蒼い蟻#1

事務所の助手ミレイリルはある日綺麗な蒼い蟻を見つける。突然喋り出した蒼い蟻。彼は盗賊の死霊で、未練を抱えているという。彼の胸の内にある願いと、それを阻む過去の影。 この話は#4まで続きます
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あの後役所に死霊浄化等の手続きをしてから、古酒探しに出発したのだ。大盗賊の死霊化と言うと、すぐに補助金の手続きが行われた。廃坑に潜る手続きをするためにも、役所に行くのは手間が省けた。それから街外れに移動し、何年も使ってないエレベーターを使用して、縦穴を降りたのだ。 24

2014-10-31 16:52:49
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レックウィルはガスランタンを掲げて、闇の坑道を照らした。クノーム市の鉱物資源はほぼ枯渇しており、微小な鉱石から昇華した魔力が坑道内に充満していた。ガスランタンの光はすぐに魔力の空気に吸収され、暗い霧のように坑道に闇をもたらす。こういった場所はダンジョンと呼ばれている。 25

2014-10-31 17:06:23
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「結構魔力が濃いから、襲撃に備えて警戒を怠らないように」 レックウィルはミレイリルに釘をさす。ダンジョンは危険なのだ。濃い魔力を求めて、異形の生物やならず者、魔法使い等がダンジョンに姿を現す。人殺しなど何とも思わないものばかりだ。しかもミレイリルは戦力にならない。 26

2014-10-31 17:10:01
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「ミレイリル、そのうち君には戦闘訓練の研修でも受けてもらおう……魔法は使えなくとも、魔法の道具くらいは勉強すれば使えるようになる。僕のようにね」 彼は魔法も使えなければ武術の心得があるわけでもない。それでも彼が死霊と戦えるのは、彼が魔法の道具で武装しているからだ。 27

2014-10-31 17:14:38
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レックウィルは左手に宝石の光るステッキを持っていた。黒いスーツには金や銀のアクセサリーが所々に光っている。白い髑髏のネクタイピンは彼の愛用品。腰のポシェットには二つの鉄球が入っている。どれもこれも、魔法の力を秘めた道具だ。これらを駆使し幾つもの死線を乗り越えてきた。 28

2014-10-31 17:19:04
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「わたしも早く先生の役に立てるよう頑張ります!」 鼻息荒くミレイリルは答える。だが、彼女の意気込みはいつも空回りするばかりだ。「ひとつ、教えてやろう。役に立つ魔法道具だ」 レックウィルはステッキを小脇に挟むと、ポケットを探り始めた。そして一つの指輪を手渡す。 29

2014-10-31 17:24:26
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「この指輪はいったい……」 ミレイリルはその濁った緑色をした指輪を眺める。レックウィルは立ち止って説明をした。「指輪をはめて、こすりながら呪文を唱える。『腐った、腐った、キャベツ、キャベツ』だ。覚えておくように」 「そうするとどうなるんです?」 30

2014-10-31 17:31:45
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「腐敗臭の雲を出すことができる。やはりキャベツの腐ったような悪臭だ。野生動物の撃退、および暴漢から身を守るのに使える。君にあげるよ」 「可愛くない魔法ですね」 ミレイリルは残念がったものの、自分の指に緑の指輪をはめると、どこか自分が強くなった気がしてニヤニヤした。 31

2014-10-31 17:35:10
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ミレイリルは指輪をこすって、呪文を唱えてみた。「腐った、腐った、キャベツ、キャベツ」 すると、薬缶から湯気が噴き出すように指輪から大量の濁った緑の気体が噴き出した! 「うえええ、臭い、臭い! 助けて!」 腐敗臭の雲はミレイリルの周辺を漂うばかりだ。 32

2014-10-31 17:40:04
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「訓練すれば雲を自在に動かせるようになる。イメージを強く持つんだ。さぁ、実習は終わり。先へ進むぞ」 レックウィルは涼しい顔で歩きだす。彼は魔法の雲に対する防護があるので臭いを感じないのだ。「うええ……酷いよぉ」 ミレイリルはばたばたと手を振り回して雲をかき消す。 33

2014-10-31 17:44:22
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そんな騒がしい彼らを、坑道の闇から覗いている者がいた。彼は気付かれないようにじっと身を潜めている。やがて、二人が去ったのを見計らい、足音を立てずに追跡し始めた。 34

2014-10-31 17:47:19