同居する森と月とインカレ(試合編)とその後

伊「実は、イベントのセリフが一つ抜けてたので後から足しています」 森「抜けても意味が通るシーンだったのは、喜ぶべきか微妙に思うべきか…」
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同居する森と月bot @doukyomi5

「今日のこの日を待ちかねたぞ笠松…!」 「いーから早くどけよ森山、ウォームアップもう終わっただろうが」 勝ち進んでいけばここでぶつかることは対戦表を見た時からわかっていた。 三年前のWCの準決勝が頭をよぎる。PGを入れ替えれば同じようになるかもしれない? いや、ならない。

2014-11-30 14:05:17
同居する森と月bot @doukyomi5

それは、大学でやってきたことの否定だ。 「日向も。よろしくね」 「おー、楽しみにしてたぜ」 オレと日向も握手を交わした。夏に言われた。『伊月と試合が出来なくて残念だった』って。オレも楽しみにしてた。戦うこと。 今日の第二試合は、うちの大学と笠松さんと日向のいる大学。

2014-11-30 14:10:19
同居する森と月bot @doukyomi5

「やりにくい」 ハーフタイムに入って単純な感想がそれだ。 WC準決勝の再演をやりたいわけではないが、イーグルスピアを警戒して、笠松はドライブを多用できない。試合自体がここまでスローペースだ。本来なら早いゲームメイクを得意としている伊月が目立った動きをしてないのも気になる。

2014-11-30 14:20:19
同居する森と月bot @doukyomi5

「つーか、相手チーム、単純にリズム取りづらいっすね」 「それが売りなんだろうな」 森山の変則シュートを始め、轟音ドリブラーの葉山、難波走りの岩村に、先読みを駆使する伊月。どこにも『普通』のリズムで試合をする奴がいない。 『変則』が『常態』のチーム。

2014-11-30 14:25:18
同居する森と月bot @doukyomi5

前半を終えてスコアは44-39。5点差はつけているが油断は許さない相手だ。 監督からの後半の指示を聞き、後半のコートに立つ。 「さー一本行くぞー」 ジャンプボールからボールを制したのは相手チーム。の、… 「…森山PG?!」 「フッフッフ、PGはモテると聴いてな!」

2014-11-30 14:30:20
同居する森と月bot @doukyomi5

夏に伊月がした話の内容は、オレのプレイスタイルについてだった。(このへん参考にしてねtogetter.com/li/728458) 「森山さんのこと、パス回しもドリブルも上手いし視野も広いし、戦術も詳しい。PG向きなんじゃないかってずっと思ってました」

2014-11-30 14:35:19
同居する森と月bot @doukyomi5

「わー、ありがとう。本職から褒められるとは嬉しいな」 本音だ。伊月のパス一つにどれだけチームのことを考えているかというのは如実に現れている。 「あと、監督から聞きました。一年の時はコンボガードもしてたって」 「それは…伊月が入ってくる前だ」 オレだって全国常連の選手だ。

2014-11-30 14:40:22
同居する森と月bot @doukyomi5

そこらの選手よりはバスケが上手いつもりだ。大学では、元いた先輩PGと二人で、オレもPGっぽいことをやっていた、というかSGと両方やるポジションについてた。でもそれは伊月みたいにPGらしい働きのできるPGが入ってくるまでだ。 まあ誰だって一度は神様に憧れるよね!って話だな。

2014-11-30 14:45:22
同居する森と月bot @doukyomi5

「それ、森山さんがそういうこともできるって笠松さんは…海常の人は知ってます?」 「いや、知らないよ?同級生に笠松がいれば、オレの兼任PGなんか考える必要ないからな」 笠松んとこの大学とはリーグ戦では当たらないし、オレがゲームメイクもやった経験があることは知らないだろう。

2014-11-30 14:50:21
同居する森と月bot @doukyomi5

伊月は一瞬考え込んだ。瞬きを何度かして顔を上げる。ダジャレを言う時と同じくらい、表情が自信と輝きに満ちていた。 「じゃあ、やりましょう」 それからはみっちり練習だ。朝も昼も夜も。コートに立ってない時はひたすら映像で戦略研究。だって24時間横にいますからね全国制覇のPG。

2014-11-30 14:55:20
同居する森と月bot @doukyomi5

それは今日、この時のため。 「お前をビックリさせるためだ笠松!」 「わかったから私語はヤメロ」 元チームメイトなら、プレイを見るときにかかるバイアスは初見の選手より遥かに大きい。相手は伊月のゲームメイクについては知り尽くしているだろうが、オレについては何も知らない。

2014-11-30 15:01:37
同居する森と月bot @doukyomi5

「いや、じゃあ、伊月はどうした?」 「オレは影だ…影のおかげキッタコレ!」 「ひょっとしてお前前半目立ってなかったのも作戦のうちかよ?!」 「日向キレてるね!クラッチ食らっちゃう?キタコレ」 「伊月ダマレ」 誠凛組が掛け合い漫才をやっている横をボールが飛んで行く。

