rsbs日誌#30

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　ハヂマリ。

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#rsbs日誌　ドドン…ドゴン…と爆雷のくぐもった音が響く。的外れな場所に投げ込まれた投射爆雷のそれはすっとんきょうな太鼓の音の様にも聞こえた。「駆逐艦、遠ざかります」先任がふうと息を付いた「しつこいライミーめ…漸く諦めましたな。艦長殿」「気を抜くでない。辛抱はこれからじゃ」

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#rsbs日誌　「感、弱まります」「今の内に各部の再点検を静かに行え。バルブ周りからの漏水に気を付けるのじゃ」「ヤボールヤカロイ」わしが先任に命令を下した途端、死神の囁きが聞こえた。『カァーンッ！！』甲高い、高周波じゃった。「アクティブソナー！複数同時！」「まずい！」

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#rsbs日誌　「複数同時箇所からの予測聴音じゃ！尻尾巻いて逃げるぞよ！」「機関長！前進強速！焼き切れるまで回せ！非常事態だ！」先任がマイクに向かって叫び、ソナー員が悲鳴を上げた。「着水音多数！普通の爆雷じゃありやせん姉御！」「新型爆雷じゃ！沈降速度が速いぞ！緊急回避じゃ！」

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#rsbs日誌　「おいソナー！一番空いている方位はどっちだ！」航海士が叫び、すぐに答える。「２１３の方向です！」「操舵士、２１３に舵を切るのじゃ！航海士！進路上の海域に問題は！？」「在りすぎだシャイセ！海底深度６００オーバー！着底したらペチャンコだ！」冗談ではないのう…

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#rsbs日誌　わしらが狭い指令室で騒いでおったその瞬間、新型爆雷ことヘッジホッグが右舷側にて炸裂した。船体が揺さぶられ、耐圧殻がきしみパイプから漏水が始まる。そして…艦首魚雷室から鈍く痛々しい金属音と振動、人の悲鳴が響いた。「艦首発射管室、何があった！」

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#rsbs日誌　『此方発射管室！予備魚雷を支えてた固定索が外れて、ヨハンの奴の足が潰されちまいました！』「ザニテイター！艦首発射管室にて重傷者発生！急ぎ応急措置を！」わしは一か八かの賭けに出た。「排水ポンプから廃油を流せ！機関停止！ダウントリム１０！惰性で潜る！」

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#rsbs日誌　「ギリギリまで潜るのじゃ！海層に紛れる！」「正気ですか艦長殿！？」「正気でなければこんな事は言わん！全艦に指令！音を立てるな！ヨハンの口にハンカチかシーツを突っ込ませて黙らせるのじゃ！」「艦尾より浸水！」「応急処置急げ！慌てず騒がず！シュネル！」

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#rsbs日誌　「ぶはぁっ！？…はぁ…はあっ…は、ぁ…はぁ…ぁ……夢、かや…」わしは飛び起き、毛布を退かした。酷い脂汗じゃ。動悸が激しく、痛い。久しく見たもんじゃった。『あの頃』の夢を…「…あやつら、どうしているのじゃろうなぁ…」わしは寂しげにポツリと呟いた。

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#rsbs日誌　しばし、寝床の中で踞る。とっくの昔に癒えている嘗ての海戦で負った傷から来る幻痛がジクジクと体を苛んでいた。圧力に負け弾け飛んだボルトがえぐった二の腕や脚を押さえる。此ればかりは、治癒魔法の類いでも治せぬ…時刻は、とっぷりと深い闇。夜明けには４時間は懸かるだろう…

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#rsbs日誌　羽織を肩に掛け、寝室を後にした。歩けば気も紛れるじゃろう…と思い立ってじゃ。鬼火を明かり代わりにふらりふらりと歩く。工廠の近くを通りかかると不意にとある建物の光が目に入った。『其れ』を使う者は、わしの鎮守府ではごく僅かしか居らぬ。自然とそちらに足が向いた。

