「千の想いを」~「千代田と天龍2」~
- mamiya_AFS
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もぞもぞと身をずらし、千代田が天龍の下から逃れる。相手も止めたりする事はなく、千代田は床に足を下ろした。すぐには立ち上がらずに、床をぼんやりと見詰めたまま動かない。天龍も何も言えずに、ただひたすらに気まずい空気が流れ続ける。 廊下から聞こえる声に、千歳の妹が顔を上げた。
2014-05-06 06:08:11廊下での会話が聞き取れたわけではないだろう。天龍の耳ですら、誰の発言かはわかるものの、はっきりと内容までは聞き取れない。こめられている感情はなんとなく読めるが。千代田の耳ではなんとなく騒がしいかな程度の筈だ。 殺気。 ふらふらと、艦娘の中で唯一人愛を拒む存在が立ち上がる。
2014-05-06 06:12:23ついさっきの声とは全く異なる、感情の伴わない刃物のような静止の言葉に、確かに千代田は足を止めた。しかしそれも2秒と持たずに、隻眼の相手を振り返る事すら無く無視して再び歩き始める。 夢遊病者のように、幽鬼のように、おぼつかない足取りで。 「お姉…」 妹は、誰を呼んでいるのか。
2014-05-06 06:22:05極端な話。 今すぐ世界が滅んで全ての人類が絶滅したとしても、千歳1人残っていれば千代田は構わない。 精神はきっと逃げるだろうが。 極端な話。 千歳1人がいなくなっただけで千代田は生きる意義を失う。 自殺等でせずにただ過去に逃げるだけだが。
2014-05-06 06:26:42ぴたりと。 さっきの停止よりも極端な動きで千代田が動きを止める。足だけではなく、凍ったように全身を硬直させた。 「な…に…?」 天龍の位置からでは彼女の表情は見えない。 耳を澄ます。樫野の声が聞こえた。あと少し。 黒髪の少女が算段を立てる。あと少し時間を稼ぐ術を。
2014-05-06 06:35:44天龍はベッドの上から動いていない。 動けない、が正しいか。本人が力づくに動くのが手っとり早いというのに強行していないのだから。今こうして意識を覚ました事自体が医学的には驚愕なのだ。艦娘だとしても、まだ立ち上がる事すら叶わない。 また動かなくなった千代田を右目だけで見詰める。
2014-05-06 06:44:18千代田は『選択』の最中は動けない。 答えが1つしか無かろうが、『選択』の間は数秒動く事ができない。何故なら彼女の『選択』は思考を利用してはいないから。 答えがある限り、やがては辿り着く。どういった経緯を脳内で辿っているのかは本人ですらわかっていないが、そういうものらしい。
2014-05-06 06:55:09普段の千代田であれば、聞き流すなり無い知恵を絞って悩むなり無視するなり笑って誤魔化すなりが可能ではある。 自動選択モードとでも呼べがいいだろうか。不安定である時、彼女は考える事を恐れ放棄し、無意識に『選択』で行動を決める場合が多い。 ましてや選べと言われれば、それは絶対となる。
2014-05-06 06:58:59この部屋に、時計は無い。 千代田が首だけを動かして部屋の中を見回す。 この部屋に訪れるまで退行していた彼女だ。時間の認識は曖昧だろう。 4つ目の質問にして、長考が入る。 天龍としては足止め成功ではあるが、これは危険な賭けであるとも彼女は承知していた。
2014-05-06 07:02:03答えの存在しない『選択』はさせられない。 絶対にさせるわけにはいかない。 天龍としても千代田の病症と『選択』のシステムを完全に理解しているわけではない。いや、千歳や千代田本人ですらあやふやな部分が多いのだ。能力や特技と呼ぶには余りにも不安定で不確実な技能でしかない。
2014-05-06 07:04:28太陽の位置。 そこから算出したらしい。どういった計算をすれば分はおろか秒数まで出るのかは天龍には全く理解できないが、千代田とて頭の中で計算をしたわけではない。 ただ『選んだ』だけだ。 実際には1分12秒の誤差があったが、究極に完全でもないのが彼女の能力だ。
2014-05-06 07:10:59