44。ピエロの滑稽な語りから始まり、危険なジャグリング、猛獣を使役した火の輪くぐり、息を飲むような演目があっという間に消化されていく。気付けばショーのフィナーレも目前。一瞬の暗転の後、スポットライトに照らされる橙色の少女。目を奪われたのは演出のせいだけではなかった。#空想紀行
2014-08-22 22:15:4645。高所に設置された一本の綱、危なげなくその綱の上を駆けていく少女は自分の妹だった。予想外の再会にオレは間抜けな面を晒しているだろう。見事なバランス感覚でサーカスのトリを飾った少女に惜しみない歓声が贈られる。隣で頬を高揚させるヒビヤに真実を告げるべきかどうか迷った。#空想紀行
2014-08-23 18:48:42設定10。 モモ→サーカスで働く渡り手の少女。どんなに細い紐でも絶対のバランス力で渡ることが出来る。渡る対象のものと彼女の足の間に見えない綱のようなものが存在しており、実際はそっちの上を歩いているため体重も関係ない。今では一座の看板娘。#空想紀行
2014-08-23 18:48:5146。相手の存在に気付いたのはオレだけではなかったらしい。ショーが終わり、近くの公園で休息をとっていたオレ達の元に訪れたのはフードで顔を隠した妹だった。なんでこんなところにいるんだとか、来るなら言ってよだとか理不尽に怒鳴られたがこれもいつものこと。元気そうでなによりだ。#空想紀行
2014-08-24 18:49:0747。モモが家を出てから一度も会っていなかったが兄妹仲が悪い訳ではない。久しぶりの再会に喜んでいるのはお互い様であった。モモのショーにすっかり魅了されていたヒビヤはどうやら照れ臭さが勝ったらしく、生意気な口を叩いては妹を怒らせていた。手が先に出るのも相変わらずである。#空想紀行
2014-08-25 23:21:5748。移動販売のアイスを年長者として二人に奢ってやれば揃って幸せそうに頬を緩ませるのだから思わず笑ってしまった。少し雑談をした後でサーカスのテントまでモモを送り届け、オレとヒビヤはその街の宿で一室とることにする。街の賑やかさを遠くに聞きながらオレは眠りについた。#空想紀行
2014-08-26 16:28:1149。さてどうしたものか。ヒビヤと別れ、街を出てからぼんやりと街道を行く。今までは何と無く目的地を目指して旅をしていたが、ここに来て本格的にやることがなくなってしまった。澄み渡る空を見上げながら草原に寝転ぶ。まぁいっか、行き先なんてそのうちいくらでも見つかるだろう。#空想紀行
2014-08-27 21:41:5550。少し肌寒くなってきた。藁が敷き詰められた荷台で染物をしながら身を震わせる。次の街で外套でも買っておこう。気前良く荷台に乗せてくれた老人に料金として染物を渡し、オレは地面に足を下ろす。見えてきたのは古書の街。世界中の本や資料をかき集めたという街に期待が膨らんだ。#空想紀行
2014-08-28 16:22:0851。この街には図書館と名の付くものが六つある。そびえ立つ建物は煉瓦で組み立てられたものばかり。街路を行く人は学者や学生の見なりをした者がほとんどだった。手始めに第一図書館と札のかかった建物に入りその蔵書の多さに感嘆の声を洩らしてしまう。どれから手をつければいいのやら。#空想紀行
2014-08-29 22:22:4952。一日中図書館に入り浸り、時間も忘れて紙面の物語に没頭する。あれもこれもと手を伸ばすうちにすっかり外は暗くなってしまい、オレは慌てて荷物を片付けた。いつの間にか閉館の時間になっていたのだ。しばらくはこの街に滞在することにして宿を探す。#空想紀行
2014-08-30 21:35:47