空想の街・灯りの樹の夜'14 最終日 #赤風車
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回って鳴る赤、天地、走る赤
不可村
@nowhere_7
家に入って思う。 風車が徒華と一文字を繋いでいる気がした、と、徒華はそんなことを言っていた。違うだろうと一文字は顔を黒色一面に染める。乾いた笑いが首巻の紅色から漏れた。繋いでいる？ 見守っている？ そんな筈はないだろう。千草の風車は見張っているのだ。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 19:57:16
不可村
@nowhere_7
千草よ。 一文字は首巻を脱ぎ、投げ捨てる。懐を弄り眼鏡を片手でかけた。徒華の弟に出会った日からずっと、一文字にも消えないものがある。 ――千草よ聞こえるか。この風車の音が。この脳を支配する、心地のいい、そして絶望にうっとりとする音が。風がなくとも続くこれが。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:00:30
不可村
@nowhere_7
一文字は瞼を下ろす。風車の音が強くなる。 ――お前様がもしも死んでいるとして、今いるのは天か地か。天地は比べるから差が出るのだ。地の国が悪くて天の国がいいなどということはないのだ。天があると知らなければ地の者だって平和、地の国では平等に苦しめて頂けるのだ。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:04:19
不可村
@nowhere_7
徒華の住む、一文字もつい先日まで居た町に、現れたという、赤い横線。 落としてのびた首巻の、一本に床を走る紅色に視線を落とす。 これも憶測だ。一文字は息荒く引き戸を開け、石塀の荒削りな部分に一気に手の甲を打ちつけた。 慣れている。骨を痛めない方法だ。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:09:19
不可村
@nowhere_7
即つむじ風を起こすように振り返り家の中へ取って返す。ずっともう下駄のままだ。いい。後でどうせ掃除することになる。 正面の板張りの壁に、一息で手の甲を滑らせる。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:11:13
不可村
@nowhere_7
宵闇に沈む廃屋。 一文字の右手甲から滴り落ちる赤が、正面の壁にまっすぐに横一本、走っている。 こんなものではない。一文字の行ったこれは彼の知る中では簡易なものだ。だから気になった。徒華の話では町に出たのは染料だという。悪戯の線がまだ、消せない。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:13:37噴出す思い、千々に
不可村
@nowhere_7
ここで待つとも。逃げないとも。俺は逃げない、あの二人のためになることをすると、誓ったのだ。 闇を放つ一文字は声を出さず笑う。 ここで音の鳴る風車を売り続ければ、少なくとも、徒華の弟の千草は出る筈だ。風車を守るために憎しみをもって来る筈だ。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:16:53
不可村
@nowhere_7
これが一文字の出した答えだった。ここで売れば徒華の弟を捕まえられる。あいつは自分の風車が売られるかもしれない、と不安になれば、真偽を確かめに来る筈なのだ。 傷のない、節の目立つ細い左手で、眼鏡をまたゆっくり外す。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:19:19
不可村
@nowhere_7
自分の目が、今の徒華や己を見る千草のようになることを一文字は恐れた。千草の苦しみがもしも一文字の推測に当て嵌まっていたとしたら、今まさに、一文字は全く同じ苦しみを味わっている。 徒華を映すこの瞳が、徒華を困らせる前に。自分がまだ完全には自覚していない内に。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:24:19
不可村
@nowhere_7
自分自身から徒華を守る。そして千草を捕まえる。そして。そして。あの一の字を。今度こそは。 心臓から赤い風車が生える。吸い取れ。己の心いっぱいに響き渡る風車の鳴き声を。 #空想の街 #赤風車
2014-12-14 20:26:42三日目・終
