蒼い蟻#3
グライルが魔法の力を隠していたのは、この壁浸透の呪文の存在を隠すためである。官憲や仲間にこの能力を知られるのはまずい。一人の仕事のときのみ、こっそり使っていた。それをいま使っている。目撃者は、全員殺さねばならない。仕事に支障が出てしまう。そのとき彼は違和感を覚えた。 91
2014-11-14 16:07:37耳を圧迫するような、気分の悪さ。壁内部の密度が上がっている。壁浸透の呪文を隠すのには理由がある。対策が取られてしまうのだ。最悪、壁の中に入ったまま壁の一部になって同化してしまう。“誰だ……あの魔法道具使いか? あいつなら岩の下敷きのはずだが……” 92
2014-11-14 16:14:38「お前が三流な理由を教えてやる」 突然の声。グライルは慌て始める。はやく岩の外に出なければ、岩に同化してしまう。彼は脱出路を求めて岩の中を走りだした。「ひとつ、自分ができることを、他の人ができないと思っていること」 グライルは突然立ち止った。進行方向に殺気。 93
2014-11-14 16:20:55どうやら、レックウィルに先を越されたらしい。同じく壁浸透の呪文を使い、先回りされているのだ。殺気はすぐに消えた。場所を移動したらしい。この辺りの壁はすでに固められていると思っていいだろう。グライルの進める場所はどんどん少なくなっている。 94
2014-11-14 16:23:50進むにつれて密度が明らかに濃くなっている。脱出路を先に閉ざしているのだ。これでは岩の外に出る前に同化してしまう。グライルは遠回りを始めた。建築物感知の呪文で、この辺りの坑道の位置関係は把握している。グライルは自分を追う敵……レックウィルの存在を探り始めた。 95
2014-11-14 16:27:30「ふたつ、冷静さをすぐに欠くこと」 グライルは何故レックウィルが生きているか考えた。爆発によって落盤が発生し、レックウィルは生き埋めになったはずだ。誰かが手を貸したのだろうか? 生命探知の呪文。何かの反応が進行方向にある。しかも、その方向は壁の密度が増えていない。 96
2014-11-14 16:34:52とにかく一刻も早く壁の中から出なくてはいけない。それを静かに待っている影がひとつ。レックウィルだ。彼は右手に二個の金属球を持っていた。コロコロと音を立てながら、金属球が手のひらの上で回る。「さぁ、出てこいグライル。そうしたら、最後の理由を教えてやる」 97
2014-11-14 16:42:10グライルは必死に壁の中を走る。壁の中では、ほとんどの攻撃的魔法は使用できない。魔法は視線から侵入するため、質量の密度が高い岩の中では敵まで視線を通すことができないのだ。魔法はすぐ岩壁に吸収されて、まともに機能しないだろう。反撃は全く不可能である。 98
2014-11-14 16:47:21レックウィルは岩壁の前に立ち、岩に向けて視線を送る。右手の金属球の力で、魔法が構築され、魔力が伝達し、岩をゆっくりと固めていく。「グライル、お前の魔法探知の範囲も精度も不十分だ。未熟は罪だ、反省しろ」 レックウィルの右手から金属球が浮遊する。出力を全開に。 99
2014-11-14 16:54:37「ま、僕にも耳が痛いけどね……反省するよ」 レックウィルは先程の治癒の魔法でもって癒してもらわなければ、意識を回復することすら難しかっただろう。 100
2014-11-14 17:02:19レックウィルの姿はボロボロだった。黒いスーツはあちこちが裂け、血がにじんでいる。ステッキは折れて使い物にならない。「僕は生き残って反省する。君は……地獄で反省しろ!」 101
2014-11-14 17:08:40