- treeofevil
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――しにたくなかったの。 少女だったものは、生きていた誰かは、そうやって泣く。 しにたくなかったの。だって、わたし、これからだったんだもの。 死したからこそ、一足飛びに理解する。拙い子供の我儘しか叫べなかった理由を、無意識に秘めていたその意味を。
2014-09-05 04:43:39これからだったの。わたしが、わたしの、幸せを見つけるのは、これからだったの。 今まで不幸だったことに、気がついてしまったから。 死は救いになんてならない。それは自分の幸せを知っている人だけだ。生きている世界に幸せがないと、気づいた人だ。 わたしはそれすら見つけだす前だったのに。
2014-09-05 04:44:22「いきたかったんだよ。ねえ。いきたかったの」 わたしが名づけたわたしの名を、呼んでくれる場所で。 わたしが名づけたわたしの名を、呼んでくれる場所に。 その声に応えることは、もう、できない。
2014-09-05 04:44:26――
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ーー最期に見た焔は、本当に綺麗だった。 それだけが瞼の裏に文字通り焼き付けられ、何度も何度も映し出される。 のんびり揺蕩う身体は焼かれた後だからか何処か怠く、重い。同時、それが果たして自分の身体かと思うかぐらいに曖昧で物理的に軽い。 気が付いたのは瞼の焔が萎み始めてからだった。
2014-09-05 23:32:57「え……」 名前を呼ばれた気がして、起き上がる。ふわふわと、もぞもぞと。 「誰だ……俺の名を、呼ぶ……」 吐いた呟きはぽつり光の中に落とされて。 「あぁ……二人、か」 しかし、そこにはいない二人に呼ばれたのだと……納得して。また視界が閉じられていく。
2014-09-05 23:33:49――
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足を止め、果ての無い虚空に ――無感動はまだ戦っている。己の勝利を掴むために 果ての無い虚空に、膝を屈したりなんかできない 無神論は歩く。ただ、ひたすらに。それはそれは遠いところへ来てしまった。 本当に遠くて、ここに来たかつての仲間に逢えるかも分からないような処へ。
2014-09-06 13:31:17それが悲しいと云えば、そうだ。 「逢えるかしら。"残酷"、"拒絶"?」 たとえ声を発しても、この距離では聞こえないかもしれない。それは、少し辛い ――無感動は私達の屍を背負い外を目指す 辛いけど、心を折ったりなんて出来ない
2014-09-06 13:31:21「"無感動"。勝って。その"色欲"は、殺して」 不安定。敵に回った不安定。 「"不安定"は……」 殺してなんて ――無感動はただ一人の孤独の中を戦い抜く 「"不安定"は、殺して」 両方の天秤皿を上へ釣り上げることは、不可能だ。
2014-09-06 13:31:25――
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──意識が茫洋とした何処かを流れる。 ──揺蕩う。漂う。揺らめく。 ──今にも霧散しそうなそれは、やがて一つの結論を出す。 ──これが、死。 ────────────。 ──うん? ──思考の波間に、ふと怪訝な風が立つ。 ──あれ? 死? カッ、と目を見開いた。
2014-09-06 22:34:36「あれ俺死んだーーーーーッッッ!!??」 怒鳴り声がどことも知れぬ空間に響く。 がばりと身を起こした。意識は既に再集結、覚醒している。 ぐるりぐるりと周りを見回した。見知らぬ空間だ。どこだここは。 「えーーーっと、俺は不安定とバトってたんだよな……?」 直前までの再確認。
2014-09-06 22:34:51不安定に眠らされた所までは覚えている──そこからどうなったか。そんなに奇跡が簡単に起きるとは思えないし、『どちらかが死ぬ』という条件上どちらかか死んでいるのが妥当だし、まさかあそこから不安定が突然の自殺を図ったとも考えられないし、やはり自分の方が十中八九死んでいる気がする。
2014-09-06 22:35:00試しに自分の脈を測る──あっだめだ全然動いてる気配がしない。 「あぁぁぁぁ……死んだかぁぁぁ……」 がくりと項垂れて、深くため息をつく。 かっこいい死に方はできねえなあ、と思ったのは自分だが。 実際、あれだけ人に生きろ生きろと言っておいて自分が死ぬのは、かなり精神にくる。
2014-09-06 22:35:17父親や嘗ての部下たち。無感動、物質主義、愚鈍。不安定は敵に回ったとして、無神論や残酷はどうなったのだろうか。やはり敵に回っていたのか、それとも最初の戦いで志半ばで散ったのか。彼女が生きてほしいと願った人たちの行く末を、確認する術が彼女にはもうない── ──んん、んー。
2014-09-06 22:35:24こつこつとこめかみを軽くつつく。 今こうして居る『自分』は何なのだろう? 今ここは何処なのだろう。死後というなら地獄なのか天国なのか、はたまたそんな概念とはまったく違う世界線なのか。 彼ら彼女らを見届ける術は本当にないのか? 介入する術は本当にないのか? ──わからない。
2014-09-06 22:35:30「わからないなら──探すしかねえやな」 よっこいしょ、と立ち上がる。もしかすると永遠に見つからないのかもしれない。もしかすると直ぐにこの存在は消えるのかもしれない。──それでも。 自分で在ること──それは彼女自身が、物質主義に言った言葉だ。
2014-09-06 22:36:19自我がある限り、『自分』で在れる。 具体的に何処かに干渉できようができまいが、だ。 そして彼女の意識は、確かに彼女自身であった。 ──なら、『自分』がやりたいことをやんなくちゃあなあ── この心が、本当に死ぬまで。 何処へとも知れぬ一歩を、彼女は踏み出す。
2014-09-06 22:37:12――
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ーーー子供が小さく身動ぎをする。ゆるりと顔を上げ、あたりを徐に見回した。 規則的に瞬きを繰り返す瞳は何をも捉えず。微かに開いた唇は言葉を紡がず小さく風音が漏れるのみ。ことり、と傾げた首から突き出した一本の矢。 息が漏れる音。 子供は首を傾げたまま、無造作に喉元へ手を伸ばす。
2014-09-07 02:29:17鏃が指先に食い込む。傷口から滴る赤い液体に視線を向ける。 ぽたりと地に落ちた途端、地面が融ける。赤く染まる。けれどそれは広がることなく、大人しくたゆたっている。 子供はそれに迷いなく血の零れる手を差し込んだ。金属が赤みを増す。子供がぼんやりと笑みを浮かべる。
2014-09-07 02:29:24赤い泉が蠢く。揺れに揺れて波紋が生じるも、地面を蝕むことはなかった。根を張るように、地の中を探るように、子供の遺志に従って金属は伸びていく。
2014-09-07 02:30:21