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@izutis 有角族は特有の風習を持つ。その最たるものこそ、一族や個人の功績、あるいは秘めたる決意や犯した罪を己の角に彫り刻み付ける「彫角」である。「角は体を表す」という格言が示すように、角は有角族の生きた証そのもの。流麗で勇壮な先祖の角は一族の誇りであり、家宝とされる。
2014-11-21 21:48:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis 角は取り換えが効かない。それゆえ、失敗のできない彫角を行う彫角師には高い技術と倫理が求められ、結果として有角族の中でも地位が高い。また腕のいい彫角師は人々の崇敬の念を集める。この物語は、世界一の彫角師を目指す一人の角っ娘の軌跡を描いたものである。みたいな導入。
2014-11-21 21:48:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis その胸に気品と技巧を兼ね備えた角の首飾りをかけた、彫角師の娘さん(主人公)は、家名こそ持たないものの腕がよく、美しい容姿もあって有角族の一般人には人気があった。彼女の下には日々彫角の依頼が舞い込む。墜ちた英雄、成金貴族、幼い少年、歴戦の傭兵、そして王族。
2014-11-21 21:49:55![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis 数々の仕事を経て、名声を上げていく娘さん。そんなある日、彼女の下に挑戦角が送り届けられる(人族ならばハンカチーフを投げる行為に相当する)。相手は幼馴染みにしてライバルの名門彫角師のお嬢さま。最高の彫角師の名誉をかけて、お互いに自らの角を彫り比べようと言うのだ。
2014-11-21 21:51:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis 彫角師ならば自らの技巧を示すため、自らの角に己の技術の粋を尽くすもの。だが、娘さんの角は未だ生まれたままの姿だった。そのことをして自らの技術に自信がないのだと蔑む者もあったが、それは自らが最高の彫角師となったときにこそ彫るという覚悟の表れであった。
2014-11-21 21:52:17![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis そんな彼女にとって、未だ道半ばにある自分の角を彫ってしまうことは酷くためらわれた。当然のことながら、自分で自分の角を彫るのは他人のそれを彫るよりも困難であるからだ。「ならば、こうしましょう」ライバルのお嬢さまだ。「お互いにお互いの角を彫るのです」思いがけない提案。
2014-11-21 21:53:03![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis 「勝者には彫角師としての最高の栄誉が、敗者には最高の彫角師の手による最高傑作。これならば異存はないでしょう」ライバルの言葉に娘さんはうなずく。彼女の彫角師としての腕前は疑いようもない。彼女の手で彫られるのなら。自然とそう思えたからだ。
2014-11-21 21:53:39![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis 勝負の当日。頭覆いをとったライバルの姿に娘さんは驚愕する。そこにあったのは一回り小さく、まっさらになった角。彼女は全ての彫角を削り落とし、娘さんと同じ条件で勝負しようというのだ。その高貴かつ公平な在り様に、観衆の誰もが胸を打たれた。
2014-11-21 21:54:21![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis ライバルのお嬢さんがすでに刻み付けている彫刻を元に彫角を計画していた娘さんは、プランを白紙に戻される。お嬢様とて名うての彫角師。観衆の心を掴むと同時に、自らの技術的優位まで確保してみせたのだ。だが、それでこそ。娘さんは知らず唇を舐め、口元に笑みを浮かべる。
2014-11-21 21:54:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@izutis 勝負の行方やいかに。栄冠を手にして笑うはどちらか。世界最高の彫角を冠するのはどちらか。最終回「彫角師」期待して待て!
