蒼い蟻#3

事務所の助手ミレイリルはある日綺麗な蒼い蟻を見つける。突然喋り出した蒼い蟻。彼は盗賊の死霊で、未練を抱えているという。彼の胸の内にある願いと、それを阻む過去の影。 この話は#4まで続きます
減衰世界
rikumo 526view 1コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:19:39
    (前回までのあらすじ:霊障事務所のミレイリルとレックウィルは、蒼い蟻に憑依した盗賊ギンダルの依頼で伝説の古酒を探しに地下坑道へ潜る。だが、そこに待ちかまえていたのは盗賊のグライルだった。ミレイリルは逃げる途中、闇の中蜘蛛の巣に突っ込んでしまう。しかし、謎の光る女性が現れる)
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:26:44
    状況確認、目の前に巨大蜘蛛。ミレイリルは蜘蛛の巣まみれでうまくは動けない。その傍らには、眩しく光る肌をした裸の女性。蒼い目が光っている。ミレイリルは腐敗臭の雲の指輪を急いで擦った。「腐った! 腐った! キャベツ! キャベツ!」 呪文はすぐさま効果を発揮した。 69
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:36:53
    濁った緑色のガスがミレイリルの周辺に漂い始めた。本来ならばコントロール可能らしいが、贅沢は言っていられない。巨大蜘蛛は腐敗臭に恐れをなし、一旦はその牙を引っ込めて後ずさった。その隙に、ミレイリルは蜘蛛の巣からの脱出に成功する。「やだぁ、もうやだぁ!」 70
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:42:37
    悪臭に吐きそうになりながらも、蜘蛛の巣まみれのままミレイリルは元来た道を引き返し始めた。巨大蜘蛛はカサカサと足音を立てて追ってきたが、深追いはせず、自らの巣へ帰っていく。ミレイリルは立ち止って、呼吸を整えた。その顔を光が照らす。例の、光る女性が隣にいた。 71
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:45:35
    「ありがとう、助かったよ。あなたは……誰?」 ミレイリルは光る女性に問いかける。「わたしは……誰でもない。ただ、わたしはここにいる。それだけ」 女性は雲を掴むような返事しか返さない。ミレイリルと女性は握手をした。ミレイリルは微笑んで彼女の手の甲にキスをする。 72
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:51:53
    「不思議ちゃんなのね。霊障事務所にいると、よくあること。しばらく同行してくれない? あなたがいると、足元が照らされて助かるの」 女性は笑って頷いた。そこでミレイリルははっとする。「ギンダル、そう、ギンダルはどうしたんだろう」 盗賊のギンダルは先程から声を出さない。 73
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 16:57:05
    ミレイリルはポケットを探りガラスケースを取り出す。光に照らされたガラスケースの中で、蒼い蟻のギンダルはバラバラの粉々になっていた。「あちゃー、シェイクされすぎたか……」 これでは治療薬でもどうしようもない。呆然としていると、女性がケースに手をかざしてくる。 74
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 17:02:14
    「直してみる」 女性の言う通り、あっという間に蒼い蟻のパーツは元通りの一匹の蟻の形に戻る。「うーん、酷い目にあったゼ! もっと優しく扱ってほしいゼ!」 ようやくギンダルは話し始めた。ミレイリルは謝罪する。女性はホホホと笑った。「ありがとうなんだゼ、知らない女性のひと」 75
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 17:08:05
    光る女性は黙ってギンダルを見下ろしていた。ギンダルは不思議そうに語る。「君はどこかで会った気がするゼ。顔はよく見えないけど……もし忘れていたらごめんだゼ」 「大丈夫」 女性はにこりと笑った。「ギンダルさん、とても優しいひと。そして、罪深きひと」 女性の光が瞬く。 76
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 17:12:11
    「俺のことを知ってるのかイ? やっぱり俺らはどこかで会ったゼ」 「あなたのことなら何でも知っている。私たちが出会ったときから、いままでのこと」 「ますます不思議だゼ」 女性はピクリと身体を震わせる。足音がする。誰かの足音。レックウィルか、それとも……。 77
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-11 17:18:02
    足音は続く。やがて闇から現れたのは、ボロボロのマントを右手に提げた、盗賊のグライルだった。 78
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:01:27
