【邪悪の樹】第一戦闘フェイズ――第二の樹

『智の剣』陣営『物質主義』(@Evil_Quim) 『理の盃』陣営『拒絶』(@ev_sher
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武殿仁将 @rp_20kw

 扉の向こう、暗い通路を抜けた先には、荒涼とした町があった。  否、既に町とは呼べない──人の気配はなく、建物は崩れかけたものが点在し、時折風に煽られて砂塵が舞い上がるそこは、まさしく廃墟だった。 「──ふぅん」  開いている右目を眇める。一人。一人だけ、人の気配を感じたのだ。

2014-08-18 16:05:15
武殿仁将 @rp_20kw

 眼帯の左右は定期的に入れ換えている為、片目だけ視力が低下した、という事態にはこんにちまで陥っていない。無論、焦点は少しだけ合いづらいが──それでもその目は、自分とは異なる雰囲気を持つ人間の姿を見出だした。  にやり、と笑い、近づいていく。 「よォ──あんたが『異性』って奴か?」

2014-08-18 16:08:37
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

浴室に戻った『物質主義』は、湯船の「扉」を覗き込む。先程は平板状をしていたそれは僅かに波立ち、ゆらゆらと光を反射していた。手を入れて、肘まで腕を差し込んでも一向に底に着かず、液体の感触だけが返ってくる。

2014-08-18 16:38:12
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

ふむ、と一瞬考えた彼は腕を引き抜き、次の瞬間ためらいなく「それ」に向かって飛び込んだ。金属でさえあるならば、けして『物質主義』を傷つけない。

2014-08-18 16:40:01
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

風を感じて目を開けば、あたり一面に死骸があった。去った主を待ち続けて死んだ家の残骸が、視界の果てまで続いている。さてどうしようかと独りごち、ふらりと歩いていると、視界の端に動くものが見えた。どうやら、人間のようだ。

2014-08-18 16:40:07
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

眺めていればそれはこちらに気づいたようで、笑みを浮かべて近づいてくる。色も衣服もちぐはぐなその人間は、しかし仲間たちの身体より丸みを帯びている。 「どうやらそうみたいだね。」 投げられる問い。仲間より滑らかな質をした声に、彼もにこりと笑って応じた。

2014-08-18 16:40:32
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「はじめまして、僕らの『異性』。僕は『物質主義』」 芝居がかった仕草でひとつ礼をする。自分より背の高いその『異性』に銀でできたバラを差し出した。 「こういう花なんかは、僕らはあまり好まないけれど。君たち『女性』はお好きかな?」

2014-08-18 16:41:28
武殿仁将 @rp_20kw

 目の前の人間は、穏やかそうに見えたがやはりこちらの屋敷にいた彼女たちとは違い、たおやかさより精悍さを思わせた。──これが『異性』。『男』。しかし、雰囲気の違いを別にすれば、『人間』という形としてはほぼ同じようだ。殺したら死ぬのだろう。

2014-08-18 17:41:49
武殿仁将 @rp_20kw

 殺すべきか、殺さぬべきか──手紙には「殺せ」とあっただろうか、「倒せ」とだけで殺さなくとも良かっただろうか。記憶を辿りつつ、拒絶は差し出された金属の花に目をやる。 「……花、ねぇ、」  残酷あたりは興味を持つかもしれない。不安定、無神論、無感動にもきっと似合うだろう。だが、

2014-08-18 17:42:35
武殿仁将 @rp_20kw

「残念──悪いが、そいつを貰うのは『拒絶』させてもらおう」  肩をすくめて、両手を広げた。 「なにかしら武器だの本だの、ごついのが面白かったかねえ──他の奴らなら興味があったかもしれねえが」  まあもし他のに会う機会があれば試してみろよ、などと嘯く。

2014-08-18 17:42:46
武殿仁将 @rp_20kw

「そもそも、自分が好まないのを人にやるのはどうだ……と言いたい所だが、まあわからんでもない。屋敷じゃあそういう好みの方向性は他に比べて明後日向いてる方だったんだが、あんたらの方だと案外合うかもな。……あーでも好みを理解されるのは『拒絶』したいしなぁ」  目を伏せてぶつぶつと呟く。

2014-08-18 17:43:09
武殿仁将 @rp_20kw

 しかし、まあいいや、と打ち切って、改めて相手に向き直った。 「どのみち、『敵』からものを受けとるってのは些か不用心だからな──薔薇のとげには毒がある。なにかくれるっつーならそう、繊細でたおやかな物体じゃなく、鮮烈なほどの覚悟を寄越せ」  言い忘れたが、と凄絶な笑みを浮かべる。

