空想の街・灯りの樹の夜'14 二日目 #赤風車

#空想の街 (http://www4.atwiki.jp/fancytwon/)さんの「灯りの樹の夜」二日目(14/12/13) #赤風車 。公式様参加者様、お疲れ様でした。 他本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 二日目は皆様との会話中心。皆様有難う御座いました。何か問題など御座いましたら、お手数をおかけして申し訳ないのですが、ご一報頂けますと幸いです。すぐに修正いたします。
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不可村 @nowhere_7

謝るなよ、と一文字が歩を進め、意図を汲んで徒華は隣に並んだ。「お前様、何かいい話が出来たのだろう。そういう顔をしている」 それをいうのは徒華のほうだ。「君こそいつもの擦れた目が違うぞ。そんな顔は知り合って数年、見たことがないな、私は」 孔雀荘への道を行く。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:00:52
不可村 @nowhere_7

「俺だってそうだ。地元にいる時のお前様ときたら大体は姉君への不満だらけかもしくは恋人殿との悩みだらけだろう。悩みを抱えて来た筈が清々しく見える」 一文字はまっすぐ、徒華を送って帰るつもりである。長く友人をやってきたが、そういえばこうして歩いたことは余りない。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:03:59
不可村 @nowhere_7

「普段、君には迷惑をかけたと思う。初対面からずっとだ。私はうじうじしてばかりで仕方なかったな」 徒華は大事に抱えた袋をそっと見やる。 「一文字。これは飴だろう? 私がすっかり来ないものだから、君、全部買ってくれたんだな。私の恋人の分まで」兎の飴がある、凄い。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:06:41
不可村 @nowhere_7

「ああ俺が全部味わってやりたかったがお前様に恩を売っておくのもいいかと思ってね」 「一文字」治ったのかと思えば。一文字の軽口を聞き、一日でそう変わっても怖いかと徒華は思い直す。 一文字がふと息を流す。「すまん。気分が高揚してるのだ」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:09:07
不可村 @nowhere_7

途端、和らいだ一文字の細い顔を見て、徒華は、矢張り彼にはこの街が必要なのだ、と思う。あの地元の町は窮屈すぎる。逃げ出せない徒華とは違うのだ、彼はもっと自由でいい。 「いいよ。君もいい出会いをしたんだな」 徒華にとって、彼は気まぐれな秋風そのものだった。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:11:09
不可村 @nowhere_7

「いい出会い? そりゃしたとも。その飴の作り手は親切で仕事が速い。家具を売ってくれた御仁は友として歓迎してくれた。商売道具をくれた娘は、自分の職を心から愛している目をしていた」徒華にも会わせたかった、と思いながら、それでも一文字はまだうまく言えない。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:14:21
不可村 @nowhere_7

そして続ける。「まあ、助けられてばかりだった」 結局はそうだった。徒華の忠告を、女将の後押しを思っても、ぎこちなくて難しかった。今まで相手にしたことがないひとびとばかりだったのだ。「お陰でいい勉強になったぞ。この街は、」この街は、それでも矢張り。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:16:52
不可村 @nowhere_7

「慣れるまでには時間がかかるんだろう。そう焦らないほうがいいよ」屈託なく笑う徒華の目には本当に常の翳りがない。一文字のほうは、徒華にこそここが相応しいのではと思うのだが。 「私は、私と同じように、きょうだいを捜すひとに会ってね。美しい黒猫の女性だった」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:19:37
不可村 @nowhere_7

徒華の言葉を、一文字は黙って聞いている。 「そのひとは妹で、姉を捜しているらしい。私の弟のことは知らないと言っていたが、何だか話し方が懐かしいひとでね」一度話が区切られたとき、その瞳に滲むものに、一文字は見なかったふりをする。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:22:48
不可村 @nowhere_7

烏の濡羽のように、徒華の瞳と前髪だけが光を反射している。「君も、黒猫の姉妹を頼むよ」持ち直した徒華の声に、一文字はただ「分かった」と答えた。 「弟君のことは俺も訊いたし、皆快く広めてくれるというが、どうなるかは分からん。何も今日は得られなかった」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:25:25
不可村 @nowhere_7

