稲川淳二のつぶやき怪談　2014年8月27日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

声は土田さんのすぐそばで、 「こっち、こっちよ」 と呼んでいるようなんですが、姿はない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

白い服を着た土田さん、ひとりだけ。 どうやら土田さんには、その相手の姿が見えているらしいんです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「こんなことってあるのか？」 まるで催眠術に操られているようなんです・・・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

土田さんは夢中になって段々と淵の深みに入っていく。 背中から太もも、太ももから腰まで。 段々とはいっていく・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「こっちこっち・・・・はやく、はやく・・・・」 誘っている声がする。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『そうか・・・・怨霊のやつ土田さんを深みに誘い込んで命を取ろうとしているんだ』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『そうはさせないぞ・・・・』 先生は岩陰かに身を隠すようにして、淵のほうに、ソーッ、と近づく。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

また声がする。 「早く、早く・・・・」 急かされて土田さんはだんだん深みに進む。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

もう胸のあたりまで浸かり、これ以上はまずいと思った和田先生。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

岩の上に立ち上がって、 「土田さん、ダメだ！戻れーっ！」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

だが土田さんは、 “カポッ！” 頭まで水の中に入ってしまった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いけないっ！」 和田先生は咄嗟に淵めがけて、 「ザバーン！」 夢中で深い淵に飛び込んだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

暗い淵の中、その底でもがいている土田さんが見えました。 白い服が揺れている。 手足を必死で、バタバタ、させている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

服を掴んで、グッ、と引き上げた。 土田さんは和田先生に、グッ、としがみついてくる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

物凄い力で掴んできた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

まるで子供とは思えないような凄い力なんです。 しがみつくというより、絡みついてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

和田先生は土田さんを抱えて水面に上がろうとするが、絡み付いてバタバタ激しく暴れるものだから上がってこれない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

逆に “ググッ！” と下に引きずり込まれる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

淵の底のほうでは速い流れが渦を巻いている。 足を巻き込むようにされて、思うように上がれない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それでも和田先生は必死で上がろうとするんですが、ググッ、と体を締められてしまう。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのうちに土田さんの腕が、和田先生の首の辺りに伸びて、 “グイッ！！” と絡み付いてきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

『うぅ、苦しい・・・・息ができない』 大人の自分でもかなり苦しいのだから、子供はもう限界のはずです。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

どうにか浮かびあがろうとするのですが、バタバタ暴れるからなかなか上がることができない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

こうなったら仕方ない。 『土田さんをいったん、自分から引き離してどうにか上まで浮かばせよう』

稲川淳二 @Junji_Inagawa

土田さんの腕を、グッ、と掴んで引き離した。 暗い淵の中、黒い髪がゆらりと揺れた。 なおも、グッ、と引き離す。