「千の想いを」~最終章03「意志」~
- mamiya_AFS
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千代田の声が反響しながらも、豪雨が降りしきる甲板上の千歳の耳にまで届く。 殺戮の最大の障害となるであろう龍田を真っ先に潰そうと動き出し。 そして。
2014-06-21 19:06:55視力のほとんどを失っているとは言え、完全に見えないわけではない。 視界にある全ての輪郭がぼやけてでしか見えないものの、色は見える。 龍田の背後にある鉄柵で、黒い何かが動いているのくらいは嫌でも気付く。
2014-06-21 19:10:21急に止まって遠くを見る千歳の動きが陽動の一種だと思い、構わず踏み込もうとしていた龍田が強引に全身を止める。 掛けられた言葉の意味に従ったのではなく、単純に声の主の存在に驚いただけだが。
2014-06-21 19:14:00殺すと宣言されたばかりの千歳を放って、龍田が振り返る。雨の向こう、鉄柵の上にいる筈のない妹が確かにそこにいた。 全身ずぶ濡れなのは雨ばかりではなく、全身の到る箇所に火傷と傷があるのが見て取れる。右腕はだらりと下げたまま、左手に握った拳銃の銃口が龍田の肩越しに千歳を狙っていた。
2014-06-21 19:18:02肩で荒く呼吸を繰り返し、無理に踏み止まっているようだが明らかにふらついている。 言葉の意味に従い、姉が妹の足元を見る。海上に浮かび、推進力を得る為の装備である主機が、消耗し壊れている。 自足で追い着いたと、彼女は言っているのか。
2014-06-21 19:21:38千歳は既に冷静さを取り戻していた。 思考。思考。思考。 艦娘が走って追い付けるわけがない。体力も速力も共に無理、でしかない。主機が持つはずがない。ならばどうやって。否、その事は後回しだった。 龍田が背を向けたままなのに安堵し、常盤と樫野へと目線を走らせる。輪郭は横たわったまま。
2014-06-21 19:26:44降りしきる雨は千歳にとって救いだった。空間を埋め尽くす水の粒が弾ける位置で、周囲の物体の輪郭が浮き彫りになる。感覚だけで明細に知覚する天龍には、思考を挟む分反応力に負けるものの、千歳の頭には天龍の体格に関するデータは揃っている。照らし合わせれば、今どういう体勢なのかよくわかる。
2014-06-21 19:29:49銃撃。 愚かな。至近距離での樫野からの攻撃も難なく無効化した千歳である。そんなものは…。 そんな、ものは…。
2014-06-21 19:31:27馬鹿な。馬鹿な…! 馬鹿な!! 千歳が胸中で叫ぶ。焦る。 無かったのだ。 知らないのだ。 天龍の『左手による』銃撃のデータが何もかも。
2014-06-21 19:33:45単に左手に持ち替えただけならば対応は不可能じゃない。 が。 動かない右腕を垂れ下げていれば、千歳が知っている天龍の重心の位置と異なる。 そうなれば弾道の推測も不可能となる。
2014-06-21 19:36:01吐き捨て、隻眼の艦娘が引き金を引く。 龍田の肩の傍を通り過ぎ、雨粒を更に細かく砕きながら、銃弾が千歳の身体に突き刺さった。 音は6回続き、その全てが羅刹に歪なダンスを躍らせ、血を辺りに散らばせる。 旗艦が常磐と樫野の傍に倒れ伏し、動かなくなった。
2014-06-21 19:41:55皮肉な事ではある。 天龍は元から射撃は苦手であり、ましてや利き腕ではない左手で行っているのだ。 がむしゃらに身を横に投げ出すなりすれば、高確率で回避する事ができたであろう。 千歳は自らの能力を信じる余り、頼り過ぎたが為に、動けなかった。
2014-06-21 19:44:43