2014-11-21 21:55:12![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「彫角(ちょうかく)というのは、あれよ」初老の頭髪を右手で撫で、有角人種の男が呟いた。「どうしようもなく、やり直しが利かない。だから、困る」男の角は無加工であった。当然である――有角人種の汚れ仕事を担う、諜報機関の幹部だからだ。そこに、会場を沸かせる少女達の光は届くまい
2014-11-22 19:36:36![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)「嫌な思い出でも?」「いやなに。あれを彫っては仕事に差し支えるだろう? だから、困る」「羨ましいのか」「引退後の楽しみが増えた、と言ってほしいものだな」有角人種の歴史は、常に内外の悪意との戦いだ。彼らは生ける美術品であり、その容姿を弄びたがる敵は掃いて捨てるほどいた
2014-11-22 19:39:22![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)ゆえに有角人種は友を作るのが上手く、したたかで恐ろしい。彼らは自らを貶めるものに対し、太古の暗黒神のごとく残酷で無慈悲だ。友人への寛大さ、同胞愛の裏返しとして、それを脅かす敵を切り刻む。ほんの遊び心であろうと、侮辱や嘲笑を行ったものを人間として生かすことはない。
2014-11-22 19:43:31![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)痛みや苦しみを憎んだものたちが、その原理を使いこなすことで築いたつかの間の楽園。それが、男の世界観の基軸であった。だが今、会場を沸かせる少女達の輝きはどうだ――おのれの信念とは別種の、鮮烈な輝きがあった。しかし彼は大人であり、自分の価値観を放り捨てるほど無責任でもなかった
2014-11-22 19:46:15![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)「人の孫娘の晴れ舞台だというのに、景気の悪い顔だな」「彫角の名家に矜持があるように、私にも責任があるものでね――お前の孫はよい娘に育った。誇り高い山羊の角だな、あれは」「家内に似て美角だろう?」「お前と違って性格が良さそうだ」「馬鹿を言う男だな、あの凛々しさは俺譲りだろう」
2014-11-22 19:51:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)「特別に、予約を取り付けておこう。誉れ高い我が孫娘の彫角だ」「私はまだ現役のつもりだが…それに、気が早いぞ」「何?」「――お前の孫が勝つとは限らんだろう」にやり、と。年老いた男二人が同時に笑った。「おまえもそう思うか」「あれはきっと怖い女だぞ。場を楽しんでいる」
2014-11-22 19:56:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)孫娘の勝利を疑われたというのに、彫角家に気を悪くした様子はない。孫に技術と演出を仕込んだのは、他ならぬ彼だ。ゆえにこの場の優位は当然と思っている。しかし対戦相手、新進気鋭の乙女の顔つきはどうだ――この会場すべての熱気を、爪の先ほども負担に思っていない。心から楽しそうに――
2014-11-22 19:59:20![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)「たしかに、ククク、本当にな。ふふふ、いいな、あれこそ我ら有角族の誉れ。最も大神に近き神事の末の心意気!」「王族の角を彫った娘か、古き血統の末裔か。初めては最高の職人にしたいものだな」「くくっ、運命の出会いを待ち望む清童のように?」「女癖の悪さが治ったかと思えば。下品な…」
2014-11-22 20:04:02![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
承前)――衆人環視の下、うら若き彫角家たちが各々の獲物を手に取った。目をすがめ、観客席の男達は異口同音に呟く。 「楽しみだ」 了
2014-11-22 20:06:25![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
さて、角SS返歌しゅーりょー。こういう頭悪い野郎ども好きです。たぶんいくつも仮面持ってそうな人たちの、真っ直ぐな少女達を見守る視線
2014-11-22 20:13:59![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
「爺どもが下らんことを泡吐きおって…負けた方で良いからくれとゆうておるに…のう?椅子なら夜陰に乗じて、どっちか神隠せぬか?腕を傷つけねば多少欠けても構わんぞ」 見目麗しい少女、黒い角を半分に折られている、が足場にしている女に言った。 観覧席の最上部、格安の立ち見である。
2014-11-22 21:04:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
幼き少女の目線が足元で足場になっていた女に向けられた。女の角はひどく珍しい随分と優美で目を引く紋様が大きな角一面に彫り込まれている。 「申し訳ございませぬ姫様。もちろん出来ますが、それをすると確実に私の首はストンと飛びましょう」 地面に蹲っている女はぼそりと呟いた。
2014-11-22 21:10:48