【憤怒】ヴィハvs【暴食】エメロード

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エメロード @actKrwz

「『大罪』はみぃんな美味しそう。でも、そうね、『赤ずきん』が何か代わりにくれるなら、少し考えるわ!」 ギチギチと大雀蜂が顎を鳴らす。 「ねえ、『赤ずきん』。あなたはあたしに、なにかくれる?」 ──いつかの心酔の傲慢のように。あたしの大好きな姫様のように。

2014-10-04 04:12:31
紺青ものえ @almiyy

木を噛じり始めた蜂に、胃が痛んでくる。暴食の嗜好や胃袋はおかしい。 「代わり……?」 俺が?と疑問を声音で示し、 「『他人(あんた)』に?」 意味が分からねぇと首を振った。『他人』にくれてやるものは一つも持ってない。自分は、ヴィハは、なにも持っていない。あったとしても、それは、

2014-10-04 09:46:08
紺青ものえ @almiyy

……全部、『あいつ』の、だよな。 放っておくと駄目になるから、仕方無く使ってるだけ。一人でまた立ってくれるのを待ってるだけ。それだけ。あーあ俺って健気、と笑い飛ばす代わりに、はあ、と熱を吐いて、 「なんにも、お前には、やれねえなぁ」 わざとゆっくり区切って、意思を伝える。

2014-10-04 09:46:11
紺青ものえ @almiyy

「あんたの為になるものなんて一個も無い。俺は俺で手一杯だ」 風で少し緩んだ所為か普段は忘れている顔の包帯の存在を思い出す。片手でそっと触れ、 「欲しけりゃ、奪いに来ればいいんじゃない?」 挑発とも取れる口調。無理矢理口許を歪めて意地悪く、しかし目は逃げるように反らして笑った。

2014-10-04 09:46:13
エメロード @actKrwz

「そう、残念ね!」 ころころと笑う。ギチリと大雀蜂の顎が鳴る。 「別にあたし、『赤ずきん』の『なにか』が欲しいわけじゃないのよ」 勘違いしないでね、と釘を刺すように笑う。 「だから、奪うとか、そういうんじゃないわ!」 首を傾げる。口元が笑う。

2014-10-04 11:36:30
エメロード @actKrwz

「──あたしは、ぜーんぶ、食べるだけだわ!」

2014-10-04 11:36:42
エメロード @actKrwz

くすくす、くすくす。その笑い声はどこか楽しげに。少女は青年に満面の笑みを向けた。 「いただきまーすっ!!」 大雀蜂が二つ、ギチリと顎を鳴らして青年を喰らわんと飛んで行く。それぞれ右腕と左脚を狙って。

2014-10-04 11:36:56
紺青ものえ @almiyy

「ふぅん……俺からすりゃあ……『なにか』も『全部』も変わんねぇのよ」 こちらに向けられた笑顔に嫌悪を返しながらポケットの中、熱を持った包帯まみれの手を出して、ジュッと焼けた音と共に爽やかさの欠片もない青い火を手に纏わせる。

2014-10-04 15:36:13
紺青ものえ @almiyy

意のままに歪み撓る青い火を片手に木の根を弾くように後方へ飛び退き、黒く大きな蜂に向かって叩き付けるように投げる。 「焼けて泣いても知らねぇからな!」 マフラーの端を掴む。 投げた青はただ直線に、しかし途中で砕けて小さく、範囲を広げて。

2014-10-04 15:36:15
エメロード @actKrwz

ころころ笑う。くすくす笑う。 「ほら、ほら、行って! 『赤ずきん』を食べてしまうの! じっくり、ゆっくり味わうのがレディの嗜みよ!!」 両腕を広げれば、大きさは小さいが雀蜂の群れがしなる炎の鞭に向かっていく。大雀蜂が一匹、しなるそれにぶち当たり霧散した。くう、と腹が鳴る。

2014-10-05 01:17:35
エメロード @actKrwz

「逃げて、逃げて、その先は鍋かしら? それとも生クリームの山かしら!! ねえ『赤ずきん』、どちらがお好み?」 くすくす。小さなものらが集った群れが大雀蜂を守るように集い、壁を成す。散らされる度、霧散してはまた前にとする。大雀蜂はまるで王のように、壁の後ろで一際大きく羽根を鳴らす。

2014-10-05 01:19:51
紺青ものえ @almiyy

「レディならマカロンにときめきながら寝ろ!レディ云々全く知らねえけど!」 大物は小物に邪魔され燃やせない。当たっても燃やしたというよりは散るのに近い。小物が守るということは親玉なのか。子供の声に首を振る。 「俺は鍋もクリームも嫌いですぅ」 ちょっと可愛く言ってみたが駄目そうだ。

2014-10-05 01:51:07
紺青ものえ @almiyy

足場の良い所に滑り込むように体を落ち着け、長いマフラーを端を掴んでバサリと落とす。寒いが仕方がないと、ぐんっと端を引っ張り青い火を纏わせる。鞭のように触れた土や枝を焦がす、森には優しくない、憤怒の『ささやか』な抵抗だ。 「こっちに来るな、こっちを見るな、ついでにどっかいけ!」

