットされている。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「距離を離すんだ、出力限界を解除しても構わない」《もうやってるわ！ クッ、しつこい！》咄嗟の指示と、叢雲からの応答。激しい砲雷撃戦の音。ワイプは陽炎の視界へ。暗闇を照らす爆炎と、上がる水飛沫。その奥で、碧や朱の瞳が怪しく揺らめく。手招きされるような感覚。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「金剛、比叡、やれるか」《無理デス。daytimeならともかく、nighttimeじゃ陽炎たちに当たりかねまセン》《お姉様に同じく。もっと近寄れれば》「二人の救援に向かってくれ」《もう向かってマス！》後方で待機していた二人との通信。モニタ上のグリッドを睨む。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

全速力を出した金剛型は30ktを超える、されど移動する目標に対し十分な精度が得られる所までは最短で5分程度。二人より近い木曾と北上でも3分。更に。《キャアッ！》《陽炎！》「陽炎、8インチ砲被弾！判定中破、速力低下！」二つの点の内、一つの動く速度が大幅に落ちる。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

陽炎を沈ませまいと叢雲が動きを止める。このままでは拙い。最悪のビジョンが脳裏に浮かび――決断させる。「木曾！ アグリメント・モード！」《――承諾(アクセプション)！》シンクロナイズ。二人の叫びが重なり、視界が暗転する。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

灼けつくような痛みが左の薬指から奔る。暴力的な感覚が全身を砕き尽くし――感覚が替わる。隻眼の視界、その暗黒が取り払われ――右眼が琥珀色から蒼白に替わる。過去を灼き尽くす蒼く輝く炎。波と風を裂く轟音。艦と人の境が消え去る。これぞ結魂(ケッコン)の真髄。増速する。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

軋む躯体。苦痛を二つの魂で分け合う事で艦娘は常識を越えた戦いが可能になる。「おおおおおおおおおッ」魚雷を投射。宛らナイフでも投げるかのような感覚。決して止まらない。抜刀、腰の軍刀。すれ違い様、雷巡を横一文字に切り裂く。妖精に号令。バインダー標準装備の爆雷を投射。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

全弾投射。炸裂の水柱に怯まず突撃。重巡。8インチ砲弾の嵐。一発が外套に被弾。縫い付けられていたリアクティブ・アーマーが炸裂し、「俺」への被害を防ぐ。距離0、斬り掛かり――腕の艤装で受け止められる。ならば左手で殴るのみ。頭部に一発、二発。右脚で5500tのローキック。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

怯んでガラ空きの胴を刀が一閃する。一瞬、殺気とその顕現。飛び退く。巨大な水柱。右を見やる。戦艦ル級。怒涛の砲撃。拙い――「十分デース木曾、よく持ちこたえてくれマシタ。――Barrageッ！」「主砲！斉射！始め！」間に合った。視界から敵が掻き消える。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

周囲に敵影無し。「アグリメント・リリース」 宣言。「俺」が二つに切り分けられる。一つが二つに戻るこの時だけは激しい苦痛が、僕を僕足らしめる。嘔吐感立ち眩み痛み倦怠感その他諸々。司令室の冷たい床に僕は伏せる。事後処理は皆に任せよう。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

#座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「知っている天井だ」わざとらしく言う。尤も、ここに世話になるのは二度目だ。人工島の病院。10ヶ月前とは違い海軍管轄の物となっていたが、年季の入った石膏の天井に変わりはない。辺りを見渡す。周辺海域での負傷者が大分減ったお陰か、この病室の患者は僕一人だけのようだ。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

普段意識しない所に反映された戦果に感謝しながら、枕元の時計を見る。戦闘から8時間。今日は通常勤務であったから、今頃は木曾と正規空母の加賀が僕の業務を代行してくれているのだろう。元々指揮位しかできる事のない身で情けないものだ、と自責する。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

最初の来客たる看護師――尤も男性であるが――に問う。症状の診断は「強烈なストレスによるもの」らしい。やってきた医者にも確認し、明日の朝には仕事に戻れる事を知る。だがそれを待っているのは嫌だ、やれる事はやっておきたい。枕元の端末を弄り鎮守府のデータベースにアクセス。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

スライタスペンを画面に走らせ、電子印を指紋認証で済ませていると「呆れたわね、何の為の入院よ」聴き覚えのある声。空色の長髪を払い、叢雲が歩み寄ってくる。「まぁ、そんな事だろうとは思ったけど。はいこれ」万年筆と物理印、それに貯めていた書類。何だ、分かってるじゃないか。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「陽炎は？」書類を貰いながら聞く。「生身に怪我は無かったわ。艤装の破損が激しくて数日は出撃できないけど」何はともあれ、無事でよかったよ。「誰かさんがどこかの雷巡とシンクロして暴れ回ったお陰ね」木曾は？「問題無し。陽炎もピンピンしてるし、ダウンしてるのはアンタ位よ」 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

ならいいんだ。「何、不満なの？」この少女は鋭い。僕も隠し事が下手だが。「木曾は僕をどう思ってるんだろう」頭の中にズカズカと踏み込んでくる僕の事を。本人は口当たりの良い返答をするだろうけど。バカね、自分で聞いてみなさいよ。素っ気無く返し、特型駆逐艦五番艦は病室を去る。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

次にやってきたのは工作艦・明石。人間のエンジニアでありながら艤装と艦の記憶を取り込んだ特殊な艦娘だ。彼女には艦娘の修繕や新技術開発等を任せている。「シンクロナイズの件について、お話があって来ました」やっぱりか。その表情は繕われているが、暗さが見え隠れしている。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「結論を先に言うべきですね――シンクロナイズの多用は控えて下さい」やっぱりだ。理由を聞きたい。「提督と木曾さんの魂魄波長同調(ウェーブレングス・シンクロ)が上手く行ってないんです」フムン。「本来、結魂の際に提督の魂魄波長は艦娘の物に同調される筈なんです」 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「でも■■提督の場合、波長が異なるまま結魂が成立してしまったんです」明石曰く、全ての魂には独特の波長があるそうだ。数多くの人々の思念から成立する艦娘の魂はそれが極めて大きくなる。そのままでは提督と艦娘の魂の結合は弱くなり、十分なパフォーマンスを発揮できない。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

だが僕の場合魂の波長はそのままに木曾と結びついてしまった、と。「先程の戦いで、シンクロナイズのモニタリングをしました」明石は手にしたタブレット此方に見せながら説明してくる。「結合度は何の異常も有りません。寧ろ他の提督達より良い位です」グラフ上方に赤い線が引かれる。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「でも提督魂魄負荷値。まずは木曾さんの艦娘魂魄負荷値を」彼女が画面を弾くと、蒼い線がグラフ下部で横一文字に伸びる。「左側はシンクロナイズ前、右はシンクロナイズ中。本来は少し上昇する筈なのですが。――そしてこれが提督の魂魄負荷値」緑の線が斜め45度に上昇する。 #座敷鎮守府

座敷犬 @zash_dog

「提督、あなたはシンクロナイズの負荷を一人で背負っています」そんな事を言われても。「本来提督と艦娘の負荷値は全く、或いはほぼ同じような線を辿ります。また、同調効果によってその値は大きく減少します。――シンクロナイズは、本来もっと安全な行為なんです」 #座敷鎮守府