【第三部-六】姉としての私 #見つめる時雨

扶桑×山城 時雨
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扶桑視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

最近は日が落ちるのもだいぶ早くなってきました。外はすっかり暗くなっていて、誰もすれ違わない廊下はとても静かです。外にいる虫の鳴き声も綺麗に聞こえてきます。私は夜に開かれた虫達の合唱会を鑑賞しながら、日本の秋に浸りました。…心が休まります。

2014-10-21 21:01:49
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

特に宛てもなく廊下を歩く。今日は秘書艦の仕事も早く片付いてしまったので、提督に暇を頂いたのですが、かといって部屋に戻ってもすることはありませんでした。手元にある本は全て読み終えてしまっていて、この夜の散歩の目的といえば、部屋にいなかった山城を探すことでした。

2014-10-21 21:10:34
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

山城はこの時間、何をしているのでしょう。昨日一冊の小説を貸してあげたので、もしかしたらどこかで読んでいるのかもしれません。となると、談話室か食堂でしょうか。あのコは賑やか過ぎる場所は苦手ですが、一人でいることもまた、苦手ですから。

2014-10-21 21:15:41
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…でも、一人でいることが苦手なのは、私もかもしれません。部屋で待っていればいいのに、こうして山城を探して歩いているのですから。あのコは私を見つけると、いつも子犬のように走ってきます。山城は常々こう言ってくれます。私の傍が一番落ち着くのだと。それは、私も同じのようです。

2014-10-21 21:20:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

食堂を覗くと、翔鶴さんと瑞鶴さんが歓談していました。 「翔鶴姉、あーん」 「え!?ちょっと、瑞鶴…」 瑞鶴さんが翔鶴さんにパフェを食べさせようとしています。翔鶴さんは恥ずかしそうに顔を赤くしていました。声をかけようかと思ったけれど、邪魔をしてはいけない空気を感じます。

2014-10-21 21:25:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

逃げ場を探すように視線を彷徨わせる翔鶴さん。彼女の正面に座っている瑞鶴さんからはその様子がよく見えていることでしょう。困っている姉を見てそれでもスプーンを引こうとしないのは、そんな翔鶴さんを見るのが楽しいからでしょうか。それとも。

2014-10-21 21:30:48
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

観念した翔鶴さんが耳まで赤くなりながら瑞鶴さんのスプーンを口に含むのを見届けてから、私はまた山城を探しに移動しました。厨房にいた伊良湖さんが二人の様子をこっそり覗いていたのは黙っておいてあげましょう。まぁ、私も似たようなものだけれどね。

2014-10-21 21:35:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「Hi 扶桑!秘書艦のお仕事はもうおしまいデスか?」 廊下の角を曲がったところで金剛に出くわしました。 「ええ。今日は早めに片づけることができたわ」 「お疲れさまデス。テイトクは部屋にいマスか?」 「そうね、まだお部屋にいらっしゃると思うわよ」 「Oh Thanks!」

2014-10-21 21:40:26
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「実は前から欲しかった紅茶が届いたんデース。これからテイトクとTea Timeしてくるネ!」 そう言って金剛は持っていた紅茶缶を見せてくれました。イギリスの紅茶かしら。 「今度扶桑にも飲ませてあげますネ!とても美味しいデス」 彼女の満面の笑みは私には少し眩しいですね、ふふ

2014-10-21 21:45:37
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「そうだわ金剛。山城を見なかったかしら」 「山城デスか?さっき談話室で本を読んでましたヨー」 「そう、ありがとう」 すれ違い際に聞こえた金剛の鼻歌にくすりとさせられながら、私は談話室へ向かいました。

2014-10-21 21:50:30
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

談話室を覗くと、そこにはソファーの上で規則正しく寝息を立てている少女がいました。肩まで伸びたセミロングの髪は綺麗な鴉色で、緑なす黒髪という言葉は彼女の為にあるのだとさえ思いました。…これは姉馬鹿というやつかしら。でも…仕方がないわよね。だって、本当にそう思うのだから。

2014-10-21 21:55:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

机の上には栞が挟まった本が置かれていました。昨日貸したばかりだというのに、山城は随分先まで読んでくれてるみたいです。気に入ってくれたのかしらね。小説というものは読む速さでその人の好みが顕著に表れます。私と山城の好みが重なる。それはとても嬉しいこと。