2014-11-30 15:10:21
同居する森と月bot @doukyomi5

「そろそろ相手の目が慣れてきましたね」 「まあ、予想どおりだよな」 いくら向きといえ、一年の時にちょっとかじってまた半年練習したとはいえ、オレの急造PGが伊月に勝る筈はない。スコアは74-74。死ぬ気で同点まで引っ張りあげた。 第4Qの頭から、再び伊月PGに戻る。

2014-11-30 15:20:19
同居する森と月bot @doukyomi5

「オレもいること忘れんなよ!」 葉山の新技は、ジャンプしてからの腕のモーションが異様に遅いワンハンドダンク。尋常じゃない指の力を持つ葉山ならではの技だ。 笠松のドライブも、日向の3pも、終盤になればなるほど切れ味を増す。シュート、入った。取り返す、シュート。まだ行ける。

2014-11-30 15:25:16
同居する森と月bot @doukyomi5

「森山」 笠松が驚いた顔をした。口が動いた気がするがよく聞き取れない。 バックパス。笠松。お前ならここで日向だろう! らしすぎるそのパスをスティールする。 「速攻ッ!」 シュート、届け! 夢中で、試合終了の笛にしばらく気づかなかった。 電光掲示板を仰ぎ見る。

2014-11-30 15:30:25
同居する森と月bot @doukyomi5

101-99 「二点差…」 伊月ががっくりと項垂れていた。 その伊月に、葉山が肩を貸している。 しばらく真っ白だった頭に、次々と現実が舞い込んでくる。

2014-11-30 15:40:18
同居する森と月bot @doukyomi5

整列の時の笠松の晴れやかな笑顔。握手した手は熱く、力強かった。隣で伊月は目を赤くして唇を噛み締めたまま。らしくないぞ伊月、ちゃんと背筋伸ばして。笑いなよ。 ミスは少なかった。やれることはがむしゃらに何でもやった。後一本、オレがスリーを決めていれば。

2014-11-30 15:45:19
同居する森と月bot @doukyomi5

チームとしての地力の差を考えれば、大健闘だったのかもしれない。 でも。 そうか。 …勝てなかったんだな。

2014-11-30 15:55:18
同居する森と月bot @doukyomi5

「部長ですか」 帰り道は二人並んでたのに無言で、部屋に入るなり、伊月が低く呟いた。 試合が終わった後、体育館でやった簡単な引き継ぎで次期部長に伊月を任命した。コーチも監督も意見は同じだったし、本人も暗黙の了解の上だと思ってたのだが、意外そうな顔をしてて、オレが意外だった。

2014-11-30 18:30:21
同居する森と月bot @doukyomi5

「お前ならできるよ。この一年、オレの仕事も手伝ってくれてただろ?」 「……頑張ります。けど」 その表情はまだ硬い。 笑わない伊月は、日本刀を連想させる。 「勝てませんでしたね」 「健闘したよ」 「でも負けた」

2014-11-30 18:35:17
同居する森と月bot @doukyomi5

負けは嫌というほど経験したことがあると言ってた。目を赤くしたまま怒った顔なのは、悔しさにだろうけど。こんなに引きずるタイプだとは思わなかった。 「なあ、伊月、」 切り替えよう。悔しさをバネに来年はリベンジしてくれ。オレも悔しいよ。

2014-11-30 18:40:19
同居する森と月bot @doukyomi5

どれも、厳しい顔をしたままの伊月の前ではすべて薄っぺらく思える。お茶でも飲もうと思って戸棚からマグカップを出そうとしたら、小さな、伊月が膝をつく音がした。 噛み締めていた唇がわなないていた。ひとつ崩れると全部崩れるジェンガみたいに、伊月はぼろぼろ泣きだした。

2014-11-30 18:45:21
同居する森と月bot @doukyomi5

「森山さんと、…勝ちたかった」 「泣く、なよ」 「森山さんだって泣いてるじゃないですか」 「いや、オレは…ちょっとだし」 伊月には来年もあるがオレは引退するのだ。最後だから泣いたっていいだろ、と、言い訳を言うように頭の中で呟く。 「森山さん、オレと、してください」

2014-11-30 18:50:19
同居する森と月bot @doukyomi5

「えっ?」 「バスケ。まだ…続けてください」 伊月はまたしゃくりあげた。 「森山さんと、ずっと一緒にバスケがしたい」 普段は冷静で穏やかな伊月がこうも感情を露わにすることに慣れてなくて、拭くもの!とパニックになってあたりを見回した。結局何も思いつかなかった。

2014-11-30 19:00:58
同居する森と月bot @doukyomi5

頭を抱き寄せて、自分のジャージの肩に顔を押しつけるようにする。 ひょっとして、負けても毅然としてたのは、高校の頃は『先輩』がいなかったからなのかな。 今、こんなに泣いてるのは、オレがいるからかな。オレの前だから。…強がらずに。 そう気づくと、愛おしさで胸が苦しくなる。

2014-11-30 19:05:19