古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #40

更新四十回目のまとめです。 青葉の胸中、それを見守る鎮守府の艦娘たち。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私はぶたれる、と思わず両手で顔をかばい目をつぶってその瞬間を待っていたけれど、いつまで経っても衝撃はやってこなかった。恐る恐る目を開けてみると、目の前には白い紙が掲げられていた。 「なにこれ?」 「始末書に決まってるでしょう。本来なら命令違反で軍法会議ものだったんですからね」

2014-12-28 22:37:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

始末書を受け取りそれをぼんやり眺めていると青葉が口をへの字にして腰に手を当てて怒りはじめた。 「自分が何やったかわかってるんですか衣笠?」 「えっ、うん」 「なんですかその態度は!そこに正座しなさい正座!」 慌てて今まで寝ていたベッドの上に正座すると、青葉のお説教が始まった。

2014-12-28 22:43:04
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「大体何で勝手に隊列を離れてるんですか!古鷹さんがついていくからって言ってくれなかったら発光信号打ってでも呼び戻してましたよ!青葉たちには無茶するるなって言うくせに、自分は――」 青葉のお説教はほとんど私の耳を右から左に素通りしていった。私はぷりぷり怒っている青葉を見つめていた。

2014-12-28 22:49:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

以前の青葉だったら、古鷹ねーさんにかばわれて撤退してきたことを引きずってまた落ち込んでいたことだろう。今回は私の暴走が発端だということもあるだろうけれど、青葉には憔悴の色は見えなかった。こうして私を怒ってくれるのも青葉が次の出撃を見据えているから。その事が私には無性に嬉しかった。

2014-12-28 22:54:22
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そんなことを考えていたのが、いつの間にか顔に出ていたらしい。私の顔に目を向けた青葉が一際むっとした顔をした。 「聞いてるんですか衣笠!」 「聞いてます聞いてます!」 確かに功を焦って無茶をしたのは私だ。タ級の砲口を向けられた瞬間の恐怖は、今思い出してもぞっとする。

2014-12-28 23:01:51
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

でも無茶と言えば叢雲も結構無茶なことをやったわよね?と言ってみると、叢雲さんには十分な勝算があってやったんです、との返事。確かに叢雲は槍と連装砲で魚雷を狙い、自分への被害を最小限に抑えようとしていた。それにしても。 「青葉、すっかり立ち直ったね。あんな状況でそこまで見てるなんて」

2014-12-28 23:08:29
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「いえ……まだまだです。南方棲戦姫に狙われていることはわかっていたのに、また古鷹さんにかばわせてしまいました。古鷹さんが吹き飛ばされたのも見えてませんでしたし」 そう言いながら青葉は肩を落とす。けれど、以前のように何もかもを諦めたような絶望的な雰囲気は漂わせていない。

2014-12-28 23:13:46
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「今のままではだめです。もっと出来ることを考えなければ……忙しいのでもう行きますね。衣笠も早く体を治して下さいね?始末書もちゃんと書く事!いいですね!?」 口うるさく言いながら青葉がドックを出ていく。はいはい、と答えながら私は青葉を見送った。心の中だけでお姉ちゃん、と付け加える。

2014-12-28 23:21:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

始末書を書く気にもなれず再びベッドに寝転がろうとすると、青葉と入れ替わりで加古と雷ちゃんが入ってきた。どうやら私たちの話を聞いていたらしく、二人も満足気に笑っていた。 「何笑ってんのよ」 「衣笠こそ」 三人でふふっと笑い合う。私たちにとって青葉の復調はそれだけ喜ばしいことだった。

2014-12-28 23:28:31
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「青葉もあれで色々考えてるんだよ。もう少し見守ってやろう。な?」 「そうね……」 加古の言葉を噛みしめていると、だから衣笠ばっかり無理しなくても、と加古が言ったように聞こえた。え?と顔を上げると、加古がそっぽを向いた。私が加古に聞き返そうとするより先に、雷ちゃんが口を開く。

2014-12-28 23:39:56
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「なんにせよ、あんたたちが無事に帰ってきてくれてよかったわ。支援艦隊は出さない約束だったけど、待ってられなくて迎えを出しちゃった」 雷ちゃんに頭を下げる。 「提督もありがとう。主力艦隊への支援砲撃も提督が手配してくれたんでしょ?」 そう言うと、雷ちゃんは不思議そうに首を傾げた。

2014-12-28 23:47:01
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「何のこと?私支援砲撃なんか出してないけど」 ええ?と面食らっている私に加古が言った。 「何だ、衣笠気付いてなかったのか。へ級を沈めた砲撃は青葉だよ。衣笠と一緒に照明弾を撃った中に通常弾を混ぜてた。あれで敵さんも近くに戦艦がいるのかと誤解してくれてあたしたちは逃げられたんだ」

