【パロディ】スワン・ソング・サング・バイ・ア・フェアリー・イン・ネオサイタマシティ
ナッツクラッカーは脅すようにガチガチと鋼の歯を打ち鳴らした。「お前のように平坦な胸のガキは趣味ではないが、愉しむ事はできる!そして情報もいただく!つまり、グワーッ!?」ナッツクラッカーの口上は遮られた。その胸、ちょうど心臓のある場所にいくつもの穴が穿たれ、消し飛んでいた。 21
2014-09-15 00:36:52「ニンジャはボーを振り上げ……」ナッツクラッカーのすぐ後ろに、テング・オメーンの男が立っていた。その男、ヤクザ天狗はナッツクラッカーの頭を掴み、咄嗟の噛みつき攻撃を封じて、淡々と呟いた。「……ファラオとその家臣の前でナイル川の水を打った」「アバッ!?アバッ……!?」 22
2014-09-15 00:38:50硝煙を漂わせる赤漆塗りのオートマチックヤクザガン。ナッツクラッカーは致命傷を負い、急速に死にかかっていた。「ア、貴様……」「川の水は血に変わり、川の魚は死に、エジプト人はナイルの水を飲めなくなった……」ヤクザ天狗は意味不明の一節を呟きながらナッツクラッカーを引き倒す。 23
2014-09-15 00:40:39ヤクザ天狗はセンベイを2枚取り出すと、ナッツクラッカーの両目に重ねた。続いて、自らの小便とスピリタスを秘密の割合で混ぜた聖水入りの真鍮フラスコを取り出し、それを振りかけて火を放った。「ブッダエイメン!」…これは彼が考えたニンジャを蘇らせぬためのモージョーであった。 24
2014-09-15 00:42:54ヤモトは知る由もなかったが、この奇行は彼が考えた儀式であると同時に、ソウカイ・ニンジャ一般にサイバネインプラントされているIRC通信機をも破壊していた。「サ、サヨナラ!」ナッツクラッカーは叫んで爆発四散した。狂気を永遠に張り付かせたテング・オメーンがヤモトに向き直った。 25
2014-09-15 00:46:00「あ……」ヤモトは震えながらヤクザ天狗を見上げた。天狗とは日本に古来から存在するフェアリーの一種で、赤く長い鼻を持ち、空を飛ぶという。しかしこの男は天狗ではなく、ヤクザでもなく、ヤクザ天狗であった。「ニンジャハントの報酬を頂戴……」 26
2014-09-15 00:50:48「エ……?」怪訝そうに見上げるヤモトを前に、動作不良を起こした機械のようにヤクザ天狗の動きが止まる。テング・オメーンの奥でサイバネアイが精密スキャンを行い、「ほぼ無一文」「ヤクザではない」「平坦な」「発信中」の文字を点滅させる。「支払い能力は無いのか」「エ……?」 27
2014-09-15 00:53:43素早く首を振ったヤクザ天狗は、ヤモトの前のランドリーを強引に引き開けた。「……これはニンジャハントの報酬として頂戴する」ヤクザ天狗はヤモトの洗濯物を握りしめ無慈悲に言い放った。「エ……?待……イヤーッ!」ヤモトの細い腕は踵を返そうとするヤクザ天狗の腕をかろうじて掴んだ。 28
2014-09-15 00:56:20「アタイの着替え!無いと困る!」ヤモトは酷く混乱していたが、それでも洗濯していた衣類は逃亡中の身としては貴重なものであり、非現実的なフェアリーの仮面と狂気の体現者を前にして、そのような生活に根ざした思考が正気を保たせていた。ヤクザ天狗は困ったように腕の力を抜いた。 29
2014-09-15 01:00:10ヤモトの切実な願いが届いたのか?そうではない。サイバネ化された腕を引き止めた、ヤモトの細い腕には似つかわしくない力をヤクザ天狗は感じ取っていた。この地味な衣服をネオサイタマ中に星の数ほどあるヘンタイ・ショップに売り払っても二束三文にしかならないことも彼は知っていた。 30
2014-09-15 01:02:49「……ニンジャに追われていたな」再びこちらを向いたテング・オメーンに現実感を失いかけながらもヤモトは頷いた。「ソウカイヤ。」ヤモトは身を硬くした。「贖罪の聖戦……」ヤクザ天狗はヤモトの上着のジッパーを引き開けると、裏側を手で探り、小指の爪ほどの機械装置を引き剥がした。 31
2014-09-15 01:06:14「え……それって、居場所が今まで……」「ブッダエイメン!」ヤクザ天狗は再び聖水入りの真鍮フラスコを取り出し、踏みにじった発信機に振りかけて火を放った。「カネが払えぬなら天狗の国に行くか?お前は聖戦に参加する資格がある。鍛錬次第では、私のような聖戦士になれるかもしれん」 32
2014-09-15 01:09:47ヤモトに危機感や恐怖が無かったわけではない。目の前の男は狂気のニンジャハンターだ。ヤモトの身体に興味が無かったとしても、ヤモトの正体には興味があるだろう。しかしこのときのヤモトにはもはや行く宛が無く、狂気の介在が追跡を難しくするかもしれないという期待も確かにあった。 33
2014-09-15 01:14:18裏路地を走るヤクザ天狗の背中をヤモトは追いかけていた。背中に錆の入った銀色のジェットエンジン。その重量に耐える、おそらくサイバネ化された脚。それらを見つめ、ヤモトは彼がどれだけの戦いをくぐり抜けてきたのか想像しようとした。角を曲がった先に黒いヤクザモービルが停まっていた。 34
2014-09-15 01:18:38シルバーカラスは警戒しながら静かになったコインランドリーに踏み込んだ。爆発四散痕とただならぬ異臭が漂い、ランドリーの一つはドアが引き剥がされている。「どうなってるんだこれは……?」少女のものと思しき物品は無かった。厄介事は己のビズで既に十分過ぎるほどに十分だ……。 36
2014-09-15 01:21:49