どっちの料理SHOW -ぬいカレーvsはまカレー-
浜風は耳をそばだてていた。 場所は艦娘用の浴室である。いくら人との接触を避けている浜風とはいえ、利用時間が決まっている浴室では一人でいられるわけもなく、洗い場でも浴槽でも必ず端っこに陣取って他の艦娘との距離を保つのが精一杯だった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 20:59:30いつもなら体を洗って少し湯につかったらすぐに上がる浜風だが、今日ばかりは少し長湯になりそうだった。 理由はそろそろ上がろうと思っていた時に入ってきた陽炎、黒潮、不知火の三人である。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:00:07「料理したことない不知火が提督のためにねえ」 「で、どないやったん? ちゃんと全部食べたんやろな?」 「それはもう。とても喜んで食べていました」 興味津々にあれこれ聞き出そうとする陽炎と黒潮に対して、不知火の声はやや自慢げだった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:01:02どうやら不知火は長門にこっそり料理を教えてもらって、提督にカレーを振る舞ったらしい。 「長門さんがいきなりコーヒーを入れた時は驚きましたが、味見したらとても美味しくて」 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:01:29ふむ、と浜風は頷く。 カレーにコーヒーやココアはよく知られた隠し味である。手軽に味に深みを出すのに便利だ。艦艇のカレーレシピにも仕上げにインスタントコーヒーを入れるものがあったはずだ。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:02:05他にはまろやかさを狙うなら蜂蜜やすりおろしたリンゴ、ペーストにしたバナナを入れるのもいい。麺つゆで和風カレーというのもありだ。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:02:26――なるほど、カレーか。 今まで何度も手料理を振る舞ってきたが、そういえばカレーはまだなかった。カレーは男性が好きな料理のトップクラスに入るという。だったら避けては通れない。今度作ってみるとしよう。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:03:09――負けていられないわ。 水面に波を起こさないようにゆっくりと立ち上がり、小さな決意を豊かな胸に秘めて浴室を後にするのだった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:03:27翌日は非番だったので、浜風は朝からスーパーに買い物に出た。警衛隊の門番も慣れたもので、今日も買い物かい、などと気さくに話しかけてきたのだが、浜風もいつも通りに「ええ、ちょっとスーパーまで」と色気のない返事をするのだった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:06:05朝から食品の買い出しとは少し奇妙かもしれないが、24時間営業のスーパーは生鮮食品なら朝方でも値引き品が残っているのだ。ただしそれもマダムたちが活動を開始するまで。朝に買い物をするなら10時前でなければならない。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:07:15入店すると野菜売り場を無視して精肉コーナーに直行する。狙い通り割引シールが貼られた品がいくつか残っているのが確認できた。牛、豚、鶏、挽肉まで一通り揃っている。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:08:18もも肉も胸肉もどっちも良いが、カレーの具としては味が強いもも肉が優勢だと思う。胸肉に比べれば少し高いが、それも値引きされて100グラムおよそ98円になっていたので納得のお値段だった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:12:50続いてにんじん、玉ねぎと次々にカゴに放り込んでいく。ルーには特にこだわりがないので、二番目に安いもの。一番安いものはちょっと不安。浜風カレーの味の決め手も忘れずに。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:13:31「さて、大豆かジャガイモか……」 凝るなら大豆だ。しかし食べられるまで15時間水を吸わせて3時間煮るので、かなり手間がかかる。それに豆のカレーというのは結構な変り種だ。 今回は試作なので、そこまで凝らなくてもいいのではないか? #落ちぬい二次
2014-10-25 21:15:04それに、 「家庭的……」 あの人は浜風の手料理を家庭的でいいと言ってくれている。であれば、ジャガイモで決定だ。3個入りの袋をカゴに入れて、最後に牛乳を取ってからレジに向かった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:15:37「さてと、始めますか」 部屋の流し台の前でエプロンをかけ、軽く気合を入れる。 にんじんの先端とてっぺんをちょっと切って、ピーラーでしゃかしゃか剥く。剥いたら縦に四つに切ってから乱切りに。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:19:07じゃがいもは包丁で皮を削ぐように剥いて、大きめに切る。 大きめに切ると火が通るのに時間がかかるが、実は先立つこと三日、秘密兵器を導入しているので短時間での調理が可能なのだった。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:19:50その兵器というのは何を隠そう圧力鍋。容量3リットルの中くらいのものだが、ずっしりとした重量が頼りになるやつだ。これなら食べ応えがあるサイズの具も手軽にホクホクに仕上げられる。 ステンレスの光沢がまぶしい圧力鍋ににんじんとジャガイモを入れる。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:20:55玉ねぎは炒めてからにしようとも思ったが、ここは全面的に圧力鍋に頼ってみようという事で生のまま投入。切り方は半分を太目に刻み、残りを粗いみじん切りにした。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:21:50そこに水を具が浸るくらいまで入れる。ここで浜風カレーの隠し味も忘れずに。ただしこれが強すぎるとカレーの様でカレーではない何かになってしまうので、量には特に注意。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:27:07圧力鍋の設定を定圧に合わせ、IH調理器にかける。しばらくすると蒸気口から湯気が出始めたので、火加減を最弱に設定。このまま加圧時間は20分といったところだ。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:29:06火加減を間違うと最悪の場合、爆発すると説明書に書いてあったので、緊張しながら湯気の具合を見つめる。圧力鍋爆弾騒ぎになったら笑い事ではない。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:30:19「そういえば、不知火さんのカレーってどういうのだったんだろう」 思い返しても長門に教わって作り、コーヒーを隠し味に使ったくらいしか聞いていなかった。肉は何を使ったか、辛さはどうか、ジャガイモは入っていたか。そのあたりが聞ければもっとしっかり対抗できたかもしれない。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:31:03しかしあの三人の会話に割って入ってあれこれ訊くのはさすがに無理だと思う。隠し味を被らないようにできただけでも大成果だろう。そう思っておこう。 #落ちぬい二次
2014-10-25 21:35:07