日本海に面したキャンプ場で巨人の死体を見つけた4

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アドリア海 @keizi80

翌日の夕方、友人から連絡が入った。 受話器声に聞こえる彼の声は高揚感に満ちており、何らかの進展があったことが窺い知れた。

2014-09-12 18:27:44
アドリア海 @keizi80

「今日は実に有意義な一日だった。おかげであらかたのことがわかったからね」 実際彼はそう豪語した。 しかしながら島に行ったのかと聞くと 「今日は釣り船のオーナーが留守にしてたから無理だった。また明日かあさってにでも改めて出向く」 などと答えるので自分はおやと思った。

2014-09-12 18:32:59
アドリア海 @keizi80

「昨日の夜『古い知り合い』がやってきて、二人してどこかへ出かけてしまったそうだ。まあその後特に連絡もないらしいんで、そう遠くへは行ってないんじゃないかな」

2014-09-12 18:36:23
アドリア海 @keizi80

「まあそんなことはどうでもいい。代わりといってはなんだが、今日は釣り船のオーナーなんかよりずっと重要な人物に会うことができたわ。誰だと思う?鬼の最後の目撃者だよ。8年前、あの島で最後にして、最も新しい鬼の姿を目にしたまさにその人に会うことができた」

2014-09-12 18:40:28
アドリア海 @keizi80

友人の話によると、その男は船のあてをなくし、仕方なく近くの食堂で早めの昼食をとっていた彼の元に、風のごとく現れたという。 「鬼のことさぐっとるのでしょ」 男は注文もとらずに友人のもとへ歩み寄ると、のっけからそう言い放ったのでさすがの彼もどきりとしたという。

2014-09-12 18:45:31
アドリア海 @keizi80

友人が男にその素性について尋ねると、本人の口からも「最も新しく鬼を見た者だ、自分はすべてを知っている」との回答があったため、真向かいの席を提供したらしい。 また男は同時に「今は遠く離れた県庁所在都市で会社員をしている。鬼は見たがそれに対する地元の閉塞的な迷妄は嫌いで」

2014-09-12 18:56:44
アドリア海 @keizi80

「それに対するしがらみもない」と自己を評したようで、友人もそこで少し警戒を解いたのだという。

2014-09-12 18:58:56
アドリア海 @keizi80

「今から8年前、私はまだ都会の大学に入ったばかりでした。それで夏季休業に入ったんで、里帰りしようとしてたんだけど、学校で知り合った同学年の男が『俺も連れてけ』とせがむわけですわ」

2014-09-12 19:03:40
アドリア海 @keizi80

「というのは、私がその男を前に『鬼』の話をしたのが原因でしてね。今考えれば村の古い言い伝えを、好きこのんでよその者に口外することもなかったんだろうが、そのころは都会に出れたこともあって、なんかこう得体の知れない開放感みたいなのに支配されてたんですわ」

2014-09-12 19:08:27
アドリア海 @keizi80

「私は地元の大人たちが暗い顔で鬼の話をするのを見て育って、そのたびに自分もまた鬱屈とした気持ちにさせられてたんだけど、いざあの村から離れて、夜も明るい文明社会の真ん中で暮らし始めてみると、それだけで自分が偉く賢くなったかのような心持がして」

2014-09-12 19:11:55
アドリア海 @keizi80

「何が鬼かそんなものが現実に存在するわけがないと思いましてね、故郷の迷信から個人的に決別する意味も込めて同級生の何人かに語り散らしたんです。そしたら向こうもそれがきっかけで私という人間自体にも興味を持ってくれたりして、それで私もますます増長してたんだけど」

2014-09-12 19:15:00
アドリア海 @keizi80

「一人その男だけはやけに『鬼』の話に関心を示しましてね。休暇に入ったら是非自分を『鬼が島』へ連れて行けと言って聞かないわけです。まあそのほんの2年前に女の子と、芸術家とがあわせて消える事件があったでしょう、それが放つそこそこのリアル感が、彼の好奇心に火をつてしまったんでしょうね」

