「千の想いを」~最終章 最終話「合流」前編~
- mamiya_AFS
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合流予定位置まであと少し。 進路に立ち塞がる戦艦を千代田が睨む。あと1匹。こいつさえどうにかすれば、辿り着くのだ。 行かなければならない。 そうでないと、樫野と龍田と夕張に申し訳が立たない。 彼女らの犠牲が無意味になってしまう。
2014-08-02 23:09:43波の上を滑りながら、ふとももに備えたずんぐりもっさりとした黒い航空機と、腰の後ろのやけに短い大砲の中身を射出する。それぞれ敵の元ではなく、誰もいない海上に落ちて爆発による水柱さえ上げる事はない。 樫野が作り出した千代田専用の兵器『穴熊』と『美濃』である。
2014-08-02 23:13:39空母が扱う航空機にも積まれている半自立思考回路を組み込んだ甲標的であり、海中を千代田の意のままに進んで敵を捉える。 艦娘は多くいれど、その複雑な制御システムは多様の武器の属性を持ち、千代田にしか扱う事ができない武器でもある。
2014-08-02 23:16:35背後の旗艦に声で応じ、間宮が鈍器としか扱っていない単装砲を振り上げる。長い戦いの中で本来の使用法から大きく外れた酷使を続けた為に、砲身は歪みかすかに曲がっており、今更引き金を引いたところで暴発するのは間違いない。
2014-08-02 23:19:01敵の肩から直接生えている砲撃をかわし、懐に入り込む。 イメージ。 間宮の中で、無防備な敵の脚を破壊する様がありありと浮かぶ。かわさせないし、防がせない。明確な攻撃意思。
2014-08-02 23:21:36イメージは完璧であったし、それを実行できるだけの技術も力も彼女は備えている。 もしも、彼女に非があるとするならば。 ブランク。 戦闘はおろか、演習も長い間こなさなかった影響が、ここに来て初めて身体がイメージに追い付く事を拒んだ。
2014-08-02 23:24:16自身の腕力や握力に疲労が溜まっていた事に、気付いてはいた。 が、無視できると踏んでもいた。泣き言を言っていられる状況ではない。 間宮に罪があるわけではないが、それでも両手は彼女の意思に反して持ち手を滑り、武器にイメージ通りの勢いを与えられなかった。 簡単に言えば、すっぽ抜けた。
2014-08-02 23:27:02重い鉄の塊は確かに振り下ろされ、敵の脚に触れはしたが、単に当てただけに過ぎない衝撃しか与えられず、よろけさせる事すら叶わない。 自身の事でありながら信じられない面持ちで間宮の思考が一瞬止まり、その隙を逃してくれる怪物でもなかった。 銀色の膝がすぐ目の前の間宮の額を穿つ。
2014-08-02 23:30:41伊吹が射出弓を構える。 矢を番えたその瞬間『神楽』の身が放電音と同時に折れる。 そもそも機構として改良に改良を重ねた武器ではない。天才伊吹であるからこそここまで扱えたものの、長い戦闘と無茶な使い方に耐えられるだけの研鑽を施されてはいないのだ。
2014-08-02 23:35:17それまで自らの意思で行っていた『自身の操作』の礎である神楽の機能を失う。伊吹からして見れば、身体が急激に重くなったとすら感じられた。 無茶な使い方をしていたのは武器だけではなく肉体も同じ事。自分の身体である筈なのに、上手く動いてくれない。 瞬間、敵の砲撃が伊吹に直撃した。
2014-08-02 23:39:252人の足止めに併せて喰らわせようとしていた海中の甲標的を大きく迂回させる。今当てようとしても余裕でかわされるし、倒れたまま動かない間宮に被害が出る事となってしまう。 千代田の『選択』による戦術は完璧ではあるが、予想通りに事が進まなかった場合に、酷く脆い反面を持つ。 思考。逡巡。
2014-08-02 23:43:51