即興お遊び

フォロワーさんのお名前をお借りしてちょっとした即興小話遊びをしております
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めがねやろう @tricktlap

これは、姫と騎士と、賢者、そして使い魔の、小さな小さなお話です。

2014-09-01 21:28:18
めがねやろう @tricktlap

君は最後の姫君になるだろう。賢者は私の顔を見て、静かに静かにそう言った。父様も母様も泣いていた。私はとても怖くて悲しかったけれど、父様と母様の前で泣いたりできなかった。そんな私にあの人は言った。

2014-09-01 22:00:00
めがねやろう @tricktlap

「今は誰もおりません」「私は貴方の騎士です」「貴女が見るなと言った事はすべて忘れましょう」私は生まれて初めて、私だけの騎士の前で声を上げて泣いた。

2014-09-01 22:00:18
めがねやろう @tricktlap

悲しい夢を見た。泣きそうな顔で私の頬に触れたあの人が、ごめんなさいと囁く。ほつほつと降ってくる雨が私の目を濡らして。そんな悲しまないでと伝えたくて、それ以上に伝えたい事があって、震える唇を動かした。「ありがとう」愛してくれて、護ってくれて、私の未来を救ってくれて。

2014-09-02 00:29:10
めがねやろう @tricktlap

心臓の鼓動がぎゅうと早くなって、浅い呼吸を繰り返す。悲しい夢だった。けれど、とても幸せな夢だった。 「どうしました?」 「……ゆめを、みて」 「夢?」 「幸せで、悲しい夢だったわ」 そう呟いて大きな掌に頬を寄せる。温かなそれに、逸る心臓はゆっくりと凪いでいった

2014-09-02 00:30:59
めがねやろう @tricktlap

隻騎士の一族はきっと、精霊の血筋で皆麗しい見目をしてるんだけど、その一族に伝わる言い伝えで鴉の濡れ羽色の髪と紅玉の瞳は災厄を呼ぶって伝わってて、隻騎士のパパママは自分の息子が可愛いからいっそこの子を国外に逃がそうとして一族の粛正対象になっちゃったんだよ

2014-09-02 18:37:49
めがねやろう @tricktlap

@yotsuyu パパママの首は騎士様の目の前で跳ねられたんだぜ、きっと。騎士様、唯一心許せる同僚とかに自分が産まれたから父も母も、この国も命の終わりに向かって駆け出してしまったのではないかとか話してるよたぶん

2014-09-02 18:49:55
めがねやろう @tricktlap

騎士様の一族、もう血を繋ぐ力がなくて、最後の希望が隻騎士なんだよ、たぶん。だから、国外に出すわけにもいかず、殺すわけにもいかなかったとかね。

2014-09-02 18:52:29
めがねやろう @tricktlap

水の帳に護られた国には水の衣を纏うとされる王を護る二人の騎士が居る。どの王にも二人の騎士。よつゆ姫にも二人の騎士がいるわけですよ。一人は隻騎士。烏の濡れ羽の様な黒い髪と血を凍らせたような紅玉の瞳を持つ。何でも、不吉の象徴とされ幽閉されていたのをよつゆ姫が連れ出したとか。

2014-09-03 21:08:39
めがねやろう @tricktlap

もう一人の騎士は王家の血を引く騎士。よつゆ姫の又従兄弟に当たる、とき騎士。朗らかで人当たりが良く国民に愛されていたが王位を放棄し騎士に身を落とした。国民は彼が王位継承権を放棄したと聞き、安堵の息を零したとか。それはまた、別の話だが。

2014-09-03 21:10:42
めがねやろう @tricktlap

兎も角も、とき騎士はよつゆ姫を護る隻騎士と並び、姫の護り刀と称されていたりしたわけです。笑顔を絶やさないよつゆ姫ととき騎士、そんな二人をそっと見守る隻騎士。三人の姿は幸せの象徴と言っても過言ではなかった。隻騎士はとき騎士を信頼し、とき騎士もまた隻騎士を信頼していた。姫もまた同様に

2014-09-03 21:13:49
めがねやろう @tricktlap

しかし今、よつゆ姫の隣には隻騎士一人だけ。国でとき騎士の名は禁忌とされ、今では誰もが口にする事すら憚られると言った風情だ。その理由は明らかにされていない。とき騎士の失踪に最も深く関与しているとされている隻騎士は真実を生涯語る事は無かった。

2014-09-03 21:16:16
めがねやろう @tricktlap

ふたりの騎士の物語をほんの少しだけ。隻騎士にとってとき騎士は唯一言葉を飾る事をせずに本音を明かせるたった一人の相手であったという。とき騎士は身分などもう捨てたのだから畏まる必要はないと隻騎士を頻繁に連れ出しては一緒に警備に当たったりしていたらしい。