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#rsbs日誌　蛍光灯の青白い灯りが廊下や壁を照らす。入り口を通り抜け、更衣室の横を通り、わしは扉を開けた。塩素のツンとした臭いが鼻を突き、何処と無く学童であった頃の記憶を思い出す。わしは近付いていった。深く掘られた訓練用プールへと。そして…覗き込めば確かに其処におった。

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#rsbs日誌　とっぷりと満たされた蒼い水の中において尚、鮮やかに光り輝く黄金色。彼女は水中にてただ浮かんでいた。ぷっかりと、浮かんでいた。小さく、僅かな泡が彼女の口からぷつぷつと零れ、水面に浮かび上がっておった。童話の中の人魚のようじゃ…とわしは独り思いに耽る。

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#rsbs日誌　ぼんやりと水中にたゆたう人魚を眺めること暫し、ゆっくりと瞼を開く人魚にわしは手を振った。くるりと体を回してスィ、と水面に泳ぎ上がって来た。「ぷふぅっ。グーテンアーベン提督。こんな夜更けにどうしました？」「グーテンアーベン。アレスグーテ(ごきげんよう)じゃよ」

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#rsbs日誌　わしは上がってきた人魚こと、伊ｰ８の手を取ってやった。「いやなに、プールの灯りが点いておったでなぁ…誰かおるじゃろうと思うてな」「ふぅーん…エントシュルディゲン ズィー ミヒ ビッテ？(失礼しますね？)」ハチはそう言うとわしの頬に手を添え、目を瞑った。

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#rsbs日誌　ハチの体温が僅かに伝わり、爽やかな風の様な心地よさが、わしの体を駆け巡った。幻痛の痛みも和らいでおった。「ああ、やっぱり…提督さん、アルプトラゥム(悪夢)を見たんですね…」「分かるのかや…」「えぇ。最初はただ酷い顔をしているな…くらいでしたけども」

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#rsbs日誌　「それにしては、酷く窶れてるなぁーって思いまして…はっちゃん、提督のゼーリッシュ(精神)を見させて貰ったんです。…向こうのお兄さん達のこと、ですよね？」「…あぁ。そうじゃよ。わしが来訪した世界の、ドイツ海軍の時の夢じゃ」わしは正直に、淡々と白状した。

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#rsbs日誌　わしは海狼として大西洋を駆けた。気の良い、ドイツ人らと共に。あやつらと仲良くライ麦パンをかじり、ビールを煽り、油にまみれてはゲラゲラと笑いあったもんじゃった。そしてあの日…ライミーに追いかけ回されたわしらは、偶然とは言えヨハンに大怪我を負わせてしもうたのじゃ。

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#rsbs日誌　結果から述べよう。ヨハンは助かった。じゃが膝から下は失ってしもうた。わしとザニテイターのクルツで必死に処置をした故、不要な痛みは味合わずに済んだではあろうが…永らく航海を共にしてきたあやつを下艦させねばならなかったのが、酷く心残りじゃった。「大丈夫ですよ」

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#rsbs日誌　「提督のゼーリッシュを見た時に、ヨハンさんの気持ちが伝わってきました。特製の義足を有り難うって。タリスマンのお陰で一族皆が助かった。って…」わしはハチの肩をそっと掴んだ。「…本当かや。それはまことに、本当かや」ハチはゆっくりと首肯した「Ｊａ(はい)、ヤカロイ」

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#rsbs日誌　「そう、か…それは、本当によかった…良かったのじゃよ…わしはその後、録に見舞いにも行ってやれなかった…心配じゃったんじゃ…」「提督のシュルト(罪)じゃないですよ。あれはただの、ウンハイル(不幸)ですから…」膝をつき、崩れるわしを、ハチは優しく抱きしめ返した。

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#rsbs日誌　「提督。終わりのないアプグルンド(深淵)からハチを助けてくれて…本当に、本当にダンケシェン。ハチは、少しは恩返しが出来たでしょうか…？」ハチの少しばかり控えめな声に、わしは頷いた。「あぁ…今、とても大きな、恩返しを貰ったのじゃよ…ダンケ。ハチ。わしの人魚よ…」