2014-10-05 01:51:17
紺青ものえ @almiyy

わざと苛立ちを溜めるように気に入らない部分を見つけて作って、それが嫌だと示して、息を吸って怒鳴ってみせる。 言い終わる前に両手でバットを振るように、ぐおんと振られたマフラーは布を思わせない鋭い動きと速度で、少年の狙いのまま青い熱を持って蜂の壁へと。

2014-10-05 01:51:22
エメロード @actKrwz

「来るな見るなと言われたら、やりたくなるのが人間だと思わない? あたしはすごく思うわ!!!」 蜂を操る。己の空腹が具象化されたそれらは徐々に、徐々に数を減らし──遂に二匹目の大雀蜂も霧散した。 と、思われた刹那。今までなりを潜めていた三匹目が木陰から現れ、齧りつこうと顎を剥く!

2014-10-05 01:55:31
エメロード @actKrwz

「マカロンも大好きだけど、」 大雀蜂から大分距離の離れた場所にいる少女は、ころころと笑ってくるりと回る。 「今はあなたが『食べたい(欲しい)』わ、『赤ずきん(ヴィハ)』!!」 にまりと浮かぶ笑みは、見目からは想像もできないような邪悪な笑み。

2014-10-05 01:57:26
紺青ものえ @almiyy

火が掠って木が焦げた匂いを無視し、 「思わねぇから俺人間やめるわ!」 減っていく小物の蜂と親玉のようにでかい蜂が消え、一度手前にマフラーを引きかけ、あの耳障りな音が気にしてなかった木の陰から聞こえ、目視をする前に本能で飛び退こうと足に力を込めて、 「――ッ!」

2014-10-05 02:30:07
紺青ものえ @almiyy

肩に鋭い、そして熱い感覚。 顔の近くで羽撃きの音と何かが引っ掛けられたような重みと圧迫。片方の視界に映ったのは黒い蜂の頭。 「ヅッ、ぐ、近ぇんだよ!!」 殴りつけるように蜂に思い切り拳をぶつけ引き剥がす。ブチンと離れた蜂より自分の拳から嫌な音がして、血の気が引く。

2014-10-05 02:30:11
紺青ものえ @almiyy

「ってぇ……」 手で押さえた傷は、コートが重く感じ始める程度に血が溢れている。ゾッとして、苛立った。子供の笑みに。自分を噛んだ蜂に。 「――クソが」 ゆら、と足元覚束無いまま、子供を真っ直ぐに睨みつけ、どす黒い怒りを溢れさせながら引き掛けのマフラーを殴った蜂へ真っ直ぐ落とした。

2014-10-05 02:30:36
エメロード @actKrwz

殴られた蜂は弱々しく羽音を鳴らし、地に落ちていく。完全に地に伏せる前、マフラーは抵抗出来ない大雀蜂に向かって真っ直ぐ振り下ろされ、それも間もなく霧散した。

2014-10-05 15:59:59
エメロード @actKrwz

現状、残っている蜂はエメロードを守るように囲んでいる百程度の小さい雀蜂たちだ。ぱちりとまばたきをして、少女は口元を隠したかと思えば、うふふ、と小さく笑った。 「おいしい……!!」 いっそ艶やかにすら映るであろう笑み。両頬に手を宛て、ゆらゆらと身体を揺らす。

2014-10-05 16:01:28
エメロード @actKrwz

「もっと、」 翅ががなる。 「もっと、」 霧散した雀蜂が戻るにはまだ掛かる。 「もっと!!」 エメロードの周囲にいた雀蜂らは、少女の【空腹】に煽られ憤怒の元へと殺到する。

2014-10-05 16:03:03
エメロード @actKrwz

──つまり、今の少女には自分の身を守る術が残されていない。 「もっと食べさせて! 味わわせて! 『赤ずきん(あなた)』を!!」 食欲に駆られた暴食が己の身を省みる事など無い。ただそれは【空腹】の煽るまま、憤怒を食らわんと。

2014-10-05 16:23:17
紺青ものえ @almiyy

マフラーが火で焦げて崩れてきているのを見て、そろそろ時間がないことを悟り、暴食の方へ向き直る。自分の血を吸った髪とコートと、血の抜けた体が鉛のように重い。 笑顔でもっとと繰り返すそれに、かくんと首を傾ける。頭が重い。そう、血が足りていない。そして重い頭は苛立ちで一杯だ。

2014-10-06 04:23:28
紺青ものえ @almiyy

少年はボロくなったマフラーを引っ張り半分に折って強く握る。じくじくと痛んでいたはずの肩はもう痺れてしまってもう分からない。 齧りやがってと向かい来る小さな蜂の群れに迷わず、ただ真っ直ぐに突っ込む。苛立ちは湧けど、未だにはっきりとした怒りは来ない。 「俺っておいしーの?」

2014-10-06 04:23:32