孔雀荘の前で、二人は立ち止まる。「有難う、一文字」「どれのことだ」 何のことだ、と言わないのが一文字らしかった。「全部だ。じゃあ、また明日そっちに行く。明日はこの飴の飾りを、間に合うように飾ろう」 一文字は頷く。「分かった。それとお前様」これを、とまた右手。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:27:50
不可村 @nowhere_7

「何だ?」徒華の手に落とされたのは折り紙の畳まれた手紙のようなものだった。小さい。 「ここの少年への手紙だ。お前様も読んでもいいが、俺の未練たらしい謝罪だよ。俺はどうやらあの少年に嫌われるのが余程怖いらしくてね。気になっていたのだ」 淡々と言う一文字。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:30:05
不可村 @nowhere_7

いつのまに、と思いつつも、ここは一文字の新天地なのだし、としっかり手紙を受け取る。「本人に読んでもらえるかは、分からないぞ。受付はまちまちだし」 それにも一文字はただ頷く。「言付けだけでも頼む。俺は恐らく、あの少年のためを思うとこの宿には入れん」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:32:17
不可村 @nowhere_7

その言い分は少々徒華には分からなかった。妖、と昨日いったことと繋がっているのか。確かにとても聡い少年だったが。「まあ、でも、分かったよ。受付にお願いしておこう」 じゃあ今度こそお休み、と言って徒華は一文字に背を向ける。そこに凛、と声が染み込んだ。 「お前様」 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:35:12
不可村 @nowhere_7

徒華は安易に振り返ったことを悔やんだ。最初こそ浮かれていた一文字が、今また何か沈んでいる。いやひとのことは言えまい、徒華自身も昔を思い返してしまい、少し気まずい部分があるのだ。気持ちは分かる。 暗闇が沈黙を吸う。 頭の上を、星がひとつだけ通った気がした。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:37:36
不可村 @nowhere_7

結局、一文字は何もそれ以上言葉を続けなかった。 「呼び止めてすまなんだ。じゃあな」 気にするな、という徒華の小さな声が届いたかは、分からない。一文字の、季節はずれの紅葉のような姿は闇に消えた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:39:11

消えない柘榴

不可村 @nowhere_7

徒華は受付に行き、畳まれた手紙の表面に、受付で訊いていた少年の名を書いた。これでお願いしておけば、きっと何とかなる。謝りすぎてしつこいかもしれないが、一文字は一文字の謝り方があるのだ。それを尊重したかった。 真直ぐ部屋に戻り、寝る支度をする。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:41:10
不可村 @nowhere_7

――もうとうの昔に諦めた筈だった懐かしい女性の、理知的な声が、気品をもった所作が、頭にちらついて仕方ない。 夢に出て欲しいのか欲しくないのか分からなかった。恋人への贈物にする飴を見、後ろめたくなって目を逸らす。 ……うしろめたくなって。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:43:08
不可村 @nowhere_7

後ろめたいことなど何もない。気まずいのは言い合いをしたままだからだ。 徒華は睡魔に全ての責任をなすりつけ、頭まで布団を深く被った。 夜が、更けていく。 #孔雀荘 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:44:22

漆黒と椛

不可村 @nowhere_7

廃屋についた一文字は、手拭を贈った娘から買った鋏を見つめて横になっている。 布団。箪笥。台所のもの。挙げればきりがないが、やることがまだあるのは、いいことだ。自分がどんどんこの街に、塗り替えられていく、その恐怖と心地よさとを一文字はかみ締めている。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:46:26
不可村 @nowhere_7

先程徒華を呼び止めたときに一文字の心を占めたものも、たまにある不可解な予感めいたものだった。 何故だ。お互いにいい出会いをし、話を交換し合ったのに。こうして喜び合っているのに。 徒華の、ふと翳るあの瞳。 何だ。何が気になる。一文字は眼鏡を外し、眉根を押す。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 00:50:05
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