【第三部-小話】山城の進水日に一滴の雫を #見つめる時雨

山城×時雨
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誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「山城」 茶室の障子を開ける。そこには窓から外を眺める山城がいた。ちょっと疲れた顔してる。 「よくここにいるのがわかったわね。何か用?」 「廊下から見えたんだ。山城こそ、こんなところで何してるの?」

2014-11-03 20:03:48
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「扶桑姉様とここで待ち合わせてるのよ。本当ならもうその時間なのだけれど、姉様に急な任務が入ってしまって。でも提督にあんなに平謝りされたら我儘も言えないわ。しょうがないからここで待つことにしたの」 「そうなんだ」 膝歩きで、山城の傍に移動する。

2014-11-03 20:07:37
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「今日はどうだった?」 山城の進水日。扶桑の時も皆でお祝いしたように、山城へも皆からお祝いが贈られた。山城は終始顔を赤くしながら困惑してて、可愛かった。 「…私はあんな風に盛大に祝われるのはやっぱり苦手だわ…。勿論とても嬉しいのだけれど、何だか疲れちゃって」

2014-11-03 20:12:23
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「ふふ、ごめんね」 「…言い方が悪かったわ。嬉しかったのは本当よ」 …山城はこう言ってくれるけど、よかったと思う反面、山城を疲れさせてしまったことに少し罪悪感が湧いてしまう。もっといいやり方はなかったかなって。

2014-11-03 20:16:21
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「…もう、そんな顔させたかったわけじゃないのよ」 「わっ…!?」 突然山城に背中から抱き抱えられた。 「…時雨も色々準備してくれたんでしょ。金剛から聞いたわ」 耳に、山城の息がかかる。 「…ありがと」

2014-11-03 20:20:27
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「…ねぇ、山城。渡したいものがあるんだ」 「…え?」 僕は懐に忍ばせていた包み箱を取り出し、僕の背中側にいる山城に見えるように自分の掌に置いた。 「…これは?」 「開けてみて」 山城がそれを受け取る。背中越しに、包みを開ける音が聞こえてくる。

2014-11-03 20:27:15
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「…これって」 「…すごい悩んだんだ。何をあげようって。山城ってすごい良いもの、沢山持ってるから。でも西洋風って言うのかな。こういうのはそんなに持ってないかなって、そう思ったんだ」 選んだのは、雫のカタチをしたペンダント。

2014-11-03 20:31:15
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「和服には合わないかもしれないけど、洋服には合うと思うよ。…どうかな」 …山城は何も言わない。今山城はどんな顔をしているんだろう。振り返れば、その答えはある。でも、それをする勇気が今の僕にはなかった。心臓が落ち着かない。ああ、顔が熱い…。

2014-11-03 20:34:24
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…今更になって、とんでもないものを選んでしまったんじゃないかと後悔の念が湧く。だって、恋人でもないのに、こんなアクセサリーを…。いつもならブレーキがかかるというのに、山城の進水日という特別な日に特別なものを送りたいものという気持ちが先行してしまった。…僕って、ダメだ。

2014-11-03 20:37:33
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「…時雨」 服を軽く引っ張られる。思わず自分の手が胸の前にきた。鼓動が、手に伝わる。 「…こっち向きなさいよ」 …深く息を吸い、ゆっくりと吐く。そしてもう一度吸って…僕は山城の方を向いた。

2014-11-03 20:40:29
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雲ひとつない夜。その空に浮かぶ月が、山城の首元に落ちた雫のペンダントをきらきらと光らせていた。 「…どう?似合うかしら」 …僕は何も言えなかった。胸がいっぱいで、言葉を出せなかった。こみ上げてくるものを抑えるだけで、精一杯だった。

2014-11-03 20:46:13
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それでも、僕は色んなものを振り絞って、言った。 「…似合ってるよ、山城。とっても…綺麗だ」 …山城は少し頬を赤くして、穏やかに微笑んでいた。きっと見えているはずの、涙を浮かべた僕の姿には、何も言わずに。

2014-11-03 20:49:11
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「…山城」 「…何?」 「山城。山城」 「…何よ。そんなに何度も言わなくても聞こえてるわよ」 「僕ね、山城の名前、好きなんだ。今日は山城が山城として進水した日。だから、たくさん言いたい」 「やめてよ。何だかくすぐったいじゃない…」

2014-11-03 20:55:10
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「山城」 彼女の名前に僕の想いを乗せて、言葉にする。ひとつひとつ紡ぐ度に、僕の胸はきゅっと締め付けられた。好きで好きで、たまらなくて。…本当は少し辛くて。でもそれ以上に傍にいられることが幸せだから、少しの辛さには目を瞑り、僕はただ彼女の名前を口にする。山城。山城。

2014-11-03 21:00:18
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僕の肩に山城の両手が置かれる。そしてそのまま体の向きを反対にされてしまった。…山城? 「…そろそろ本気で恥ずかしいんだけど…。…ばか時雨」 山城の頭が、僕の後頭部にこつんとぶつかる。肩から感じる山城の体温と、首に感じる彼女の吐息がくすぐったい。…このまま、もう少しだけ…。

2014-11-03 21:05:09
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障子の向こうから、扉が開く音が聞こえてきた。きっと、扶桑だ。山城がゆっくりと僕から頭を離す。僕は山城の方へ振り返った。 「…僕は戻るね。おやすみ、山城」 「うん、おやすみなさい。…これ、大切にするわね。…ありがと」 山城はペンダントに手を添え、そっと微笑んだ。

2014-11-03 21:10:17
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障子を開けると、扶桑が丸椅子に座っているのが目に入った。 「…もういいの?」 「…うん。ありがとう、扶桑」 扶桑の手が伸びてきて、僕の髪を撫で始めた。扶桑は何も言わず、目を細めながら僕を見ていた。僕はその感触に、ただ身を任せた。

2014-11-03 21:15:12
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扶桑の手が離れるのを待ってから、僕は口を開いた。 「…おやすみ、扶桑」 「ええ。おやすみなさい」 扶桑がゆっくりと立ち上がる。…僕はそのまま、部屋を後にした。

2014-11-03 21:20:09
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…自分の部屋に戻る前に、顔を洗わないと。きっと、ひどい顔になってるから。…あぁ、苦しいなぁ。――

2014-11-03 21:25:09
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龍鳳「時雨…」 時雨「…うん?」 龍鳳「…元気、ないね」 時雨「…そんなことないよ。むしろ、今日は嬉しいことがあったんだ」 龍鳳「…そう…なんだ。よかったね…」 時雨「うん…」 龍鳳「…時雨…」 時雨「…おやすみ、龍鳳」

2014-11-04 00:00:45