【邪悪の樹】決闘フェイズ――贄の樹

『智の剣』陣営『貪欲』(@ToEvil_yuina) 『理の盃』陣営『愚鈍』(@nowalu
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『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

扉を開け、一歩を踏み出す。瞬間、『貪欲』の目の前の景色は様変わりする。雨の降りそうな曇り空と、傾斜のある地面。視線の先、ストンと切れた其処を覗き込めば壁と窓とが見え、己の立つ場所が屋根の上であることに気がついた。 視線を滑らせる。下は、まるで湖であるかのように水で満たされている。

2014-08-29 20:45:37
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

落ちたら死にそうだ。『貪欲』は自嘲気味に笑って、窓の内側を見遣る。中は、見たことのある風景だ。直ぐにそれが『智の剣』の屋敷であると気がついて、『貪欲』は空を見上げた。 「……『欲しい』もの、か」 呟きは、まるで途方に暮れたよう落ちる。揺らぐ金の瞳。赤髪が、風に揺れる。

2014-08-29 20:45:48
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「おぉ……お?」 貰った食べ物を腹に放り込み、迫る激闘に闘志を滾らせる『愚鈍』を待ち受けていたのは、何処か見覚えある光景だった。 何処かの屋根の上、というのは広がる曇天と傾く重心が教えてくれている。ただし、肝心の場所が何処か。 答えは、真横の窓に映っていた。 「屋敷……」

2014-08-29 21:41:38
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

中に広がっている懐かしい光景。つい先ほどまでいた屋敷とは違う。もっと前からいた場所。 男だけがいた、屋敷の方だ。 「『貪欲』……『色欲』、『醜悪』……』」 先ほどまで一緒にいた『物質主義』を除く、ここで共に過ごした仲間。彼らはその後どうなっているのだろう、そんな疑問が漸く駆け巡る

2014-08-29 21:41:44
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

ーーその答えの一つは、すぐに見つかった。 重い頭をぐるりと回した先に、視界に入る見知った人影。橙のような赤が風に揺れている。曇天の下だと、より目立つ色だ。 「『貪欲』……?」 鼻が、嗅ぎ取る。視界だけではなく嗅覚も、『愚鈍』に同じ情報を与える。 すぐそこにいるのが、彼だと。

2014-08-29 21:41:49
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「『貪欲』……!」 傾く屋根の上をガチャガチャと騒ぎ立てて走る。 途中、屋根の下に囲むように張られている水を見やる。そこには、何処か心ここに在らずといった出で立ちの『貪欲』、に駆け寄る自分。 何かが胸をくすぐるが、それでも彼に駆け寄るしかなかった。

2014-08-29 21:41:57
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

ぼうっと空を、蠢く灰の雲を見続けていた。雨が降ったらどうしよう。此処には身を隠す場所が無い。屋敷の床は、見える限りでも水に浸かっていたから、『貪欲』には入れない。困ったな、と呟いて、ふと聞こえた足音に視線を下ろした。ガシャガシャと、けたたましい大きな音。いったい何だ、と瞬いて。

2014-08-29 22:03:25
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「……『愚鈍』」 音のした方へと顔を向ける。呼び声も、視界に入った巨体も、知ったもの。かつて『智の剣』であったもの。かつて仲間であったもの。そして——失ったもの。 『貪欲』はそちらへ身体を向け、目を細めた。そこには闘志も殺意もなく、ただ穏やかに凪いだ金色で、彼は静かに話しかける。

2014-08-29 22:03:35
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「無事、とはいかねぇか。でも、元気そうだな」 ——良かった。 それは、まるで未だに『愚鈍』が仲間であると言うかのような、優しげな声だった。

2014-08-29 22:03:59
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「『貪欲』……」 振り向いた彼は、別れたあの日と変わらぬ様子で、優しげに声を掛けてきた。 いや、あの日と変わらないというにはとても穏やかだ。波風立たぬ水面の様に、静かだ。 だが、愚かで鈍間な自分だ。もし彼が何か変わっていたとしてもそこに確証は持てないと考えを打ち消す。 「う、ん」

2014-08-29 22:12:47
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

代わりに頷いて、それから「『貪欲』は……?」と返した。 続く「元気?」は胸に飲み込む。元気でないかもしれない相手に、そう聞くのは何だか謀られた。

2014-08-29 22:12:51
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

『愚鈍』は、動きも、声も、話し方も、かつてと同じであった。『貪欲』はそれに、変わらぬことに安堵した。 「俺?ああ、元気だ。怪我も無いし、気分も悪くねぇ。……お前にまた会えて良かった、『愚鈍』」 声は静かに、落ちるように紡がれた。

