残ったものは、無力感だけだった。 「……壊すことを教えるんじゃなくて、作ることを教えたいんです。だから、先生になりたいんです」 「……考えてますね」 「そういう提督はどうなさるのですか?」 そう水を向けると、提督は困った顔をして、言った。 #彼女たちの戦後
2014-08-06 01:28:57「さあ。故郷に帰って親の脛でも齧ろうかと思います」 「えっ、退職されるのですか?」 「……英雄は必要ない、って事ですよ」 そう言って、肩をすくめて見せた。くすり、と鳳翔はおもわず笑った。 #彼女たちの戦後
2014-08-06 01:30:42「……どうして、ここに」 目の前の「元」提督は、酒が抜けきった顔で狼狽している。見られたくないものを見られた、というバツの悪い色も見えた。 「……私は先生になりました」 思わず、鳳翔は提督を睨みながら、言った。 #彼女たちの戦後
2014-08-06 01:33:29「……おめでとう」 そう、戸惑った表情のまま、提督は続けた。それにさらに鳳翔は怒りを募らせる。 「……仰った通りのことをなさっているのですね」 「……恩給の範囲だから脛は齧ってないぞ」 その言い訳がましい言葉を聞いて、再び提督を睨む。 #彼女たちの戦後
2014-08-06 01:35:46「……何に、君は怒っているんだ?」 そう聞かれて、鳳翔は思わず声を荒げた。 「知りません!自分でお考えになったらいかがですか?! 『提督!』」 #彼女たちの戦後
2014-08-06 01:37:34酒で鈍った頭で、昔のことを思い出す。戦争当時のことを。海軍航空隊でF-35Bに乗っていた時のことを。 畳の上にどたんと寝転がる。頬にあたるいぐさの感触が、心地よい。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:20:20エンジン音が聞こえる。P&W F135の唸り声。HMDつきのヘルメット内部でのオペレーターの怒鳴り声も、段々と蘇ってくる。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:22:32「敵機集団をレーダーで捉えた。散会していない」 クラッターではない、と判断し、ミサイルに情報を入力。ぐりっ、と発射スイッチを押し、ブドウ弾などと呼ばれる弾頭を装備したAAM-4が機から離れていくのを見る。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:29:51「艦娘連中に任せとけばいいだろうよ」 僚機がそう茶化したように軽口を叩く。それだけを聞けば緊張がほぐれただろう。 「バカ言え、居たら俺たちが上がってねえよ」 悲しいかな、今では戦闘機は空の添え物であった。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:32:36ミサイルを撃って、そのままUターンして引く。深海棲艦の空母を狩るのではなく、小弾子をぶちまけて、航空機というにはあまりに小型な敵艦載機をズタズタにして数を減らすだけ。ドグファイトなし、ミサイルに追い回されてチビるの無し。それはそれで結構なことではある。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:36:49もっとも。そんなことを考えていられたのは撃墜されるまでのことだった。 エアインテークに飛び込んできたコウモリのような敵機、内部で破裂音が響き渡り、そして。 コクピット全体に響き渡る、敵の哄笑。フェイスカーテンハンドルを引き、脱出。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:39:323日3晩海を漂い、そして艦娘に救助されたその後。彼はパイロットとして使い物にならなくなった。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:41:09「……助けてくれたのは誰だ?」 病院のベッドで口が開くようになったその時、一番に出てきたのはその言葉だった。 「空母艦娘を教導していた鳳翔だな。運が良かったよ、お前」 そう言われて、彼は一人、泣いた。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:43:27結局、彼がパイロットとして使い物にならなくなったのは、精神的にダメになったのだ。空を飛ぶのが怖くなった。それだけである。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:45:11ただ。敵への憎悪だけが激しく燃え上がった。空を飛べなくなった怒りが、彼を、深海棲艦の殲滅へと駆り立てた。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:52:50では、それを倒した後は、と問われれば。 彼は、提督と呼ばれていた男は、抜け殻になった。空を飛ぶことだけに憑かれ、そして次は憎悪に憑かれ。憎悪の対象がなくなった彼には、満たすものが何もなかった。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:55:31隙間を埋めたものは何か。それは人ではなく、酒だった。悪い酒なのは、もちろんわかっている。だが。 「ああ、うまいなあ」 思わず、つぶやく。隙間を埋めるために飲む酒は、美味い。あまりにも、美味い。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 16:57:36濁った目で、外を見る。そこに立っていたのは、ある女性だった。どこかで見たような、と目を眇めてみるが、酒でよく見えない。 ふらつく足で外に出て、顔を見る。そこには。 落ちた自分を助けてくれた女性の顔が、鳳翔の顔があった。愕然としている。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 17:02:09なぜ怒っているのか、と問えば、自分で考えろ、と言われる。 怒りたいのはこっちだった。なぜ、あそこで助けたのだ。運がよくなんか無かった。空を飛べないなら、生きている価値なんか無かったのだ。勝つ意味なんか無かった。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 17:03:53逆恨みなどということはわかっている。泣きそうになりながらテーブルに戻り、一升瓶を見て、それをぐいい、と口にあてがい、飲み干した。 「ちくしょう、うめえなあ」 悪い酒ほど、うまい。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 17:04:58修正 もっとも。そんなことを考えていられたのは撃墜されるまでのことだった。 エアインテークに飛び込んできたコウモリのような敵機、内部で破裂音が響き渡り、そして。 コクピット全体に響き渡る、敵の哄笑。ハンドルを引き、脱出。 #彼女たちの戦後
2014-08-17 17:10:01何の話だっけ。あ、 #彼女たちの戦後 ってアレで鳳翔さんの話を更新しました。まあ、読んでる人がいるかどうかですけど。
2014-08-17 20:17:42