オバケのミカタ第一話『オバケのミカタと人面瘡』Bパート(2/3)

twitter連載小説『オバケのミカタ』第一話Bパートです。
4
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「妖気? プラズマ? タンパク質? ……いずれも違います。答えはね。文化、ですよ。人間の想像力、と言い換えてもいい」鉄宗は慣れた手つきでナイフを滑らせ、神奈のブラウスをシャツごと切り裂いた。下着に手をかける。「ンンー!」神奈の悲鳴に切迫感が増した。#OnM_1 79

2014-11-29 18:18:06
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「人間の精神には、元来、特別な力が備わってます。観測者として世界を認識し――量子レベルの世界に干渉する。ありもしないものをこの世に現出せしめる力、それこそが想像力です。我々はそうやって様々なものを創り出してきました。たとえば数。たとえば通貨。たとえば信仰」#OnM_1 80

2014-11-29 18:18:38
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

鉄宗はブラを裁断し、引き剥がした。蛍光灯の光のもとに晒された神奈の胸のできものが、ひゅっと息を呑んで縮こまった。怯えている。鉄宗が満足げな――そして嗜虐心に満ちた笑みを浮かべた。「そしてたとえば、妖怪」#OnM_1 81

2014-11-29 18:19:01
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

雑居ビルの前で、見張りのチンピラが二人、暇を持て余していた。見張りといっても誰を警戒するわけでもない。ここに常駐する男たちは地域一帯を仕切る金剛会から派遣された、いわば用心棒である(とはいえ彼らは末端の、そのまた末端の構成員に過ぎないのだが)。#OnM_1 82

2014-11-29 18:19:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

鉄宗の「事業」に組の後ろ盾があるという証左だ。商売敵とて迂闊にはちょっかいを出せない。当然彼らは鉄宗に便宜を図る代償として、たらふく甘い汁を吸っている。男たちは「事業」の中身については詳しく知らない。別に知りたいとも思っていない。#OnM_1 83

2014-11-29 18:20:02
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

時折、鉄宗が獣や、古道具や、人間をここの地下室へ運びこみ、代わりにアタッシュケースに詰めた「何か」を外へ売りにゆく。そして自分たちはこうして突っ立っているだけで金が貰える。それだけだし、それだけで十分だ。本気で見張りをする気など最初からない。#OnM_1 84

2014-11-29 18:20:36
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

だから――ふわふわセミロングの眼鏡っ娘が、一切迷いのない足取りで脇をすり抜けていったとき、一瞬、反応することができなかった。「オ……オイ?」曲マコトは地下への階段に足をかけたとところで立ち止まり、振り向いた。「はい?」#OnM_1 85

2014-11-29 18:21:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「何やってンだオメー」マコトはにっこり微笑み、軽くお辞儀をした。「すいません、この下に用があるもので。ちょっと通していただきますね」「は?」男たちはずいと詰めよった。二人で左右から挟み、見下ろす――威圧する。「は? 何言ってんのお前。は?」#OnM_1 86

2014-11-29 18:21:32
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

騒ぎを聞きつけてか、地下室の前で番をしていた残り二人が、踊り場に顔を覗かせた。マコトの姿を認め、眉をひそめる。しかし彼女はあくまで泰然としていた「困りましたね」。困った感じに眉尻を下げ、小首を傾げる。「どけ、と申しあげたつもりだったんですが」#OnM_1 87

2014-11-29 18:22:02
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ッざっけン……」男たちは沸点が低い。見張りの片割れが肩を掴もうとした。その手をマコトは左手の甲で払いのけ、男の顔面に右肘を叩きこんだ。顔をかばったところで腹に膝。足を払って転ばせ、無防備になった頭に踵を振り下ろした。鈍い音がして、ぐにゃりと四肢が脱力する。#OnM_1 88

2014-11-29 18:22:30
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

流れるような一連の動きを呆然と眺めていた残りの男たちは、そこでようやく我に返った。それでもなお、状況を呑みこみきれない――大の男が、女子高生に殴られ蹴り倒された。一瞬のうちに。そんな馬鹿な?#OnM_1 89

