艦これ二次創作「バーニング・コオリヤマ」#3

世界全土を深海棲艦が分断し、海上交通が途絶した未来。人々は原始的共同社会に回帰し、そこに馴染めぬアウトローは洋上のフロンティアへと掃き捨てられた。ヤクザ同士の抗争を大企業群の非合法技術開発試験が加速する。ここはチバシティ。世界に見捨てられ、国土再編を強いられた日本の番外地だ。
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けろきゃ @k6ky

* さあ、カラテの時間だ

2015-03-29 10:51:13
けろきゃ @k6ky

(これから艦これSSを投下します。本編32ツイートを約4分おきに投下し、2時間ほどの予定です。気になる方はお手数ですがミュート、リムーブなどお願いします。感想・実況などは #ss_k6ky を使用していただくと小躍りして喜びます。それでは、よろしくお願いします)

2015-03-29 10:51:39
けろきゃ @k6ky

これまでのあらすじ: 水上都市チバシティのカウボーイ・ナカムラは、仕事の報酬として受け取った研究所の試作品をコオリヤマ・ヤクザクランに狙われる。同じくコオリヤマに追われる艦娘・不知火と契約したナカムラは、クランを壊滅させる反撃作戦を開始する。

2015-03-29 10:51:49
けろきゃ @k6ky

(「バーニング・コオリヤマ」 #1 togetter.com/li/760992 「バーニング・コオリヤマ」 #2 togetter.com/li/780280)

2015-03-29 10:52:59
けろきゃ @k6ky

「バーニング・コオリヤマ」 #3

2015-03-29 10:53:46
けろきゃ @k6ky

メガフロート間抗争での主戦場は水上であり、ヤクザの戦術も企業の技術開発も水上をいかに制するかが主眼となった。試行錯誤の末に生まれた諸技術の結晶が、個人用海上打撃制圧兵装「艦娘」、および人型自立駆動火器管制システム「妖精」であった。 1

2015-03-29 10:53:58
けろきゃ @k6ky

メガフロート間の細い水路を制する機動性と燃料不足を解決する低燃費の達成は、濡れると一瞬で海水をも凍らせる熱交換を行う機能素材の発明によって方針が決まった。人間を水上に浮かべたとき、次に問題となったのは武装であった。個人携帯可能で、継戦能力の高い制御機構が必要とされた。 2

2015-03-29 10:57:56
けろきゃ @k6ky

海水、振動、そして衝撃にさらされる環境を前提にしたとき、半導体素材の高騰もあり、部品が脆弱でフェイルセーフ機構が多重に必要な電子制御は採用されなかった。多くの血と鉄とともに導き出された結論は、単純な機構の火器を、柔軟性が高く代替のきく人型ロボットに操作させる構成だった。 3

2015-03-29 11:04:03
けろきゃ @k6ky

妖精と呼ばれるロボットは人型を動かすのに最も適した計算資源、すなわち人間の脳の一部を使用した。脳の一部が損傷したとき、その部位が担当していた機能を他の部位が代替するように、艦娘の脳は妖精を体の一部としてセンサからの情報を受け取り、判断し、妖精の駆動部を制御する。 4

2015-03-29 11:09:12
けろきゃ @k6ky

妖精の制御機構は特に成長途上の少女によく適合し、結果としてチバシティの戦場は少女達が支配することとなった。脳にどのような影響を与えるか分かっていない妖精を使うことの是非も、少女達を抗争の尖兵とする倫理性も、チバシティで問われることはない。 5

2015-03-29 11:13:54
けろきゃ @k6ky

チバシティ中のメガフロートを寸断する水路を高速で滑り、個人で一個小隊相当の火力を誇る艦娘は今やチバシティでの戦闘における主戦力である。ヤクザの縄張り争いから借金の取り立て、押し込み強盗に至るまで、あらゆる場面で艦娘の機動力と火力は他の兵種を寄せつけない。 6

2015-03-29 11:17:54
けろきゃ @k6ky

不知火は海に面した路地裏で呼吸を整えていた。頭に音声通信用のヘッドセット、右手に契約の前払いだと渡された指輪の片方を手袋の上から嵌めている。助走をつけ、走り幅跳びの要領で水面へ飛び込む。同時にブースター主機を両舷全速。空中で更に加速し、着水時の下方向の衝撃を進行方向へ散らす。 7

2015-03-29 11:23:15
けろきゃ @k6ky

体勢を整え主機の出力を抑えると、事前に確認したコオリヤマ戦力、特に移動しそうな川内の予想航路を避けてマキノ研へ向かう。しばらく進んでいると、ナカムラから通信が入った。『川内が移動を開始したらしい。が、現在位置も進路も分からん。注意してくれ』 8

