死んだ旧友に妹への言伝を託された

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アドリア海2 @phortl

「とにかく僕は明日焼死することになりますので、妹に言伝をお願いします妹は△△(地名)に住んでいますので」 と昔の友人によく似たその男は続けた

2014-09-27 22:19:08
アドリア海2 @phortl

自分はこのように頭のおかしな男とは深いかかわりを持ちたくなかったため 「わかりましたあなたは明日死ぬのですねでも明日までにはまだ時間があるのだから自分で電話をして伝えてください」 と一度は突っぱねた

2014-09-27 22:26:11
アドリア海2 @phortl

するとその男は顔を真っ赤にして 「いいやだめです電話などもってのほかです電波を傍受される可能性がある」 などとまたしても得体の知れないことを言い始めた 「それで妹にもしものことがあったらあなた責任を取ってくれるのですか?」

2014-09-27 22:29:03
アドリア海2 @phortl

「もし電波が傍受されればあなたの妹に危険が及ぶ可能性があるのですか?」 「あります」 「そういうことをしかねない怪しからん人間がいるということですか?」 「ええそうです」 「それで電波を発する代わりに僕という人間を使い直接言葉であなたのメッセージを伝えさせようというのですね?」

2014-09-27 22:34:44
アドリア海2 @phortl

「はいそうです。これから僕の話す内容が人目に知れる形の情報として残ってしまうことは避けなくてはなりません。ですからあなたはそれをメモにとってもいけません。脳に刻み込むのみにしておいてください」 「それでは伝言を託された僕自身が危険に陥るということはないのですか?」 「ええ?」

2014-09-27 22:41:45
アドリア海2 @phortl

「いや盗聴という手段を使ってまであなたの言伝の内容を知りたがる輩がいるなら、それを預けられた僕がそいつの次なる標的になるということはないのですか?」 「いやその可能性は実際にありますよ」 相部屋の男は臆面もなく首を縦に振った。

2014-09-27 22:46:16
アドリア海2 @phortl

「そんなことなら僕はそういう役はご免ねがいますあなたの妹さんに会いに行くのに交通費だってかかるのに」 「受けてくれないのですか?」 相部屋の男は途端に絶望的な表情を浮かべた 「お願いしますお金あげるから」 「いえ悪いですが他の人をあたってください」

2014-09-27 22:53:27
アドリア海2 @phortl

「じぇいはん23!」 相部屋の男は突然気が狂ったように叫んだ 「じぇいはん23!」 男はなおもこちらの顔に指を突き立て、鬼の形相で詰め寄ってくる

2014-09-28 08:04:39
アドリア海2 @phortl

「聞いたな!?」 「・・・・」 「あんた聞いたな!?」 「・・・・」 「聞いてしまった以上、もうあんただって安全ではないから!」 「・・・・」

2014-09-28 08:05:05
アドリア海2 @phortl

「だからあんたは今の言葉を妹に伝えなくてはならない!」 「・・・・」 「僕は、そういう他人がどうなろうが、自分の身さえ助かればそれでいいみたいな、人間特有の利己的な発想が大嫌いなんですよ!」 「・・・・」 「そういうのは甘えだから、本当に!」 「・・・・」

2014-09-28 08:13:05
アドリア海2 @phortl

「あと、『シメオネに気をつけろ』と、これもあわせて言い伝えておいてください」 「・・・・」 「妹は△△市の@@高校にいるから」 「・・・・」 「住所までは教えるわけにいかないから」 「・・・・」

2014-09-28 08:37:14
アドリア海 @keizi80

また仕事首になりました知的障害者は生きていてはいけないということなのですねよくわかります

2014-09-28 17:51:11
アドリア海2 @phortl

「お願いしますよ?」 相部屋の男は瞳の嫌に肥大した瞳で自分のことをまじまじと見つめ念を押した 「ほんとお願いしますよ?」 「・・・・・」 「このことをあなたが妹に伝えるのと伝えないのとではどっちが危険度が低いかというと、それはもう伝えたほうが圧倒的に安全になるのだから」

2014-09-30 09:15:00
アドリア海2 @phortl

そして男はなんどもその 『お願いしますよ?』 を繰り返し、やがてそれにも疲れると再び部屋の隅に引っ込んで、ひざを抱えて寝てしまった。言いたいことだけ言ってしまうと、後は用済みという態度をとるところも旧友そっくりだった

2014-09-30 09:20:55
アドリア海2 @phortl

翌日の朝自分はその男と別れた 彼にこの後どこへ行くのかと聞くと 「これから自転車で日本海沿岸を北上します」 と答えがあった。 彼の話が本当であるとすれば、彼は今夜焼死することになるので、とてもサイクリングなどに興じている場合ではないと思われたのだけど

2014-09-30 09:22:30
アドリア海2 @phortl

そのことを自分からたずね、剣呑な話題を復活させたくないという思いもあり、自分はあえてそのことについてはたずねなかった。彼ももはやあえて語ることはなかった。

2014-09-30 09:35:16
アドリア海2 @phortl

ただ男は自転車に股がった去り際、大変物悲しそうな顔をして 「お願いしますよ」 と再び言った。 自分がなんと答えようか迷っているうちに、彼は風のように日本海沿いの道を駆け上がっていってしまった

2014-09-30 09:37:37
アドリア海2 @phortl

自分はその無防備な背中があまりにも哀れで、これは大変なことをした彼の話にもっと耳を貸してやるべきだったと後悔した。また彼の予言がこのまま事実になれば、自分はあの男を見殺しにしたことになるのでその点に関しても気がかりだった

2014-09-30 09:43:28
アドリア海2 @phortl

一度は警察に相談しようかとも思ったが、結局それは実行しなかった。ああいう虚言癖持ちの精神疾患者に警察が本気で対応してくれることはないだろうし、それで恥をかくことになるのも嫌だった

2014-09-30 09:50:11
アドリア海2 @phortl

その日の夕方、男とは逆に南へ走り続けた自分は、宿場町の旅館に泊まった。料金は高かったのだけど、ゲストハウスに宿泊することで2日連続奇人変人と相部屋にさせられたくないという思いがあった。

2014-09-30 09:54:57
アドリア海2 @phortl

その夜は個室で安眠することができた。翌朝、朝食をとりつつテレビを見ていると、朝のローカルニュースをやっていた 『昨日の夜10時ごろ、県北の民宿で火事があり、宿泊客2人が死亡しました』

2014-09-30 10:11:44
アドリア海2 @phortl

『犠牲者の一人は++県在住のXXさん26歳、もう一人の身元はわかっておりません』

2014-09-30 10:19:38
アドリア海2 @phortl

自分はあの男の名前を聞いてはいなかったが、++というのはあの男の妹が通うという学校の位置する県だった。また年齢もきわめて似通っているように思えた

2014-09-30 10:21:05
アドリア海2 @phortl

あの男が死んでしまったと自分は震えた。 自分が彼の話を精神疾患者の妄言と決めつけ、保護してやりもしなかったものだから、哀れなあの男は宣言どおり死んでしまったのだ。自分はいても立ってもいられなくなり、自転車をたたむと列車に乗り込んで、自宅へと逃げ帰った。

2014-09-30 10:26:50
アドリア海2 @phortl

途中地元の県警が自分を追ってくる図がイメージされてしかたがなかった。法に触れるようなことはしていないけれど、警察があの男の旅の同行を調べれば、死ぬ前日にゲストハウスで自分と相部屋になった事実にはすぐたどり着くはずなのだ。

2014-09-30 10:28:39