2014-12-28 23:55:03
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私は改めて青葉の咄嗟の機転に舌を巻く思いだった。加古が言葉を続ける。 「まあ垂直に撃ってへ級に当たったのは運が良かったけどな。あたしらの旗艦は運もついてる。だろ?」 私は強く頷いた。そうよ、青葉だからこそ私たちは支えてきた。青葉だからこそ、私たちは従ってきた。

2014-12-29 00:00:52
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「青葉以外を旗艦に仰ぐ気、あるか?」 「まさか」 「だよなあ」 即答した私を見て加古が笑う。そして顔を巡らせ雷ちゃんを見た。 「な?」 「そうねえ。余計な事言ったわ」 雷ちゃんも苦笑している。話の中身がつかめずにいると、雷ちゃんが説明してくれた。 「さっき古鷹にその話をしたのよ」

2014-12-29 00:09:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あんな大敗した後で、青葉がまた気に病んでるかもと思ったからね、旗艦を誰かに交代して流れを変えてみる?って。そしたら言われちゃったわよ。『絶対嫌です』って」 雷ちゃんの言葉に私は目を見開いた。それって、それって! 「古鷹にしては珍しく勢い込んで嫌がったからね、ちょっと安心したわ」

2014-12-29 00:17:11
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

雷ちゃんと同じ安心感を私も噛みしめていた。ああ、ああ、古鷹ねーさんも、同じ気持ちだったんだ。艦娘としての気持ちと、ひととしての気持ちの板挟みになっていた古鷹ねーさんが、青葉に対しての気持ちをしっかり持っていてくれたという事実が、私の心を温かくしてくれていた。思わず少し涙ぐむ。

2014-12-29 00:27:36
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「古鷹も大概無茶するけどさ、それもやっぱり――」 「どいてどいてー!」 加古の言葉は、突如隣のドッグに突入してきた明石の声で遮られた。その腕には、大破したイムヤが抱えられていた。 「イムヤ!?どうしたの!?」 血相を変えた雷ちゃんが、ベッドに寝かせられたイムヤに駆け寄る。

2014-12-29 00:34:16
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

雷ちゃんの声で目を開いたイムヤが、雷ちゃんに顔を向けてにこ、と力なく笑った。右手に握られたままのスマホを何か操作している。通知音がして、雷ちゃんがポケットから自分のスマホを取り出した。 「『吹雪たちの訓練に付き合ってうっかり爆雷に当たっただけ』って……もう、心配させないでよ!」

2014-12-29 00:40:06
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

あれこれ話しかける雷ちゃんに、イムヤはスマホのメッセージ機能で返事している。しゃべれない訳ではなく、うちのイムヤはいつもこうなのだ。 「吹雪ちゃんたちの訓練って?」 私が尋ねると、イムヤが今度は私のスマホを鳴らした。曰く「吹雪たちが『今度こそ絶対に敵潜を沈めたい』って言うから」

2014-12-29 00:45:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ドタバタと足音がして吹雪、初雪、叢雲にはっちゃんやイクたち潜水艦が次々に顔を見せた。明石に大丈夫ですよと告げられて一様に胸を撫で下ろしている。どうやら吹雪たちの対潜訓練に鎮守府の潜水艦総出で協力してくれているらしい。ああ、彼女たちにも私たちは支えられていると私はまた胸が熱くなる。

2014-12-29 00:51:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「修復時間が短いからって、無理しなくていいのよ?しばらく休んでなさい」 そう言われたイムヤはまたにこ、と笑い何も言わずに雷ちゃんの手を取って手の上にキスした。イムヤは口数は少ないけれど、雷ちゃんを慕っている。前の提督が行っていた休憩なしのオリョール海出撃をやめさせたのがその理由。

2014-12-29 00:56:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

だから、私たちのサブ島沖海域攻略をバックアップしてくれている雷ちゃんに従ってこうして吹雪たちの訓練に付き合ってくれているのだろう。私は「本当にありがとう」とメッセージを返した。イムヤの返事は無言の笑顔だけ。でも、気持ちは十二分に伝わっている。私は本当に頭の下がる思いだった。

2014-12-29 01:02:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

根を詰め過ぎてもこうして事故が起こるから休憩を取りなさいとの雷ちゃんの指示で、皆が引き上げていく。ふと目が合った吹雪ちゃんを私は呼び止めた。 「吹雪ちゃんも大丈夫?気合入ってるのはいいんだけど、修復終わって間もないでしょ?」 「大丈夫ですよ、駆逐艦は修復に時間かかりませんし」

2014-12-29 01:09:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

健気な笑顔で返してくる吹雪ちゃんに何も言えないでいると、それに、と吹雪ちゃんが言葉を続けた。 「何だか申し訳ない気持ちもあるので」 え?と私は思わず聞き返した。

2014-12-29 01:15:06