空想の街・灯りの樹の夜'14 最終日 #赤風車

#空想の街 (http://www4.atwiki.jp/fancytwon/)さんの「灯りの樹の夜」最終日(14/12/14) #赤風車 。公式様参加者様、お疲れ様でした。 時系列順に並んでおります。何か問題など御座いましたら、お手数をおかけして申し訳ないのですがご一報頂けますと幸いです。すぐに修正いたします。 他本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。
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不可村 @nowhere_7

鋏を、控えめに、だが確かに誇らしげな目で扱った職人の娘。妖の宿で明朗に生きる少年。闊達とした、訳有り顔の食堂の女将。 たった数日で出会った、様々な生き方でも笑う者たちを、一文字は直視できない。目がつぶれる。いっそ潰したほうがいいのか。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 18:37:50

灯りの樹の夜

不可村 @nowhere_7

一文字は首を横に振り、伊達眼鏡を押し上げて腰を上げた。 そろそろ徒華もいない頃だろう。この空想の街からあの地元の町までは時間がかかる。 言い過ぎたかもしれないが、こうでもしないといけない訳があった。街商に言った言葉は本当になった。かつての友は全て、消えた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 18:42:02
不可村 @nowhere_7

そっと一文字は下駄を足に括りつけ、呼気を白く浮かべながら家の外に出る。空は痛いほどに黒く澄み渡っていた。 思い出し、ずっと巾着に入れていた、鋏の飾りを出す。オーナメント。そう、オーナメントだ。何度か一文字は口に出す。飴売のものもよかったが、こちらも好きだ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 18:49:19
不可村 @nowhere_7

鋏職人の娘から貰えたこの飾りも飾ってやりたかったが、今からでも間に合うだろうか。徒華に問い詰められたくなくて、商売道具の内容を言えなかった。 小走りで路地を進む。皆きっと、あの灯りの樹を思い、この夜を過ごすのだろう。飾りについた歯車と鎖が鳴る。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 18:56:45
不可村 @nowhere_7

紅の首巻に顎を埋め、一文字は歩を進める。ふと食堂と宿のことが気になり、見るだけ見て行こうとそちら側の道を選んだ。 呼気で眼鏡が曇る。願う間も与えられず、すうと視界は澄む。一文字はきつね橋の辺りで止まり、眼鏡を取り、後ろに見える孔雀荘とオトトイ食堂を眺めた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:01:35
不可村 @nowhere_7

眼鏡の跡を消すため、鼻の上を悴む指で解した。眼鏡は巾着に仕舞い込み、橋の上でひとり、一文字が再び首巻に顔をうずめる。半分だけ瞼を開ければ、視界は真っ赤に染まった。首巻の中でゆるく微笑む。 あの宿の少年も、鋏をくれた娘も、今笑顔ならいい。そしていつか会いたい。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:07:19
不可村 @nowhere_7

一文字は後は真直ぐ中央区を目指した。あの女将も笑顔でいてほしい。今会うのは、少しよくない気がした。 間に合うように。今はただ灯りの樹の下へ急ぐ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:09:21
不可村 @nowhere_7

やがて辿り着いた中央区は、眩さに包まれていた。裸眼で樹と時計塔を見上げる一文字は声も上げられない。 壮観だった。 神妙な気分に浸り、一文字は瞬きをしてそっと樹に近づく。色も大きさも違うのに、飾りは混ざりあい、灯りになっている。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:12:42
不可村 @nowhere_7

手の中でずっと温めてしまっていた小さな鋏の飾りを出し、鎖を枝にかけてみた。 光らない。そういえば周囲の枝を見ても、球体のものは光るが、そうではないものはそのままのようだ。一文字はその時まで気がつかなかった。灯りの樹は灯りも飾りも含め、大きな生き物に見えた。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:18:48
不可村 @nowhere_7

