【広島の「記憶」】

屋代 聡 @yashirosatoru

徒然草―8月6日

屋代 聡 @yashirosatoru

原爆の投下は絶対悪だろう。しかしながら原爆の被害者を悼むことと、原爆について考えること、原爆について記憶する事は違うはずである。いつも学生にいうことだが、書いておこう。

屋代 聡 @yashirosatoru

誤解のないように、もう一度言う。原爆投下は必要なかったし、それは絶対悪だ。 それでも次のツイートをしよう。私たちは既に「過ちを繰り返している」のかもしれないと思うからだ。

屋代 聡 @yashirosatoru

【広島の『記憶』】

屋代 聡 @yashirosatoru

原爆の投下は絶対悪だろう。広島が戦争時に初めて原爆が投下された都市であり、数十万の無辜の民が殺され、生き残った者も深刻な原爆症を患ったことには異論の余地がない。 しかしながら原爆を憎み被害者を悼むことと、原爆について考えること、原爆について「記憶」する事は違うはずである。

屋代 聡 @yashirosatoru

それゆえ広島が、大量破壊兵器を根絶する運動の中心にあって当然であるし、戦後70年近くたった今、広島＝平和都市、この図式は世界中の人々に定着している「事実」といって差し支えないだろう。　

屋代 聡 @yashirosatoru

しかし考えてみるべきなのは、1945年8月6日まで、広島は平和都市でも何でもなかったということである。むしろ、そこは日本最大の軍都であった。わが国の本格的なアジア侵略は、1894年の日清戦争から始まる。この時大本営が設置されたのは、広島城内なのである。

屋代 聡 @yashirosatoru

1894年9月から翌年5月まで、明治天皇自身がここに滞在し、侵略戦争の最高責任者として君臨したのである。帝国議会もここで開催された。このことを今、どれほどの日本国民が記憶しているだろうか？広島市民でもほとんどが知らないのである。　

屋代 聡 @yashirosatoru

日清戦争の主力部隊として戦った師団の１つは、広島の第5師団である。だから広島にも「日清戦争凱旋碑」が建てられた。頂上部は金属製であったが、第二次大戦下の金属供出の際にも、これは撤去されなかった。 広島は別格の軍都。それが1945年8月6日までの、日本人の「記憶」なのである。

屋代 聡 @yashirosatoru

もちろん原爆によって広島城天守閣も、大本営も吹きとんだ。しかし広島市は天守閣を再建しても、大本営の建物を再建しなかった。今でも城内に大本営跡はある。傍らにポツンと石碑と説明文が佇む。宣伝されないから広島市民でさえ、その所在を知らない。訪れる人はほぼ皆無である―負の記憶の抹消。

屋代 聡 @yashirosatoru

また「日清戦争凱旋碑」は原爆による倒壊を免れた。 では市民はどうしたか？アメリカ軍の糾弾をおそれ、何と碑文をセメントで塗りつぶし、あろうことか、その上に「平和塔」と刻んだのである。 残念ながら、あからさまな歴史の隠蔽・ねつ造が、ここにはある。

屋代 聡 @yashirosatoru

戦後、広島は平和都市として再出発した。その事はいい。当然のことだ。しかし生き残った広島市民が日本軍によるアジア侵略という過去の歴史、特に広島が果たした役割を正視してきたのかといえば、そう言い切れないと思う。

屋代 聡 @yashirosatoru

8月に入れば広島は原爆の記事、ニュースに溢れる。あまりにいたましい証言の数々だ。 しかし8月6日が取りあげられ、原爆に関する語りが溢れれば溢れるほど、これに比例して広島がアジア侵略において担った役割は忘れ去られる。広島は「8月6日の被害者」としてのみ記憶されてしまう。

屋代 聡 @yashirosatoru

亡くなった広島市民に責任はない（と学問的に厳密にいいきれるか自信はないが、責任を問おうとも思わない）。 しかし今、原爆の被害「だけ」を伝えるメディアと、これに同調する市民は、歴史の抹消・改ざんに手を貸してしまいかねないことを自覚するべきではないだろうか。

屋代 聡 @yashirosatoru

歴史に学ぶということは、実は、こういうことだろうと思う。 平和を説く言説や原爆被害の「記憶」「再記憶」が、侵略の記憶を抹消することとセットとなっていることに鑑みれば、私たちが考え続けなければならないのは一体何なのか。 その終わりなき問いかけにこそ、学ぶ。

屋代 聡 @yashirosatoru

確かに広島は原爆の被害者だ。これは絶対的な事実だ。 しかし侵略の先鋒、加害者の側面も、かつて確かにあった。 そして広島がその「侵略の記憶」を忘却してしまっているなら、その平和宣言はどのあたりまで届かせることができるだろう。

屋代 聡 @yashirosatoru

8月15日に平和への祈りと、戦争への反省と、先人の鎮魂を共有せんとする日本の市民であればこそ、もう一度、皆が考えるべき問題だと、僕は思う。 8月6日の「記憶」を。 私たちが繰り返してはならない「過ち」を。（了）

屋代 聡 @yashirosatoru

以上です。「歴史」というものに真剣に向き合う方には誤解なく伝わると、信じています。