花子とアンと戦争協力

「今度、政府が幼少年の読物の浄化運動に乗り出したことは大変結構なことだと思います」(村岡花子)
98
中島岳志 @nakajima1975

1938年1月1日の『婦人新聞』誌上に掲載された座談会「事変下に於ける子供の導き方」で、村岡花子は「戦争は国家の意思」であり、「個人的心理的な観方」を滅却せよと訴えています。同時代のナチスに対しても好意的。「花子とアン」は、この辺りをしっかり描いてほしいと思っています。

2014-08-03 16:46:07
リンク twitter.com 中島岳志 (nakajima1975) on Twitter The latest from 中島岳志 (@nakajima1975). 北海道大学大学院法学研究科准教授。インド政治や近代日本の思想史を研究しています。. 北海道札幌市
中島岳志 @nakajima1975

村岡花子「児童読物の浄化」(『婦人新聞』1938年1月20日号)では、「今度政府が幼少年の読物の浄化運動に乗り出したことは大変結構なことだと思います」思想的検閲による発禁処分を肯定し、「今までどうして放つておいたのだと叱りたいところです」と述べています。

2014-08-03 16:58:49
中島岳志 @nakajima1975

1930年代以降の村岡花子の文章を「発掘」していると、やはり強烈な発言がどんどん出てきます。『婦人新聞』1941年9月21日号に寄せた文章では、「大日本婦人会」の活動に対して強く「協同一致」を求め、「自我を滅した御奉公であるやう」求めています。

2014-08-03 16:40:36

大日本婦人会

"第2次世界大戦中、政府・軍部の主導で組織された婦人団体。おもな事業は、出征兵士の送迎、防空訓練、竹槍訓練、貯蓄奨励、戦時生活確立運動などで、国民生活のすべてを統制・支配した。"
https://kotobank.jp/word/大日本婦人会-91837

「はだしのゲン」から。有名な場面ですね。

中島岳志 @nakajima1975

村岡花子の1930年代以降の発言をツイートしましたが、私は花子をリベラルな観点から叩きたいのではありません。「ナミダさん」のような童話と大東亜戦争に熱狂した心性の連続性を追究したいのです。花子は転向したのではありません。彼女の心温まる童話と全体主義はつながっています。

2014-08-03 17:30:53
中島岳志 @nakajima1975

私は香取信吾さんが主演した大河ドラマ「新撰組!」が好きです。それは明るく純朴な男たちが、状況の中で狂気を帯びていく様を、ユーモアと悲しみを同居させながら描いていたからです。「花子とアン」は、戦前・戦中を生きた村岡花子を通じて、複雑な苦悩と悲しみを描いてほしいと思っています。

2014-08-03 17:36:47
中島岳志 @nakajima1975

私は村岡花子の複雑な悲しみに惹かれます。朝ドラがポピュラリティを意識しすぎることによって、花子を「わかりやすさという名の単純化」に回収しないでほしいと願っています。「花子とアン」が安易な感動に終わらない名作になることを、期待しています。

2014-08-03 17:48:03
中島岳志 @nakajima1975

正】村岡花子の発言の出典は『婦人新聞』ではなく『婦女新聞』です。書き間違いました。この雑誌(新聞)は若き日の下中彌三郎が記者を務めていました。下中と花子は『婦女新聞』の記者・執筆者として知り合い、のちに下中がはじめた平凡社から『王子と乞食』を出版することになります。

2014-08-03 19:03:09

参考資料

村岡花子が所属していた日本キリスト教婦人矯風会について取り上げた論文(第12回マンガ評論新人賞奨励賞)も併せてお読み下さい。矯風会は戦前から現在に至るまで検閲を推進する"浄化運動"を展開。近年は警察と一体化し、漫画に対する法的規制を求める運動を実施しています。

「マンガ包囲網/政官業民一体で推進される表現規制の多重構造」(高村武義氏)
 

戦前の表現規制が、初めは「エロ・グロ」の取り締まりから始まって、そのうちに新聞記事とか、写真や放送の規制にまで広がっていったことを、つい昨日のように思い出します」(ちばてつや氏/漫画家)

「表現の自由守れ-戦前生まれの僕の警告 ちばてつやさん」(2013年7月21日、赤旗)