そういえば徒華は、姉を捜す黒猫に出会ったと言っていた。彼女たち姉妹も、再会できればいい。一文字は心から願う。七夕でもないのに、願いながら一文字が指を動かす。 光らなくとも、矢張り鋏の飾りは美しかった。そして一文字は、ここに下がっている筈の飴の飾りを思う。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:21:10
不可村 @nowhere_7

もしあの飴をこの後で受け取らなければならないのだったら、一文字は一人で二人分を食べるのだ。 徒華かその弟の千草か。一文字はふと、思いつく。三つ編みから赤い風車を引き抜くと、髪を一本抜いて留め具へ巻きつけ、輪のようにする。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:25:44
不可村 @nowhere_7

球体ではないから、光らない。それは分かっていても、何となく吊るしたくなった。恐る恐る、鋏の飾りの横に並べてやる。 瞬間寒風が吹きぬけ人々が声を上げる。かろん、と風車が鳴いた気がした。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:27:07

憎悪に身を隠す

不可村 @nowhere_7

灯りの樹から数歩ずつ下がり、広場の隅で一文字は徒華とその弟のことを考える。 彼女の弟が消えた原因は断定出来ない。憶測で語るのは失礼にもなる。だから出来ないが、多分、と一文字は思う。誰も悪くないのだ。風車のことをああ言ってしまったことは悪かったがそれではなく。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:29:36
不可村 @nowhere_7

誰も悪くない。ただ、一文字と徒華とその弟の千草、三人が出会った時に、誰も予想しなかったことが起きてしまったのだ。酷い初対面にも関わらず、徒華の弟は一応一文字と数ヶ月共に行動した。 目が合うたび厭そうに逸らされたが、恐らくあの目は一文字への嫌悪だけではない。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:33:16
不可村 @nowhere_7

徒華、そしてその恋人と同じだ。 徒華の弟、千草の目には、一文字を初めてその漆の目に映してからずっと、千草自身の感情への戸惑いが浮かんでいた。 あの目は知っている。憎しみの奥に隠れたそれと、それを認められない己への戸惑いと否定のもの。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:37:52
不可村 @nowhere_7

一文字はまた樹に近づき、鋏の飾りと自分の髪を巻いた赤い風車を取った。鋏は大事に巾着にいれ、風車のほうはまた三つ編みに挿し込む。 首巻と羽織りを翻し、中央区を後にする。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:39:39
不可村 @nowhere_7

思うに。一文字の脳は思考をやめない。考えるだけならいいのだ。 思うに徒華の弟は、一文字へ対する憎しみと、認めがたいもうひとつの感情から、逃げなかったのだ。逃げないで向き合って向き合ってそれで出た答えが、行方不明。今の状況だ。 ――徒華に言える筈がなかった。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:44:05
不可村 @nowhere_7

憶測だ、すべて憶測だ。 いつの間にか家に着いていた一文字は、廃屋を取り囲む石の塀に一度手をつき、息を整えた。思考と共に歩く速度も上がっていたらしい。 ――もう片方の手で眉根を押さえる。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:47:24
不可村 @nowhere_7

徒華の弟の目に浮かぶ、己へのそれに気がついたとき、一文字は何も言えなかった。何より彼本人がその感情と戦っていた。どう処理をしようかと迷っていた。そこに嘴を挟む真似は出来なかった。見守ろうと思った。 でも消えられた。一文字に何が出来たというのだ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:48:59
不可村 @nowhere_7

応じればよかったのか。けれど相手自身がそれに戸惑っている最中なのだ。そこまで卑怯にはなれない。 それに一文字にとっては、徒華の弟は大事な仕事仲間だった。放浪して一人だった一文字は友に飢えていた。徒華もいい友人だったが、矢張り同性の友人だってほしかったのだ。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:50:55
不可村 @nowhere_7

その気もないのに大事な友人の弟に、しかも自分の大事な仕事仲間に、嫌われることを覚悟に自分から誘うことも出来なかった。 ――けれど行方不明になるくらいなら。 一文字には分からない。こういった推測から生まれる葛藤など無意味だ。少なくとも今のような場合は。 #空想の街 #赤風車

2014-12-14 19:53:34
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