モーサイダー!~Second Lap~Episode VIII
- IngaSakimori
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(ネイキッドだな……ハイビーム、っていうか、HIDなのかな。めちゃくちゃ明るいな……) ファットなフォルムではあるが、威圧感はなかった。おそらく400ccくらいか━━そう当たりをつけたその時、後方のマシンは追い越しをかけてくる。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:27:06「……っと、と」 思わずアクセルを緩めると、そのネイキッドマシンは志智と玲矢の間に割り込むように姿を現した。 鋭角的で、現代的なカウリング。特徴的なヘッドライト周り。 新車として『ハングオフ・モータース』にも並んでいた、その車種の名前を志智は知っている#mor_cy_dar
2014-09-21 22:27:28「グラディウス400……だよな。これ」 確か650ccのタイプもあったはずだ。緑枠のついたナンバーだけでは普通二輪か大型二輪か、断定することはできない。 しかし、志智には追い越しをかけられた時の加速力が。400cc以上のそれとは思えなかった。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:27:48(スペックはいいんだよな……なんだっけ、昔の自主規制枠より出てるとか、亞璃須がいろいろ言ってたよな……) 所詮400だからトルクが足りないなどと、かなりこき下ろしが混じっていたように思うが、たった今、追い越された直後の志智には、それが分かるような気がする。#mor_cy_dar
2014-09-21 22:28:12「これが大型なら、二台まとめて抜いていくもんな……それにしても」 志智と玲矢の間に入ってきたグラディウス400は、お世辞にも品のいいライディングとは言えなかった。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:28:24割り込むような追い越しそのものではない。 まるで後からつつき回すように、玲矢のW800と車間をつめてはゆらゆらと車体を左右に揺らしているのだ。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:28:34(……なんだか、な) 下り坂の先にある急カーブを注意する路面表示。 玲矢が大きく速度を落とすと、グラディウス400は追突すれすれまで近づいてから、W800を追い越していく。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:28:49(ちっ) それも対向車線へ出ることはなく。 W800の横すれすれを進み━━追い越しざまに、嫌がらせをするように、左へ車体をふって、テールランプを見せつけていく。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:29:04「こいつ……ったま来た」 びくりと玲矢が肩を震わせるのと、志智の脳内にある許容アンペアの低いヒューズがはじけ飛ぶのは、まったく同じタイミングだった。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:29:18今日はじめての三桁。下り傾斜も手伝って、4速のままアクセルを全開にしたVT250スパーダは、たちまち100kmの大台を超える。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:29:29(……こんな奴が曲がれるなら、同じ速度でいける!!) 凶悪といってもいい減速帯とひねりこむような下りの左コーナー。 減速しきれず、ガードレールへ突っ込む者もしばしば出る難所を、志智のスパーダは平然とクリアする。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:29:48そのバンク角は先行するグラディウス400より明らかに浅く、『素』のコーナリング性能と車重の差を象徴するかのようだった。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:29:56「せっかく馬力あるのにさ……下品な追い越しの時にしか使えてないじゃないか、あんた!!」 多くのライダーにとっては悩ましい、そして志智のような者にとっては極上のフルコース料理にも等しい、短い直線とコーナーの連続。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:30:11アクセルを開けきれないグラディウス400に対して、実に15馬力も劣る志智のスパーダは、一本の糸でつながれたように、後方二車体分の距離に食いついている。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:30:25(ブレーキは余裕だけど、加速でもついていける……よくわからないけど、向こうがアクセル開けるポイントって、俺よりかなり後だな……) 志智が既に全開に近いタイミングで、グラディウス400のライダーは7割も開け切れていない。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:30:42アクセラレーションの差が、伊豆スカイラインという国内随一の高速ワインディングにおける、グラディウス400の優位を台無しにしているのだ。 もっとも、だからと言って、直ちに志智の脳裏に勝利のファンファーレが鳴り響くわけでもない。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:30:55「このままぶち抜いてやりたいけど、それはちょっと厳しいかな……」 志智は伊豆スカイラインという道を知らない。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:31:07いくら視界がよいとはいえ、ブラインドに近いコーナーは存在するし、突っ込みで抜き去ったとしても、想定以上のRが待ち受けていれば、悲惨な結果になりかねない。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:31:13(それに落下物とか動物とかさ……そういうのだって、出てくるかもしれないし……ったく、初めてってのはこれだからめんどくさいよな……) だったら、もう━━このくらいでいいか。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:31:46志智が戦意を失いつつあった頃、グラディウス400のライダーは降服の白旗を手にしていたようだった。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:31:52「……っと」 アクセルを緩め、左ウインカーを出すグラディウス400。先へ行け、お前の方が速いという、ワインディングで競り合う者の共通語。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:32:02「………………いや、待て待て」 思わず前に出ようとした瞬間、志智は思いとどまった。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:32:12そう、自分はこの道を知らないのだ。 そもそも、伊豆スカイラインをどこまで走るというのだろう。熱い感情に任せて玲矢の前に出てしまったが、ひょっとしたら、この次のICで降りるかもしれないではないか。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:32:30「………………とすると、だ」 志智はアクセルを開けることなく、グラディウス400と等距離を保つ。不可思議な、そして譲った側にとってはひどく気まずい時間が流れる。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:32:43時速100km近くで走っていた二台の速度は、いつしか50へ。そして40、30……さらには徐行にも等しい域まで落ちていく。 #mor_cy_dar
2014-09-21 22:32:51