2014-08-18 17:43:35
武殿仁将 @rp_20kw

「名前は『拒絶』──おまえの存在を頭から爪先まで、精神から心まで、善悪美醜正誤生死是非好き嫌いに関わらず、完膚なきまでに『拒絶』してやる」

2014-08-18 17:52:17
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

可愛らしいだけの飾りは好みではなかったようだ。『物質主義』は失望する様子もなく、拒絶をあっさりと受け入れて差し出した花を引っ込める。武器や本に食指が動くのなら、とげすらない薔薇の花など面白くもないだろう。ならばどんなものがわくわくするだろうか。考える。すぐに答えが出た。

2014-08-18 20:26:01
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

あたりを見回しながら花びらを一枚つまめば、銀色の質が変わる。僅かにくすんだそれを抜き、少し離れた水だまりに投げ込んだ。水面で火花が散り、直後、どおん、と爆発。 「もしかして、君にはこっちのほうが面白かったかな、『拒絶』」 銀の花なんかよりずっと、派手で過激で危険なもの。

2014-08-18 20:26:12
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「全部を拒絶されてしまうのは、少しさみしい気がするね。」 敵意とも受け取れる『拒絶』の言葉にはそう返し、しかし小さく顔をほころばせる。 見て聞いて嗅いで舐めて触れて話して――知らなければ拒絶はできない。認識されないよりずっといい。

2014-08-18 20:26:29
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「ね、僕を『拒絶』するっていうなら、ひとつ教えてほしいことがあるんだ」 眼帯に覆われていない方の目をまっすぐに見上げる。 「僕の肉体(からだ)はここにある。君の肉体(からだ)もそこにあるね?」 ぼく、と己の胸を指差し、きみ、と『拒絶』の胸を指差す。

2014-08-18 20:26:48
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「物質(からだ)は確かに存在する。『禍罪』(ちから)も確かに宿ってる。それじゃあ心や精神は、僕らのどこにあるんだろう。」 戯言のような問いかけ、しかし揶揄いの色はない。 瞳に浮かぶ懐疑と不安。紡がれる言葉は不信。

2014-08-18 20:27:07
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「ねえ『拒絶』、君は知ってる?」 縋るように、あるいは探るように笑いかける。 「知っているなら教えてほしい。納得できたら勝ちだって譲ろう。  知らないのに拒絶するなら、もしもそんな軽い『拒絶』なら、 僕は断じて受け入れない」 『拒絶』そのものを拒絶しようと、傲慢にも言ってのけた。

2014-08-18 20:52:52
武殿仁将 @rp_20kw

「ふふ──花火はなかなか面白そうだ」  楽しげに歪ませた口は、だがすぐに一つ息を吐き出した。 「しかしお次は禅問答か。なるほど『物質主義』、名前に違わぬ『在る物』へのこだわりようだ。──だがな」  軽く首を傾け、威圧気味に言い切る。

2014-08-18 22:50:38
武殿仁将 @rp_20kw

「くだらねえ。てめえが今自分の意思で喋ってる事こそが何よりの証拠だろうが」  片手を、なにもない宙をかき混ぜるようにくるりと回す。 「おまえは窒素や酸素を意識して吸ってるのか? おまえの声はどんな色をしている? 風はどこから生まれてどこで死ぬんだ?」  答えてみろよ──と続けた。

2014-08-18 22:51:08
武殿仁将 @rp_20kw

「心や精神はおまえの行動、言動、感情を突き動かす燃料だ。具体的に動けなかろうが意思を表明しなかろうが、自我がある限りそいつは着いて回る。いいか、大事な事を教えてやろう」  ずい、と人差し指を突きつける。 「心や精神が本当に存在しない奴は、その在処がどこかなんざハナから悩まねえよ」

2014-08-18 22:52:02
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

「…………」 一気呵成に言い切られた『拒絶』の言葉に、『物質主義』は反応を返さなかった。 濁流のように言葉が肌を叩く。意思に満ちた仕草と表情が鮮烈に目を射貫く。突きつきられた人差し指が『物質主義』の瞳の奥、こびりついた懐疑をまっすぐに撃ち抜いた。

2014-08-19 22:27:57
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

目をまん丸く見開いて、ぽかんと薄く口を開けて。丸められていた背は気圧されのけ反り、細められていた瞳が『拒絶』の姿をいっぱいに映す。 小さく唇が震える。はく、と動いた。言葉にならない。応えが見つからない。 表情ひとつも操れぬほど、言葉ひとつも返せぬほど、彼は『拒絶』に呑まれている。

2014-08-19 22:28:37
【物質主義】(キムラヌート) @Evil_Quim

微塵も揺らがない『拒絶』に呑まれ、『物質主義』は疑いを見失った。 彼にに己を信じ続ける強さはなく、いつか再び懐疑に苛まれるだろう。 けれど『自由』も『記憶』も、その問いの答えにはならない。彼女が今、教えてくれた。 大広間で感じた渇望が、胸の内から消えているのを感じた。

2014-08-19 22:34:21