艦これ二次創作「バーニング・コオリヤマ」#1

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けろきゃ @k6ky

(これから艦これSSを投下します。本編22ツイートを約5分おきに投下し、2時間ほどの予定です。気になる方はお手数ですがミュート、リムーブなどお願いします。感想・実況などは #ss_k6ky を使用していただくと小躍りして喜びます。それでは、よろしくお願いします)

2014-12-23 17:06:10
けろきゃ @k6ky

「バーニング・コオリヤマ」 #1

2014-12-23 17:06:24
けろきゃ @k6ky

世界全土を深海棲艦が分断し、海上交通が途絶した未来。人々は原始的共同社会に回帰し、そこに馴染めぬアウトローは洋上のフロンティアへと掃き捨てられた。ヤクザ同士の抗争を大企業群の非合法技術開発試験が加速する。ここはチバシティ。世界に見捨てられ、国土再編を強いられた日本の番外地だ。 1

2014-12-23 17:06:53
けろきゃ @k6ky

チバシティの空は今日も高く青い。夜になれば軌道衛星都市の灯りも見えるだろう。18番メガフロートの沿岸部に並ぶ倉庫群は気怠げに日々の仕事をこなす。時折垣間見える路地裏には、これ以上の支払い能力なしとみなされた薬物中毒患者が転がっている。 2

2014-12-23 17:11:49
けろきゃ @k6ky

不知火はこのメガフロート沿いの水路を進んでいた。目的地は次の突き当たりを右折してすぐ。だがその前に、尾行してきている艦娘を片付けなければ。気配と速度から推測するに、綾波型が2隻。まだこちらが気付いていないと思っているだろう。不知火は脇道に入って待ち伏せる。 3

2014-12-23 17:16:36
けろきゃ @k6ky

脇道を慎重に覗きこんできたのは、綾波と敷波の2隻。「貴女達がお探しの不知火です。二人とも、なってませんね」即座に発砲。綾波を中破させる。慌てて逃げる敷波に追いつき、並走する。「折角ですから、いいものを見せてあげます」「なっ…」敷波は速度をランダムに変えるが、振り払えない! 4

2014-12-23 17:21:19
けろきゃ @k6ky

艦娘の水上走行は足に装備した艤装の特殊素材により水を一瞬凍らせることで実現される。急に速度を上げれば凍っていない海に沈み、遅くなりすぎれば足元の氷もろとも沈む。ゆえに速度変更は細心の注意が必要な挙動であるが、不知火は顔色も変えず敷波の速度変更に追従する。 5

2014-12-23 17:26:30
けろきゃ @k6ky

「艦娘にはこういう戦い方もできます。覚えておくといいでしょう」不知火が敷波の袖を引くと、バランスを崩した敷波は尻餅をついて転覆する。海上戦闘のために作られた艦娘だが、全身が水没してしまえば殆んどの火器は使えなくなる。「貴女達の尾行は失敗です。綾波に曳いてもらって帰りなさい」 6

2014-12-23 17:31:47
けろきゃ @k6ky

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2014-12-23 17:36:09
けろきゃ @k6ky

チバシティ18番メガフロートの南端にあるアパートの一室が、ナカムラの住居にして仕事場だ。現役ともスクラップとも知れぬ山積みにされたデッキ、今や高級品であるミネラルウォーターが2箱、壁に吊るされたイミテーションの手裏剣。残った面積のほとんどは多様な出自を持つゴミで覆われている。 8

2014-12-23 17:36:18
けろきゃ @k6ky

昨晩一仕事を終えたナカムラは仮眠から目覚め、報酬が届けられるのを待っていた。太平洋を挟んだ遥かな地《スプロール》で鳴らしたナカムラは、チバシティでは数少ない、フリーでやっていける実力を持ったカウボーイである。チバシティの大抵の組織は、電脳空間中の彼にとっては粘土も同然だ。 9

2014-12-23 17:41:36
けろきゃ @k6ky

呼び鈴が鳴らされる。「マキノ研究所の不知火です。報酬をお届けに上がりました」ナカムラの部屋に物理的なセキュリティはない。組織間の力関係の中で安全を確保する処世術くらいは心得ているし、そもそも個人で出来る範囲など知れている。ドアを開けると、人形を肩に乗せた少女が立っていた。 10

2014-12-23 17:45:41
けろきゃ @k6ky

「まさか艦娘がメッセンジャーとはな。初めて見た」好奇の視線を意に介さず、少女が小箱を差し出す。「こちらが今回の報酬となります。現物支給で申し訳ありませんが」少女は周囲に目を配りながら続ける。「これは個人的なお願いなのですが、マキノ研究所の現状を確認していただけませんか」 11