2014-10-21 22:01:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は山城を起こさないようにゆっくりと傍へ近づきました。すると、陰で山城にもたれかかるようにして眠る三つ編みの女の子がいることに気がつきました。貴女も、ここにいたのね。私がそのコの頭を軽く撫でると、彼女は擽ったそうに身動ぎ、髪飾りをちりんと鳴らせました。

2014-10-21 22:05:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「ん…」 時雨が眠りながら山城の腕に身を寄せています。その表情は安心し切った様子でした。普段は落ち着いて大人びた雰囲気がある彼女だけれど、今こうして山城に甘えるようにして身を預ける姿には、幼ささえ感じられます。

2014-10-21 22:10:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…私は時々、このコが羨ましくなります。私がこのコのように甘えてみたいと思っても、それは中々出来ません。山城は、姉であり、甘えられる存在である私を求めているのです。その私が山城に甘えたい。…ダメ。きっと、がっかりされてしまう…。

2014-10-21 22:15:27
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は姿勢を低くし、山城の膝の上の置かれた彼女の手にそっと自分の掌を重ねました。…山城。貴女は私にとって大切な妹であり、守りたいかけがえのない存在であり…。だけど、貴女の芯に宿る心はとても強い。本当に守られているのは、私なのかもしれない。

2014-10-21 22:20:24
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

山城、貴女にはどんなに絶望的な中でも戦う意志を失わない強さがある。貴女は私が崩れてしまいそうになった時、いつだってその強さで私を支えてくれていた。…あの時も。ねぇ、山城。貴女にもう少しだけ…寄り掛かってもいいかしら。私は姉として、でも一人の女としても、もっと貴女に…

2014-10-21 22:25:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

…ああ、どうしてこんな気持ちが湧いてきてしまったのでしょう。山城が一線を越えたその気持ちを告白してくれたあの時でさえ、私が抑え込んでいた同じ感情を吐露したあの時でさえ、私は姉であり続けたというのに…

2014-10-21 22:30:38
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…山城」 私は右手で自分の髪を耳にかき上げながら、穏やかな吐息が漏れる彼女の唇にそっと口づけをしました。 「ん…ふ…」 …貴女が眠っている時なら、誰も見ていない場所でなら、薄暗い中でなくても私は貴女にこうすることができるというのに。

2014-10-21 22:35:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は山城の感触が遠退いていく感覚に寂しさを覚えながら、ゆっくりと唇を離しました。…山城はまだ夢の世界にいるようです。…もう一回だけなら、大丈夫かしら。…いえ、こんなこと、これ以上はいけないわね。もし誰か来たら…― 「…扶桑?」 …え?

2014-10-21 22:40:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

時雨と、目が合いました。なんとも言えない空気が私達の間に広がり、私も時雨も、視線を交わしたまま固まって動けないでいました。 「…見たの?」 私がそう問いかけると、時雨は半開きの唇をそのままに、静かに首を振りました。…これは、十中八九…見られてしまったに違いありません…

2014-10-21 22:45:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は次第にいたたまれなくなってしまい、熱くなっていく顔を両手で覆いました…。 「…山城には言わないで…お願い…」 「えっと…」 時雨には以前私の身体に刻まれた山城の口づけ痕を見られたりした事はありましたが、こんなところを見られたのは初めてでした。恥ずかしくて、堪りません…

2014-10-21 22:50:22
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…扶桑のそんな顔、久しぶりに見た気がするよ。扶桑って、そういうところ可愛いよね」 「…!!?」 やめて…やめて…。時雨ったら、どうしてそんなこと言うの…。ああ…熱くて、恥ずかしくて…爆発してしまいそう…。

2014-10-21 22:55:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「あ、扶桑。提督が呼んでるわよ。工廠で新しい艤装を見て欲しいって…って、どうかしたの?」 「え!?な、何でもないわ!!」 突然やってきた満潮に対して反射的に立ち上がり、私は何事もなかった風を装いました。 「…顔真っ赤だけど、大丈夫?」 「だ、大丈夫よ…。すぐに引くわ…」

2014-10-21 23:01:42