2015-03-29 11:27:56
けろきゃ @k6ky

「どういうことですか?」コオリヤマの通信は完全に傍受できているはずではなかったのか。『コオリヤマの連中も川内の居場所を把握していないらしい。移動開始を告げてから、川内からの通信が一切途絶えた。無線封鎖ってやつだな。傍受はまだバレてないと思うが、連中もそれだけ慎重ということか』 9

2015-03-29 11:31:15
けろきゃ @k6ky

『川内が通りそうな水路の目撃情報や監視カメラに当たってるが、航跡すら見つからん。とりあえず確認済みのルートを送るから、そこを通ってくれ』不知火は携帯端末に送られてきた経路を確認し、進路を変更する。神出鬼没の"ニンジャ"川内。その噂が不知火の脳裏をよぎる。 10

2015-03-29 11:35:17
けろきゃ @k6ky

川内が通っていないことが確認された水路をいくつか抜け、ひらけた海域に出る。不知火は進行方向右手の水面に小さな影を見つけた。気のせいかと思われたそれは、不知火と並走しながらみるみる濃さを増し、ついにはオレンジ色の服に身を包んだ少女として水上に現われた。 11

2015-03-29 11:39:29
けろきゃ @k6ky

少女はしばらく海中から伸びた手に支えられて速度を稼いだ後、自走を開始する。「予定通り、待機ポイントに先に向かってて。すぐ追い付くから」海中から顔を出した青髪の少女は指示を受けて再び潜航する。「余計なことばっかりしてるとイクまで一緒に怒られるの。どっちが旗艦だか分からないの」 12

2015-03-29 11:43:21
けろきゃ @k6ky

不知火と並走するオレンジ服の少女は、背負ったダイビング用ボンベを外して海面に放り捨てる。上体だけを器用に不知火に向け、両手を合わせお辞儀した。「ドーモ、不知火=サン。川内です」 13

2015-03-29 11:47:23
けろきゃ @k6ky

「はあ、不知火です。なんですかそれは」不知火は身構えながら、とりあえずの質問を返す。「ああごめん、これガイジン達にウケがいいんだよね。つい癖になちゃって」潜水艦に曳航させ海中を進む、これが神出鬼没"ニンジャ"の正体。海上だけを探した結果、かえって鉢合わせしてしまったわけだ。 14

2015-03-29 11:50:13
けろきゃ @k6ky

不知火は状況判断する。逃げたいところだが、おそらく速力にほぼ差はない。火器は潜水のために封印してあるようだ。しかしすぐに開放できるだろうし、そうなれば相手は軽巡、射程の差は離れれば致命的になる。何より逃げているうちに他の艦隊と挟み撃ちにされたら最悪だ。戦うしかない。 15

2015-03-29 11:54:09
けろきゃ @k6ky

先程の潜水艦は気にしなくていいだろう。呼吸器官までサイバネ改造を受け、生身の人間には不可能な潜水時間を達成する艦娘。だがその速力は水上を行くよりはるかに遅い。不知火より神通を優先するなら、言われた通り持ち場へ直行しなければ間に合わないはずだ。 16

2015-03-29 11:58:21
けろきゃ @k6ky

「一応聞いておくけど、大人しくうちに来てくれない? 悪いようにはしないからさ。うちの子達を追い返したのも不問にするって」「お断りします」不知火は即答する。「コオリヤマの拡大方針はすぐに破綻します。無謀な賭けに乗る趣味はありません」川内が眉根を寄せる。 17

2015-03-29 12:02:46
けろきゃ @k6ky

「うちの計画をどれだけ把握してるのか知らないけど…ますます黙って帰すわけにはいかないね」川内は右に回頭、Uターンしてこちらに向かってくる。不知火も左から回り、真っ向迎え撃つ。腰に下げたナイフを抜く。艦娘の衣服は、薄く見えても防刃防弾のカーボンナノチューブ製だ。狙うは眼球。 18

2015-03-29 12:07:28
けろきゃ @k6ky

交差の瞬間、第一戦速を乗せた不知火の突きは僅かな上体操作で躱された。川内の左手が突き出された不知火の右袖を掴む。川内の右手が不知火のシャツをジャケットごと掴む。右腕を引かれ体勢を崩した不知火の体を、その場で身を捻った川内の腰が跳ね上げる。一本背負い! 19

2015-03-29 12:10:57
けろきゃ @k6ky

川内が自分と不知火の体重を支え、そのまま投げ飛ばす。交差時の緊張と投げ技を受けた危機感から、不知火の体感時間が鈍化する。反射的に受け身を取ろうとする体を抑えつける。両足を揃えて上体の下へ、主機の出力を全開に。足から着水し、衝撃で跳ね返りながら水切りの石のように前進する。 20

2015-03-29 12:14:31