2014-12-23 17:50:24
けろきゃ @k6ky

「現状? 勤め先の経営状態に不安でも?」ナカムラは小箱をズボンのポケットにねじ込みながら聞き返す。「いえ、文字通り今の様子です。おそらく、マキノ研究所はもう存在していません」研究所がヤクザから電子的な攻撃を受けているため、これに反撃する。それがナカムラの昨日の仕事だった。 12

2014-12-23 17:55:39
けろきゃ @k6ky

ナカムラの攻撃は成功し、攻撃を仕掛けていたコオリヤマ・ヤクザクランは攻撃どころではなくなったはずだ。だが彼らがそれで諦めず、物理的な襲撃に切り替えたとしたら。「不知火もここに来る途中で襲撃されました。研究所の資産は残さず回収するつもりなのでしょう」 13

2014-12-23 18:00:47
けろきゃ @k6ky

「そんな状況でも律儀に報酬を払ってくれるとは、研究所なんてのも随分義理堅いんだな。仁義はヤクザの専売特許かと思ってたが」「いえ、ヤクザへの単なる嫌がらせでしょう。彼らの取り分を僅かでも少なくしてやりたいだけかと」ナカムラは天を仰ぐ。面倒ごとに巻き込まれた気がしてならない。 14

2014-12-23 18:05:42
けろきゃ @k6ky

「襲撃されたと言ったな。それで連中が諦めてなければ?」「再度襲撃されるでしょう。今度は、貴方が」不知火はにべもなく答える。「一応研究所の方を確認する。ちょっと待ってろ」デッキの山に向かい、手際よくケーブルをセットする。座椅子に座り座禅を組む。ジャック・イン。 15

2014-12-23 18:10:37
けろきゃ @k6ky

ナカムラの眼前に、直線で構成された街並みが広がる。ネットワークに写像されたチバシティ。肉の檻から解放された飛翔感に酔うのもそこそこに、マキノ研究所を探す。昨日仕事前に確認したときとは、確かに様子が変わっている。防壁を組み直したらしい。襲撃元ヤクザ事務所への直通回線が見える。 16

2014-12-23 18:16:13
けろきゃ @k6ky

ジャック・アウト。「確かに研究所はコオリヤマに制圧されたようだな」「では、貴方はどうします?」不知火が尋ねる。「その小箱を渡せば、関わり合いにならずに済むかもしれません」ナカムラは立ち上がりながら首を振る。「タダ働きはゴメンだ。それに、ナメられたら終わりだしな、この仕事は」 17

2014-12-23 18:20:11
けろきゃ @k6ky

とはいえ、この状況で頼れる組織は思いつかない。社会的な力学を盾にできないとなれば、ヤクザの暴力には為す術もない。「では不知火に提案があります。不知火を雇ってください」ナカムラには唐突な話だったが、不知火は先程から考えていたらしい。淀みなく続ける。 18

2014-12-23 18:25:20
けろきゃ @k6ky

「不知火ならば、ヤクザクラン1つと真っ向やり合うのは無理としても護衛くらいならばできます。一方不知火には研究所に戻ってコオリヤマ麾下に入る選択肢もありますが、それではあまり良い待遇は望めません。それよりも、しばらく貴方を護衛した実績を立てて将来別のところへ所属する方がいい」 19

2014-12-23 18:30:18
けろきゃ @k6ky

ナカムラは必死に考える。現状の手っ取り早い打開策に聞こえるが、個人で艦娘と契約するなど聞いたことがない。「俺は何をすればいい? あまり高い給金は出せんし、艦娘ならメンテとか色々あるだろう」「待遇は日常生活を送れる程度で結構です」これも検討済みのことらしく、すらすら答える。 20

2014-12-23 18:35:18
けろきゃ @k6ky

「整備など艦娘特有のことについては、保証人のようなことだけしてもらえれば、あとは不知火が手配できます。貴方のようなカウボーイならば大丈夫でしょう」ナカムラはあまり考える時間が残っていないことを意識する。何が大丈夫なのか知らないが、他に打つ手は思いつかない。 21

2014-12-23 18:40:18
けろきゃ @k6ky

「分かった。君と契約する。俺はナカムラだ」「駆逐艦、不知火です。ミスター・ナカムラ、いえ司令。ご指導ご鞭撻、よろしくです」 22

2014-12-23 18:45:47
けろきゃ @k6ky

「バーニング・コオリヤマ」 #1 終わり。 #2 へ続く。

2014-12-23 18:46:56