    光る女性は、その輝く肌に蒼い粒子を瞬かせて警戒を示す。ミレイリルも、ギンダルの入ったガラスケースを注意深く握り、腐敗臭の雲の指輪に指を添える。「ギンダルの気配がするな……魂の形だ。例の古酒、探しに来たんだろう」 グライルはじっとミレイリル達を見ている。 79
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:07:24
    「レックウィルさんをどうしたの!?」 ミレイリルは問いを投げかけるが、グライルはふん、と笑った。「まがい物の魔法使いらしく死んでもらったまでだ。お前たちも、そうなる」 グライルのぼさぼさの髪が波打つ。魔法を使う兆候。ミレイリルは腐敗臭の雲の指輪を擦った。 80
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:11:03
    「腐った、腐った、キャベツ、キャベツ!」 呪文を唱えるミレイリル。だが、やはり悪臭は彼女の周りを漂うだけだ。数回使っただけでコントロールできるはずもない。そのとき、光る女性が腕を大きく振って、グライルを指差した。「行け!」 すると、悪臭の塊が動きだす! 81
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:14:54
    「高位の霊体か! 何者だ」 グライルはボロボロのマントの残骸を投げた。それが悪臭の塊を包み込み、圧縮して石ころのような塊にしてしまう。“腐敗臭の雲……連続で使われるとまともに魔法に集中できない。一旦引かせてもらうか” グライルは短い思考の結果、逃げの一手を取った。 82
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:20:07
    軽やかなステップで闇の中へと逃げていくグライル。「あっ、逃げるなんて」 ミレイリルは悔しそうな顔をするが、蒼い蟻のギンダルは忠告する。「あいつは安全に仕留めるつもりなんだゼ。正面から行っても殺されるのは俺達だゼ。あいつは絶対次は確実に奇襲してくる」 83
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:25:25
    「どうしよう。私たちにはこの臭い雲くらいしか……こんなときレックウィルさんがいてくれたら」 「ギンダルさん、あなたの力、必要」 光る女性は静かに呟いた。「俺の力だって!? 冗談だゼ。俺は一匹の蟻。何の力も無いゼ」 光る女性はガラスケースに手を添えて言う。 84
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:31:06
    「ギンダルさんの存在が、わたしの力。思い出して、あなたが死んだ……その理由」 ギンダルはうろたえる。「何で、そんなことを……でも、あれは何の関係も無い」 「教えて、ギンダルさん。何があったの?」 ミレイリルが問い詰めても、ギンダルは黙ったままだ。 85
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:35:31
    「伝説の古酒、ギンダルさんは、確かに盗みました。でも、ギンダルさんは返すつもりでした」 光る女性は話し続ける。「古酒を飲みたいと思っていたのは、ギンダル、あなただけではありませんでした。ある魔法使い、その女性が楽しみにしていたもの……いや、重荷になっていたもの」 86
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:39:10
    「ギンダル、あなたはある魔法使いから古酒を盗みました。しかし、その古酒はその魔法使いの恋人の形見だった。恋人の死を整理できず、古酒はそのまま保管されていた。ギンダル、あなたはそれを盗んだ」 光る女性の言葉がすらすらとなめらかになっていく。光が、強くなっていく。 87
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:43:24
    「あなたは街の噂で古酒の意味を知った。古酒を返そうと思って……あなたは魔法使いの屋敷に忍び込み、待ちかまえていた官憲に掴まった。偶然にも、あなたは別の古酒を間違えて持っていた。気付いたときにはもう遅かった。あなたは処刑された……」 「も、もしかして……君は……」 88
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-13 17:48:55
    「いまこそ、魂の力を」 光る女性は蒼い蟻を媒体に力を引き出す。死霊の持つ力、生前の能力とは関係なく、死霊と化した際に得られる超人的な力。それが蒼い蟻を介して光る女性に流れ込んでいく。やがてそれは光る矢となって放たれ、通路の奥に消えた。「きっと届きますよ」 89
  • 減衰世界 @decay_world 2014-11-14 16:01:18
    盗賊のグライルは坑道の壁の中に潜伏していた。岩に溶け込み、密度の高い質量の中を歩く。これも彼の魔法のなせる技だ。壁浸透の呪文……魔法盗賊ならば必須の呪文だろう。壁をすり抜け、目的のものを手に入れる技術は盗賊ならば誰もが手にしたい呪文であった。 90

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