同居する森と月とインカレ(試合編)とその後
「オレ、嫌です、…嫌だ、もりやまさ、」 伊月は泣きすぎてケホケホ咳してる。少し身体を離して顔をのぞき込んだ。 大粒の雨みたいに落ちる涙が綺麗だ。目のふちから、次から次にあふれだすのが不思議で、ただ流れ落ちていくのがもったいなくて、気づいたら舐め取るように舌で触れてた。
2014-11-30 19:10:18『ありがとう』も『ごめん』も『泣くなよ』も『好きだよ』も、それぞれが強すぎて、言葉にする前に膨らんで爆発しそうだ。 一緒に戦ってくれてありがとう、悔しがってくれてありがとう、ずっとオレとバスケやりたいって言ってくれてありがとう、ごめんな、好きだよ、泣くなよ。好きだ、好きだ
2014-11-30 19:20:20言葉より強く伝えたかったから抱きしめた。涙で濡れた唇に、くちづけた。 「……」 伊月が驚いた目で見返してくる。大きく開いた瞳からまた涙が一粒こぼれ落ちた。もう一回。今度は優しくキスした。 唇が暖かくて柔らかい。 好きだよって伝えるために。それ以上を伝えるために。
2014-11-30 19:25:18「ん、っぁ 」 「…ふ、」 「っぁ、の、…ぁ、もりやまさん、」 夢中になってたから気づかなかったけど、キスするうちに、オレは力の抜けてった伊月の身体を床に押し倒してたらしい。そのまま覆いかぶさって上から唇を重ねてたら、苦しげに肩を押されて、ようやく我に返った。
2014-11-30 19:35:42「ハッ!」 慌てて伊月の身体の上から飛び退く。 「あ、あの、ごめん!ほんとごめん苦しかったよな!」 「…そこで、謝っちゃうの、さいてーです…」 「うっ、…いや、」 そりゃよく考えなくてもそうだろう。キスして押し倒した挙句『ごめん』って!最低だ!
2014-11-30 19:40:30@tos 伊月は泣いてて(泣いてたのは元からだけど)苦しげに、かつしどけなく仰向けに倒れている様は、ひどい陵辱を尽くした後みたいで直視できない。 「オレ、初めてだったから、…もうちょっと心の準備して、ちゃんと格好いい顔で、キス、…したかったのに。せめて普通の…」 「うっ…」
2014-12-01 14:49:19「なんでこんな涙でぐっちゃんぐっちゃんの時に…」 ごめんその『涙でぐっちゃんぐっちゃん』の顔が可愛かったからとしか…。 「自分はちゃんと記念日に格好いいことするのに。森山さんって優しいけど結構自分勝手ですよね」 「は、はい」 褒められてるのか責められてるのか複雑な心境だ。
2014-11-30 19:50:19とりあえず湧いてくる笑いは口の中で噛み殺そう。 「引退することも一人で決めちゃうし」 「…う、」 「オレのことはどーでもいいんですよね。相談とかしないんですよね」 拗 ね て る…! 伊月がふいっと、不機嫌顔で寝転がったままそっぽを向いた。
2014-11-30 19:55:17アアア伊月が拗ねてる!って思ったらもう矢も盾もたまらなくなって、その身体を抱き起こして、ぎゅうぎゅう抱きしめた。 「バスケをやめる気はないよ」 高校でバスケをやめた時も千切れるくらい悲しかった。 大学でバスケをやめる今も千切れるくらい悲しい。
2014-11-30 20:00:47でも、高校でバスケをやめても大学に行って続けたように、今やめても、オレはまたどこかでバスケをやるだろう。 形が変わっても、仲間が変わっても。 「相談しなかったのは…スミマセン」 「それは、もういいんです。ちょっと愚痴りたかっただけですから」 クス、と伊月が耳元で笑う。
2014-11-30 20:05:20泣いた顔も綺麗だけど、笑ってるのが一番いい。 と、伊月が服の袖で顔を拭いた。 そして、ぴしゃ、と両側から手のひらで自分の頬を叩く。目元は赤いものの、随分凛々しい表情でオレを見た。 「森山さん、あのね」 「はい?」 改まった声だ。また怒られるのかな。
2014-11-30 20:10:19「あのね、オレにだって初めてのキスって大事なんです。大事な思い出が、なっさけないビショビショの顔でとかヤなんです」 「…はい?」 わけがわからないままオレが目を白黒させていると、真剣な伊月の顔が近づいてきた。体温高い。睫毛長い。極潤で朝晩ケアしてるオレより肌が綺麗だ。
2014-11-30 20:15:21そんなことを考えていると、唇が唇に、軽くふれた。 「ッ!」 「…できれば!泣き顔は消去して、今の顔の方を覚えててください…」 「うわ!か、かっこつけ…!」 意外に、初めてに夢見るタイプらしい。 しかも、こんな男前なことを言いながらも照れて涙目で耳まで真っ赤になってる。
2014-11-30 20:20:17オレが百人いたら百人全員卒倒するレベルで可愛い。やべぇ顔がにやけたまま元に戻らなくなったらどうしよう。 『大事な思い出』だって!格好いい顔の方を覚えてて欲しいんだって! オレが伊月の彼女の立場で言われたとしたら来世の分までキュン死にできる。 「あ、コーヒー飲むよな?」
2014-11-30 20:25:19嬉しさでスライムみたいに溶けてしまうんじゃないかって思ったから、準備しかけてたマグカップを並べ、薬缶をコンロにかける。 「あれ?」 マグカップを2つ持って振り向くと、コタツに入ってると思った伊月は、まださっきの場所に座りこんだままだった。 「寒いだろ?コタツ入ろうよ」
2014-11-30 20:35:20コーヒーをこたつの上に置くと、オレはちょいちょいと伊月を手招きする。伊月は、照れたような怒ったような顔でオレを睨んだ。 「さっきからずっと腰抜けて立てないんです…さ、察してください」 森山さんがあんなキスするから、と、伊月が小さな声で続ける。 オレもうキュン死にする。
2014-11-30 20:40:19