ストレイトロード:ルート140(9周目)

オリジナル短編「ストレイトロード」のコンビがお届けする、短編という名の習作。1日1話ペースで継続中。 今回は401~450をお届けします。 以前のまとめは作者おすすめ欄か下記URLからどうぞ。 元の短編の掲載場所: http://www.gekkado.jp/
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Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

車の故障が日没前に直らず、私達は無人の小屋を一晩の宿とした。しかし寝ようとする頃、壁の向こうが何やら騒がしくなった。「調べてみる」藍は壁に張りついた。よく見ると板の継ぎ目に隙間があり、そこをじっと見ているらしい。「壁の中に子猫がいる。あ、こっち見たわ」内壁を剥がす作業が始まった。

2014-11-07 19:45:22
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、413。隙間。 通り道があればどこにでも行ける。

2014-11-07 19:45:27
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

棚に並ぶ石鹸から目に留まったものを一つ手に取ったら、横から奪い取られた。隣を見ると、藍が取り上げた石鹸を眺めていた。「ふーん。こういうの使うんだ」そして何か心配するような顔で私を見上げた。「本当に苦しい生活してたの?」私は選んだ立方体がその棚の中で一番高価な物だとやっと気づいた。

2014-11-08 22:30:55
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、414。石鹸。

2014-11-08 22:31:23
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

私達の前にはいびつな形をした石造りの塔がそびえている。何千年も前にこの地へ移住した人々が自分達の手だけで築いたと案内人は語った。しかし彼らの祖先が何を思ってこの石を積み上げたかまでは知らないという。「どこかにメモとか残ってないの?」藍の正直な感想に案内人は苦笑いしか返さなかった。

2014-11-09 21:30:31
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、415。祖先。 自分達の行動を未来の人々が気にしているなんて、きっと誰も思わない。

2014-11-09 21:31:31
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

鞍に跨がった瞬間に藍が見せた表情の変化は劇的だった。馬の背から見下ろす世界はきっと、車の屋根に登って眺めるものとは違うのだろう。彼女は何かを言いかけたが、直後に馬が走り出したので何も聞けなかった。制御不能に近い状態に乗り手は耐えている。握った手綱が震えても、強気な笑顔は崩さない。

2014-11-10 18:58:54
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、416。手綱。 跳ね馬のように。

2014-11-10 18:59:25
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

怪物は長い指と長い爪を広げ、建物を軽く掴んだだけで外壁をもぎ取り、放り投げた。こねた生地を千切って並べる藍の姿と一瞬重なったが、菓子を焼くのとはわけが違う。「あれ、家を作ってるのよ」その藍が言った。「あの種類は他の奴の巣を横取りして自分好みに作り替えるの」元の家主には迷惑な話だ。

2014-11-11 19:17:03
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、417。千切る。 彼らの世界の怪物は人の造った大きな箱が大好きだ。

2014-11-11 19:17:09
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

事前に決めたものだけ買う。その方針で合意していたはずが、いざ市場に来ると藍がどうしてもと譲らなくなり、果実を一つだけおまけで買うことになった。箱の中に敷き詰められた粒揃いの実から一つだけ選ぶ。藍は今日の用事で一番時間をかけて悩んでいる。両手に袋を抱えて待つ私の首筋に雨粒が触れた。

2014-11-12 20:47:44
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、418。粒。 甘い実を求めて。

2014-11-12 20:47:50
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

巣が見える位置に潜んで三日。中にいるはずの怪物に動きがない。「風向きがよくない」扉の陰から見張っていた藍が唐突に呟き、その場に座り込んだ。風を従える魔女が言うのだから何かが余程の事態なのだろう。私は何も言わなかった。撤退を進言するのは簡単だが、受け入れる側には重大で難しい選択だ。

2014-11-13 19:37:40
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、419。撤退。 時には2歩下がる日だってある。

2014-11-13 19:37:47
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

藍がホテルの窓から身を乗り出して外の景色を眺めている。「何が見えますか」「隣の公園に人が集まってるの」聞いたら愉快そうに説明された。「輪になって、杖持って、何か唱えてる」どこまでが本当なのか。声だけ聞いているうちに疑問を覚えたが、ベッドから一歩も動けない私には何も確かめられない。

2014-11-14 19:13:25
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、420。唱える。 声が聞こえる。意味は分からない。

2014-11-14 19:13:32
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「この辺りだったんですが」「何もないじゃない」今日訪れた街は私が数年前に働いていた所だ。それを聞いた藍が当時の住居を見たいと言い出したので連れて行ったが、そこには荒れ果てた更地しかなかった。「きっと夢でも見てたのよ」土地の隅に埋まった敷石に辛うじて人が暮らした名残を見つけ出した。

2014-11-15 22:56:31
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、421。名残。

2014-11-15 22:56:44
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

薄暗い階段を一歩ずつ、探るようにゆっくりと降りて行く。右手に鍵を握りしめた藍は一度も足元に視線を落とさず、懐中電灯の光が届かない地中の世界を見つめ続けていた。声が漏れるのをこらえる息遣いだけが狭い壁に反射する。言葉にしない感想は全部、左手でしっかり握られた私の右手に伝わってくる。

2014-11-16 21:55:09
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、422。握る。

2014-11-16 21:55:21
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

「忌々しい魔女め。でもお前の弱点なら分かってる」男は既に勝ったような顔で背後の壁を叩いた。ボタン一つで次々に防火扉が作動し、ものの数十秒で倉庫内から出口が消えた。「風は通れても体は通れない。これで逃げられないだろう!」「ええ、あなたもね」藍が笑顔で答えた。魔女に抜かりはなかった。

2014-11-17 18:58:54
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、423。抜かり。 小さな言葉。大きな怪物。 どちらも、呑まれたら終わり。

2014-11-17 18:59:00
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

車が街に乗り入れた途端、私は想像していた活況と現実の落差に面食らった。古代遺跡の発見以来の歴史をそのまま遺跡にしたような静けさだ。「出た物が捏造だったって騒ぎは習ったけど」「それは知っています」「最初の発見から全部作り話だったんでしょ?」藍の一言で私の知る歴史が静かに崩れていく。

2014-11-18 19:41:58
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

140文字で描く練習、424。捏造。 昔と今でだいぶ違うらしいですね。教科書の内容。

2014-11-18 19:42:07
Rista(化屋月華堂) @Rista_Bakeya

藍が風を使って大量の落ち葉を集め、それを車の屋根に糊で貼り始めた。何事かと尋ねると、軍の戦車をヒントに新たな作戦を考えたという。車を何かに擬装するのか。造形を見ても見当がつかない。「この前見た子に似てない?」怪物の幼体が手本とは。だが敵の目を欺くより惹き付ける装飾にしか見えない。

2014-11-19 18:55:01
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