- thrianta_satin
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いずれ独立する者も、 今は同じフロアで、研鑽の日々を過ごし、 腕を磨き、 人脈を築き上げ、 いつかそれぞれに旅立っていく。
2014-12-09 17:28:32なんて、時々思ったりすることだが、 俺はこじんまりとした店構えで、のんびりやるのも悪くないと思っていて、 ただ隣には彼女にいて欲しいと願う気持ちだけは今もこれからも変わることがない。
2014-12-09 17:29:30俺達の関係は他のスタッフには秘密にしているので、不憫なことも多い。 だからいつの間にかできた二人だけの合図がある。
2014-12-09 17:29:58いつもはそうやって鏡ごしに味わう甘酸っぱい気持ちを、 今日は全然共有できていない。 鏡の中の彼女は、他の奴にはいつも通りに見えているのだろうが、 俺にはわかる。 心からの笑顔ではないと。
2014-12-09 17:31:30朝はそれぞれの自宅から出勤して来た。 昨夜、店のみんなで夕飯を食べに行ったからだ。解散してから少し二人で話し、くちびるだけで我慢して、別れた。
2014-12-09 17:32:11彼女に深い酒の匂いを移したくなかったせいもあって、今日、どうするかをちゃんと伝えていなかった。 それが彼女の不安と、苛々と、自信の無さと、色んなものを浮かばせた顔色にさせている。
2014-12-09 17:32:54もちろん俺はプレゼントも用意しているし、甘い夜を過ごすつもりもある。(そう、例えば彼女が嫌がるような期間であっても、今日のこの日だけは触れられずにはいられない)
2014-12-09 17:33:06彼女の誕生日なんて、俺にとってはこの世で一番大切な日。 どんなに忙しくても、離れていたとしても、一年のうちのこの日だけは何がなんでも祝わせて欲しい。
2014-12-09 17:33:18年を重ねて尚、美しく、色香も増し、他の男の目にも入れさせたくないくらいの女になっていく。50になっても60になっても、俺は彼女以外を愛することなんてない。 ああ、早く俺だけのものにしたい。
2014-12-09 17:33:38ちゃんとした言葉を交わすきっかけもないまま、営業が終わろうとしている。 店の片付けや掃除を済ませ、明日の確認や軽い打ち合わせを終えて、やっと仕事が終わる。 他のスタッフを先に出して、一番最後に出るのが俺の務め。
2014-12-09 17:34:11改めて戸締りの確認をして、従業員用のドアを施錠して、 少し離れた駐車場まで歩く間の楽しみとして、煙草に火を点けた。
2014-12-09 17:34:30これから彼女と絡ませ合う舌が煙草くさくちゃたまんねえよな。 ポケットからガムを取り出して、そっちを口に放り込む、悪あがき。
2014-12-09 17:35:13駐車場の俺の車の側に、スマホの明かりを覗き込んでいる彼女の姿を確認する。 仕事の合間にメールして、一緒に過ごそうって伝えておいた。それなのに。 俺の姿を見るまで、 顔を見るまで、ずっと不安だったのだろう。 やっと、心からの笑顔を浮かべてくれた。
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