2014-11-29 18:23:03
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

肘と膝を使った、鋭い打撃。マコトの動きは何らかの格闘術に精通した者のそれだ。だが男たちはそこまで頭が回らなかった。所詮相手は小娘一人。脅威にはなり得ない――そんな先入観が、彼らの目を曇らせていた。三人の男たちは怒号を発し、マコト目がけて殺到した。#OnM_1 90

2014-11-29 18:23:38
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「妖怪。幽霊。鬼神。妖精。悪魔。UMA(ユーマ)! 人間の想像力から生まれた存在――化け物! その身体を構成している物質は、人間の想像力が凝り固まった――精神エネルギーの結晶とでも言うべきものなのです」#OnM_1 91

2014-11-29 18:25:51
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「何千人、何万人という人間が、さらに何十年、何百年もの時間をかけて、少しずつ発する想像力のエネルギー……それが化け物一匹バラして搾り取るだけで、簡単に手に入る。ボロいもんです」鉄宗は神奈の胸にナイフを突き入れた。肉ごと腫瘍を抉り取る。激痛。意識が遠のいた。#OnM_1 92

2014-11-29 18:26:07
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「そんなものを搾ってどうするか、ですか。答えは単純……売るんです。燃料になるんですよ、こいつらは」鉄宗は切り取った腫瘍を壁際のジューサーに持っていくと、ぽいと放こんだ。レバーを入れると内部の刃が高速で回転し、生きたまま腫瘍を擦り潰す。甲高い悲鳴が尾を引いた。#OnM_1 93

2014-11-29 18:26:40
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「第二次大戦中にナチスが軍事転用する方法を確立して以来、化け物から採れる物質は……私たちは霊子やエクトプラズムと呼んでいますが……強力な兵器を稼働させるために必要不可欠のエネルギー源になった。ABC兵器からDを飛ばしたE(エクトプラズム)兵器ってわけです」#OnM_1 94

2014-11-29 18:27:18
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「テレビにゃ映りませんがね、こうしている今も、中東や南米やアフリカじゃ、E兵器が人を殺しまくってる……そしてエクトプラズムの需要は生じ続ける。お陰で我々みたいな商売も成り立つってェ訳です……いや、人死にが出れば坊主が儲かるってのァ常識ですかね。ハッハ!」#OnM_1 95

2014-11-29 18:28:16
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

装置の下部から、青白く発光する液体がポタリ、ポタリとしたたって、金属カプセルの中に溜まってゆく。精製されたエクトプラズムだ。その輝きは幽玄かつ神秘的で、荒唐無稽な破戒僧の口上に、幾ばくかの説得力を与えている。しかし神奈にとっては全てが悪い夢のようだった。#OnM_1 96

2014-11-29 18:28:55
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

ただ激痛だけが、これが現実に他ならないことを教えていた。ごっそり肉をくり貫かれた胸は、焼けた鉄塊を突っこまれているよう。死んでしまう、と思った。出血や感染症の前に、痛みで死んでしまう。過負荷で神経が焼き切れ、脳細胞が死んでゆく音が聞こえるようだった。#OnM_1 97

2014-11-29 18:29:39
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

ふいに、優しい暖かみがじんわりと胸に広がったかと思うと、痛みが徐々に遠のいていった。見れば、傷口には早くも新たな腫瘍が顔を――文字通り顔を――出し、懸命に神奈の傷を舐めていた。長い舌からは半透明の粘液が分泌され、それが止血と同時に麻酔の役割を果たしている。#OnM_1 98

2014-11-29 18:30:04
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

鉄宗は神奈の傷口を覗きこむと、薄く笑った。「素晴らしい。もう再生がはじまっている……これはまだまだ収穫できそうだ。ご安心なさい。じきに生えてこなくなりますし、家にも帰れますよ……死体になって、でしょうけれど。葬式は格安で挙げてあげますよ! ははは!」#OnM_1 99

2014-11-29 18:30:38
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

男の大振りなパンチは、マコトの髪先を僅かに撫でただけだった。次の瞬間には、マコトは相手の懐に潜りこんでいる。鼻が触れ合うほどの至近距離。マコトはコンパクトな動きで相手の鳩尾に肘をめりこませ、即座に腕を伸ばして首に巻きつけた。#OnM_1 100

2014-11-29 18:31:40