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「君が前語っていたのと同じように、芸術家は伝説上の鬼を大陸からの漂流者と考え、のみならずその異国人達が地元住人に疎外され、『鬼が島』へと追いやられた挙句、その地で一族郎党狩尽くされたという独自の説を打ち立てたのだね」
2014-09-10 12:26:57「これまで語り継いできた昔話の展開がひっくり返され、一転し自分たちの先祖が非道で野蛮な悪役にさせられたわけだから、どこの馬の骨とも知れぬよそ者が自分勝手に何をほざくんだと、彼の主張、そして存在は島に住み着いた当初から結構反感を買っていたらしいよ」
2014-09-10 12:31:01「住民たちの間で長らく禁忌の地とされてきていたあの島に、いきなり土足で上がりこんだ事実もそういった感情へ拍車をかけてしまったのかもしれないね。『なんであんなやつに土地を売ったりしたんだ』って不動産屋に怒鳴り込む人間もいたりしたそうで」
2014-09-10 12:34:16でもそんなのは所詮大人と大人の金の話じゃないか。それに対して異議を申し立てるほうが理不尽なわけで、だから結局住民たちも泣き寝入りをするよりほかなかったようだが、それほどの軋轢があったにもかかわらず結局大きな騒動にまで進展しなかったのは」
2014-09-10 12:37:06「やはり彼が忌み嫌われた島いう住民世界から隔離されたスポットに引きこもっていたことが大きかったらしい。それで両者は緊張をはらみつつも海峡を跨いでしばし共存していた」
2014-09-10 12:42:12「ところで当の芸術家といえば、島での暮らしを続けるうちに、ある時期から突如として子供というものをひどく欲するようになっていったようだ」
2014-09-10 12:42:46これまでただ一人の話し相手も持つことなく、自閉的な人生を送り続けてきていた彼なのにね。その心変わりの理由がいかに優れた作品を作れようとも子孫以上に強固な後世への遺産はないという悟りによるものなのか」
2014-09-10 12:45:03「あるいはこれまで彼がいろいろなものを相手にそうしてきたように、児童という存在を単なる創作上のモチーフとのみ見なし、これを近くに置きたがったからなのか、はたまたストレートに孤独な生活へ疲れきった結果によるものであるのか、その辺の心情はもはや憶測で計ることしかできない」
2014-09-10 12:49:51「ただ彼の場合、経済面や、仮にそれをクリアできたところで性格上の理由から、結婚はもはや絶望的であると自分でも自覚できていたからなのか、近くの町中の孤児養護施設を、養子を貰えないかと訪ねまわっていたそうなんだ」
2014-09-10 12:52:53「だが施設の職員も馬鹿ではないから彼の素性をきちんと調べ、とてもこれは子供を預けられる人間ではないと判断したのか皆一様に断ったらしい」
2014-09-10 12:54:19「港の人間もそんな彼を半分はせせら笑い、半分では気味悪く感じていたらしいんだ。彼がそばを通るや子連れの住民が露骨に自分の子を脇へ隠すなんてこともあったようだ。だがある時そんな彼に、とうとう養子ができたらしいといううわさが流れ出したんだな」
2014-09-10 12:57:43「住民の一人が沖で漁をしていたら、彼が子供を連れて島の浜辺を歩いているのを目撃したというのだ。それでどういうわけだかその時期というのが、ほら前君に話しただろう?今から10年ほど前に港町から女の子が二人消える事件があったと」
2014-09-10 13:00:18「ちょうどその最初の一人が行方不明になったころだったそうだからこれはもう住民の感情が納まるはずもなかったわけだ。町内会で喧々諤々の議論を戦わせるだけでは飽き足らず、多人数で直接島に殴りこみ、子供を返せと芸術家に詰め寄ったらしい」
2014-09-10 13:05:29「その際芸術家の家に不法侵入してまで調べ上げたようなのだがね、結局『子供』は影も形もなかったそうな。住民たちもあまり好き勝手にやりすぎると今度は自分らが逮捕される側に回ってしまうため、その日は歯噛みして引き返した」
2014-09-10 13:09:40「『養子』の目撃報告が出てくるまでは、住民社会では『鬼の仕業』と震える連中も多かったようなのだがね。片方ではそんな非科学的なことを言っておきながらいざ何かきっかけがあればすぐ嫌いな相手をを疑ってみるあたり実に人間というのは業が深い生き物なのだと思うよ」
2014-09-10 13:18:41「だがそうしているうちに二人目の少女も失踪してしまった。これにはさすがに警察も出動したらしいんだ。任意での事情徴収という形でね。それで手ぶらで帰ってきた。結局犯罪捜査のプロである彼らにも、芸術家が他人の子を拉致したという証拠は見つけられなかったようだ」
2014-09-10 13:24:10「それでもなお芸術家を疑う声は根深く地元に残ったらしい。芸術家自体が『鬼』の被害者になるまではね。彼自体が意味不明な火災とともに消失したその後は、彼に対するバッシングのトーンもそれまでよりは収まり」
2014-09-10 13:31:14「それで今現在の俺の見解を言わせてもらうと、とりあえず鬼は存在したものと考えている。というかいてくれないと困る。採算が合わないからね。そしてその存在の隣にはいつも必ず芸術家がいる」
2014-09-10 13:40:26「だが君もうすうす感づき始めたかもしれないんだが、住民の話には額面どおり受け入れがたい部分がいくつかあってね。自分の目ですべてを見極めるために明日もう一度島に上陸してくるわ。今度は家の中にも上がらせてもらうつもりだ」
2014-09-10 13:41:13