2014-09-12 19:17:57
アドリア海 @keizi80

「それで、私は困ったことになったと思いましてね。なんだかんだ言って本音として鬼は怖いわけですよ。子供のころから言い聞かされてたから、頭でいくら迷信と思っても拒絶してしまう部分がある。まして島へ上陸するだなんてもってのほかなわけです」

2014-09-12 19:25:05
アドリア海 @keizi80

「でもその同級生は、私の本心を見透かしたのか『なんでだめなの怖いのか怖いのか』と畳み掛けてくるわけです。挑発なのはわかってたんだがそいつは都会の生まれでね、そういう男に迷信におびえる田舎者と思われたくないなんていう、幼稚な意地を刺激されたんでしょうね。私は結局承諾しました」

2014-09-12 19:26:48
アドリア海 @keizi80

「私の実家も漁業で生計を立てていて、小さなボートくらいは私の自由にできる環境になってたんで、地元の連中にばれぬようそれに乗り、同級生と二人でこっそり島へ向かいました」

2014-09-12 19:28:46
アドリア海 @keizi80

それからその男は上陸後島の表層で見られた光景を語って聞かせたそうだが、その内容は友人が実際に視認したものとほとんど変わりがなかったという。 ただ友人とは異なり、その男は島の表を歩くのみでは飽き足らず、芸術家の家の内部にももぐりこんだとのことだ。

2014-09-12 19:36:56
アドリア海 @keizi80

「家の中は思ったより広かったですよ。ていっても畳12畳くらいだったかな。その一面にズタボロになったビニールシートが敷かれていて、さらにその上に作りかけのアート作品やら材料と思しき錆にまみれた鉄の廃材やらがうず高く堆積しているわけです」

2014-09-12 19:43:31
アドリア海 @keizi80

「内壁は円錐状に傾いてて、上にいけばいくほど水平での断面積が減っていくような構造になってました。モンゴルの遊牧民が住むゲルとかいうんですかね?あれにちょっと近い感じですかね。その湾曲した壁の一面にね、奇怪な絵が塗りたくられてたんですわ」

2014-09-12 19:48:19
アドリア海 @keizi80

「どこかの古代文明が洞窟に残したような雰囲気の絵でね、合わせて文字と思しき記号も添えられているんですが、それがどこの国のものなのかさっぱりわからない。ひどく原始的で、あちこち角ばっていて、少なくとも私は今に至るまであんな種類の文字は見たことがない」

2014-09-12 19:56:58
アドリア海 @keizi80

「絵のほうは絵のほうで、センス自体が現代人のそれとは明らかに異なっていて、一体どういう思考回路をもって入ればこんなものを描くことになるんだろうと思わせられるようなできでしてね」

2014-09-12 19:59:51
アドリア海 @keizi80

「大半は意味不明な抽象画の類にしか見えなかったんだけれど、その中にある程度のしつこさをもって、壁のいたるところに複数回書き込まれている形状があったんですわ」

2014-09-12 20:02:15
アドリア海 @keizi80

「全身角まみれというか、体中を角に覆われて、不気味なサボテンのごとき姿になっている『人型』に向かって、四方八方から頭に角を生やした別の『人型』が歩み寄ってきているような絵でして」

2014-09-12 20:12:23
アドリア海 @keizi80

「ただその中央にある『サボテン人間』は、別の『角人間』に比べたら明らかにでかいわけです。2,3倍はある。だから実際の人間のサイズで考えれば4メートル近くということになるのかな?」

2014-09-12 20:13:50
アドリア海 @keizi80

「気持ち悪かったですよ、それはね。本当にこれは大変なところにきてしまったと思って。もう帰りたくて仕方がなくなった。それで同級生に目線で合図して、もう戻ろうって意思を伝えたんですけど、やつは家の奥を見つめて動かんわけです。何か『声が聞こえた』とか言ってね」

2014-09-12 20:29:16
アドリア海 @keizi80

「さらにそいつの視線を注意深く追っていくと、そこには何か細いらせん状の構造が上に向かって伸びているわけです。暗かったのと、ガラクタの山に隠れてそれまで気づかなかったのだけど、それはどうやら階段であったわけですね」

2014-09-12 20:53:35