2014-08-29 22:29:20
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「……俺も、よかった」 精一杯に巨大な両手を挙げる。喜びを示したいようだ。 「『貪欲』、ほんとに元気なら、良い」 少しだけ、やはり拭えない不安感を突っつきながら笑顔を作る。自然とセリフから懐疑的なニュアンスが漏れてしまっていることには気付いていない。

2014-08-29 22:34:55
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

喜ぶように上げられた両手。感情を身体ごと表現しようとするのも、相変わらずであるらしい。 『貪欲』は笑った。『愚鈍』につられるようにして、笑った。 「元気さ。本当に」 そこに嘘は無い。怪我もしていない。体調も悪くない。確かに『貪欲』は元気だ。 しかし。

2014-08-29 22:54:01
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「だが……そうだな、なんて言えば良いんだろうな」 『愚鈍』から齎される感情——此方を案ずるかのような不安の気配に『貪欲』は眉根を下げた。視線を落とし、辺り一面を埋め尽くす水へと目を遣って。 「失くなっちまったんだ、『理由』が」 ——お前を殺す、『理由』が。 そう、呟いた。

2014-08-29 22:54:32
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「り、ゆう……?」 『貪欲』から放たれた言葉に首を傾げる。静かに添えられた言葉は、自分を殺す理由ときたもんだ。その言葉でやっと『愚鈍』はここに来た意味を思い出した。 そしてもう一度『貪欲』の言葉を咀嚼し、笑顔を浮かべた。 「じゃあ、戦わなくて……いい?」 にたぁと嬉しそうに。

2014-08-29 22:59:46
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

返される言葉に頷く。 「ああ。戦わなくて良い」 俺の、負けで——そう言いかけて、口を噤む。脳裏に仲間の姿が浮かぶ。『醜悪』と『色欲』。あの二人は、きっと外へ出たい。生き残りたいだろう。『貪欲』には、もはや生への執着も無いけれど。

2014-08-29 23:05:42
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

フゥ、と息を吐く。瞼を下ろす。そして再び開かれた金色は、変わらず穏やかな光を放ったまま。 「少し、話をしねぇか、『愚鈍』」 そう提案した。

2014-08-29 23:05:45
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「う、ん……?良いよ?」 『貪欲』と戦わなくて良いという情報に小さく手を挙げ喜ぶ。 『愚鈍』は、彼を倒さなくてはここから出られないことに気付いていない。 「話そ、う」 そう言えば屋敷ではどれぐらい話しただろうか、記憶があまり保たない愚かな自分では覚えてはいないのだが。

2014-08-29 23:12:28
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

次からは覚えておこう、と身を乗り出して真剣な眼で『貪欲』に向き直る。 そして目線を合わせやすいように、ドスリと腰を落ち着けた。

2014-08-29 23:12:33
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

『愚鈍』が腰を下ろしたことで、先程より目線が合わせやすくなる。本当にお前はデカいなぁ、と言いたくなる愚痴を飲み込んで、代わりに溜息を吐いた。 「なあ、『愚鈍』。『物質主義』は元気か?そっちにいたんだろ?」

2014-08-29 23:58:07
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「う、ん」 『貪欲』の問いに対し、大きく頭を縦に振って肯定。つい先ほどまで見ていた『物質主義』の様子を思い出す。 「元気そう……だった」 しかし出てくる言葉はそれだけ。特に語るところが見つからない。 強いて言えば前より明るかったような気もしてきたのでまた強調するよう頷いた。

2014-08-30 00:04:41
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「そうか、良かった」 力強い肯定に、ホッと息をついた。『物質主義』はおそらく今頃二人と戦っているだろうし、『貪欲』は既に生き残る気概がない。もう二度と会うことはないだろう。だから、過ぎたことなど聞いても仕方が無いとは分かってはいても、その言葉は『貪欲』を安堵させるには十分だった。

2014-08-30 00:36:15
『不安定』インスタビリテート @ToEvil_yuina

「……悪夢は晴れたか、『物質主義』」 柔らかく金色を細め、顔を俯けて小さく呟く。それは誰にも届くことなく消える、祈りのようなものだった。 顔を上げる。『愚鈍』の目を真っ直ぐに見つめ、尋ねる。 「お前は、この戦いの果てに何が欲しいんだ?」

2014-08-30 00:36:19
『愚鈍』エーイーリー @nowalu

「俺か……?」 何の障害もなく、此方を射抜く金の瞳に口を結ぶ。 欲しいものとははて、と考えて、やはりこれだけだと笑う。 「お墓。二人のお墓を立てなく……ちゃ」 ぐっ、と親指をたてる。今の自分にある願望と言えばこれだけだ。 「『貪欲』は……?」 ただ純粋な想いで首を傾げる。

2014-08-30 00:48:16