『炎上急行』#3

使命を胸に、旅を続けるメルヴィ。彼女は長距離列車での移動中、不思議な出会いをして、大きな運命の転換に翻弄されます。 この話は#4まで続きます
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減衰世界 @decay_world

最後の列車は細心の注意を払って接近した。この客車だけ異常にねじ曲がっている。まるで竜巻に巻き込まれたように破壊されていた。ロドルがいた車両だろうか、車両に振られた番号に見覚えがあった。自分たちの乗っていた客車だ。そして、ロドルも……。その客車も死んだように静かだ。 94

2014-10-07 20:33:13
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メルヴィは息を飲んだ。客車の亀裂から覗く内部……その内部に赤い糸のようなものが大量に張り巡らされているのだ。まるで蜘蛛の巣のように。そして獲物の昆虫のように……人間が巻き上げられているのだ! 95

2014-10-07 20:39:34
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ミルギルィはメルヴィの肩を掴み、静かに、のジェスチャーをした。メルヴィははっとなってミルギルィを見る。もう少しで声を……コリキスを呼ぶ声を上げる所だった。ミルギルィは一人静かに車両に近づき、亀裂から内部を覗く。そして引き返してきた。ひゅうひゅうと風が吹く。 96

2014-10-08 16:15:15
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「中に誰もいないみたい。あるのは死体だけ。それでも行く?」 ミルギルィはさらに続ける。「戦力を確認しましょう。魔法は無理。あなたの腰に下げている短剣でどれほど戦える? 予期せぬ戦いを警戒しなくちゃ。運命は、ねじ曲がっている」 ミルギルィはスカートをまくりあげた。 97

2014-10-08 16:20:18
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スカートの中、太ももに短剣が差してあった。ミルギルィはそれを抜く。青い刀身が不気味に光った。恐らく魔法の品であろうとメルヴィは思った。メルヴィは自問する。自分には何ができる? 自分の持つ頼りない短剣には毒の魔法も鉄さえ切り裂く魔法も付与されていない。 98

2014-10-08 16:27:08
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「私、弱いからって仲間を見捨てるようなことはしたくない……ただそれだけです」 メルヴィはそれしか言えなかった。ミルギルィは微笑む。「優しいのね。でも、そのせいで命を落とさないようにね」 ミルギルィは青い短剣を構えて捩じれた列車へと侵入を開始した。 99

2014-10-08 16:32:23
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通常、魔法使いはその魔法的感覚で周囲の地形や生命体の存在を感知できる。だが、いまは著しく魔法が制限されている。マッチの火をつけるような魔法さえ命取りであるとミルギルィは言った。敵がどこから来るか分からない、非常に危険な作戦。青い短剣がカリカリと震える。 100

2014-10-08 16:41:19
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メルヴィはミルギルィの後についていく。列車内は髪の毛のような赤い繊維が張り巡らせてあった。まるで蜘蛛の巣にかかった獲物のように、いくつもの死体が絡め取られている。ロドルの姿は無い。ミルギルィの青い短剣が微かに明滅する。ミルギルィは繊維を斬り払った。 101

2014-10-08 16:49:57
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「ここには誰もいない。見て、死体を。みんな血液が抜き取られている。“召し上がった”後、捨てて行ったんだ」 列車の奥には大穴が開いていて、そこから荒野に向かって引きずったような跡が続いている。「もうロドルはどこかへ行ってしまったね」 ミルギルィはそう言った。 102

2014-10-08 16:55:56
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ミルギルィは次々と繊維を斬り払い、死体を開放していく。メルヴィも短剣で手伝うことにした。乗客や黒服など、次々と赤い繊維の中から死体が転がり落ちる。繊維の切れ端がメルヴィの手に触れた。するとそこから血がにじみ始め、メルヴィはそれを慌てて振り払う。 103

2014-10-08 17:01:55
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「気をつけて。この繊維、血を吸うのに使ってたみたいだから」 遅れてミルギルィが注意を促す。メルヴィは黙って頷いた。彼女はそれから幾分か注意して作業を続けた。すると、繊維の中から見知った服の端が現れた。「コリキス! そんな……」 急いで短剣で繊維を払っていく。 104

2014-10-08 17:07:35
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やがて無残な姿に変わったコリキスが現れた。皮膚には無数に赤い筋が残り、顔色は真っ青だ。身体のあちこちに牙を突き立てたような穴が開いていたが、血はほとんど流れていなかった。全身の血を抜かれてしまったのだろう。メルヴィは必死にコリキスに纏わりついた繊維を除去する。 105

2014-10-08 17:12:02
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メルヴィの指先が繊維に触れ血がにじむ。それでもメルヴィはコリキスの身体から繊維を取り除き続けた。「人類帝国に行けば、蘇生魔術があります。コリキスもそこで治療を受ければ……」 「それはできません」 メルヴィの訴えをミルギルィは退ける。 106

2014-10-08 17:19:19
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「大都市に行って大金を積めば蘇生の手続きを行うことは可能です。でも、こんな辺境で、列車も無い。死体は腐敗し蘇生は不可能になります」 ミルギルィは苦しそうに言う。メルヴィはようやく実感した。コリキスは……死んだのだと。 107

2014-10-08 17:24:38