2014-09-03 21:19:24
めがねやろう @tricktlap

隻騎士の辿ってきた人生は決して幸せな物ではなかった。凶兆とされる髪に瞳。血を残す力がもうほとんどなかった一族の者は凶兆すべてを凍らせたような隻騎士を疎みはしたけれど殺すことは出来なかった。何故なら彼はその一族が血を残す為の最後の希望であったからだ。

2014-09-03 21:22:06
めがねやろう @tricktlap

隻さんのアイコンカラーリング採用

2014-09-03 21:22:17
めがねやろう @tricktlap

隻騎士は幽閉され、子を成せば殺される。そんな未来を待つばかりだったのだ。彼の両親は子を愛するが故に国外へ逃がそうとするが失敗、子の目の前で両親は首を撥ねられたという。一族の者は隻騎士に「お前が存在するから両親は死んだのだ」と囁いた。その言葉は隻騎士の心に深く突き刺さったのだろう

2014-09-03 21:25:12
めがねやろう @tricktlap

自分が生きているから、自分が存在しているから、不幸が生まれる。そんな彼の考え方はここから来ているのかもしれない。巡察の後、とき騎士の誘いで並び酒を呑みながらその話を僅かばかり聞いたとき騎士は、隻騎士の背を勢いよく叩き、からりと笑った。

2014-09-03 21:27:13
めがねやろう @tricktlap

「不幸なもんか。お前が居てくれて、私も姫もとても幸せだ」一切の偽りを感じさせない笑みでそう言ったとき騎士の言葉は確かに隻騎士の心に刺さる冷たい棘を少しだが溶かしたのだろう。しかしとき騎士の心にもまた、冷たい冷たい棘が突き刺さっている事に、誰も気付けなかったのだ。

2014-09-03 21:28:50
めがねやろう @tricktlap

とき騎士は知っていたのだ。この国に伝わる忌まわしい秘術。王が水纏うと言われるその理由を。水源が徐々に朽ち行く時、王は水を纏う。水の衣を纏って水底に沈む。身体は細かに解かれて、肉塊と同じ扱いをうけたのちに湖の至る所に沈められるのだと、彼は、知っていたのだ。

2014-09-03 21:31:27
めがねやろう @tricktlap

生きたい。そう願う事は決して罪ではない。けれど王家の人間にとってそれは、決して願ってはならない事なのである。とき騎士は誰にも何も言わず、何も知らぬ素振りで王位を放棄した。こっちの方が性に合っているからと言って、生きたいと言える権利を掴みとったのである。

2014-09-03 21:34:08
めがねやろう @tricktlap

騎士として生きて行く。誰もそれを咎める事は無いだろう。しかしとき騎士は笑顔の裏側でいついかなる時でももう一人の己が叫び続ける罪に苦しんでいた。そして、水源が朽ち始めた。とき騎士は誰の目にも明らかに、やつれて行ったという。

2014-09-03 21:38:45
めがねやろう @tricktlap

己の身の裡で「お前は姫を見殺しにするのだ」と叫び続ける自分の声に叩き起こされ、胃液ばかりを吐き出す。そんな夜を幾日も重ね、彼は少しずつ狂って行った。北方の森へ巡察へ行った後消息を絶ってしまったとき騎士を探しにやって来た隻騎士は小さな村でその姿を見付ける。彼の剣は血塗れだった

2014-09-03 21:41:12
めがねやろう @tricktlap

「眠れないんだ。誰もが皆、私を断罪する。あの子を見殺しにするお前は誰よりも惨たらしく殺されるべきだと言う」泣きながらそう叫ぶとき騎士の姿に隻騎士は狼狽する。こんな風に追い詰められた同僚を、今まで一度として見たことが無かった。宥めようと近付くが、その度鋭い拒絶の剣が閃く

2014-09-03 21:43:19
めがねやろう @tricktlap

隻騎士の血を見ると、とき騎士は尚一層涙を零すのだ。隻騎士は兎も角も剣を手放させようと剣を構える。しかしそれは、とき騎士にとって絶対に見たくない光景であった。「おまえも、わたしを、」手加減など一切ない鋭い切っ先を往なす術など無かった。重く剣を交わす音が響き、鈍い感触が手に伝わった

2014-09-03 21:46:39
めがねやろう @tricktlap

とき騎士の身体を隻騎士の剣が貫いていた。しかしそれは隻騎士が自らの意志で繰り出した物ではない。切っ先が触れ合ったその時、とき騎士は隻騎士の剣を掴み、己の腹に付き立てたのである。ゆっくりと、二人の騎士の身体が崩れて行く。

2014-09-03 21:49:12