古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #42

更新四十二回目のまとめです。 サブ島沖海域の決戦。青葉の立てた秘策とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

サブ島沖海域の夜を抜けて、私たちは敵主力艦隊のいる晴れ間の差し込む海域に到達した。ここまでの夜戦で私たちの損傷は軽微。こちらの火力が少ないため、速力を活かして極力戦闘を回避してきたおかげだ。はるか前方の空に、南方棲戦姫が発艦させた爆装した艦戦が飛んでいるのが見える。

2015-01-05 23:54:51
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

おぼろげながらも敵艦隊の姿も見える。それを認めた青葉が、艦隊の先頭で私たちを振り返り、言った。 「……皆さん、準備はいいですか」 「おう」 「もちろん!」 「うん」 「はいッ!」 「当然よ!」 私たちはめいめい統一感のない返事を返す。それを聞いた青葉が苦笑する。

2015-01-06 00:00:28
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「皆さんもこれまで本当に――」 「なーに言ってんだよ青葉!」 「痛ッ!?」 何か言いかけた青葉の背を加古が力いっぱい叩いた。 「提督も言ってたろ?それはまだ早いって」 加古の言葉に頷いた青葉が顔を引き締めた。そして。 「最大戦速ッ!複縦陣取れッ!これより砲雷撃戦開始しますッ!」

2015-01-06 00:06:11
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私たちはそれまでの単縦陣から陣形を組み替えた。私と古鷹ねーさんの第二小隊が増速し、青葉と加古の第一小隊のすぐ左側につく。吹雪ちゃんは加古の後ろ、叢雲は古鷹ねーさんの後ろにつき、三隻ずつの二列縦隊を組んで一気にトップスピードへ!突然増速した私たちを見て、艦戦が慌てて爆弾を投下する!

2015-01-06 00:12:01
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

しかし、爆弾が海面に達するころにはすでに私たちはそこを駆け抜けている!空しく上がる水柱を背後に、私たちはみるみるうちに敵艦隊との距離を詰めた!しかし輸送ワ級を中心に輪形陣こそ組んでいるものの、敵深海棲艦たちの対応はどこか鈍い。まるで私たちに慌てて砲を向ける必要などないかのように。

2015-01-06 00:18:09
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「左舷前方11時方向!雷跡8!」 吹雪の鋭い警告!深海棲艦たちの自信を裏付けるかのように、敵潜の先制雷撃が私たちに迫る!しかし青葉の指示には何の動揺も見られなかった! 「面舵一杯ッ!」 青葉の指示に従って全員が一斉に転舵する!しかし左列最後尾の叢雲は一番右端の魚雷を避け切れない!

2015-01-06 00:25:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

その時、古鷹ねーさんが転舵しながら身をよじり、左腕を背後の叢雲に伸ばした!その手を叢雲の右手がしっかりと握り、古鷹ねーさんと一瞬視線を交わす!そして古鷹ねーさんが遠心力をつけて左腕を前に振り、叢雲を前に投げ出した!重巡の腕力で加速された叢雲が、水面を跳ぶように駆ける!

2015-01-06 00:33:56
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

叢雲が急加速して私たちを追い抜いていったことで、敵潜の魚雷は全て外れた!そして叢雲は真っ直ぐ駆け続ける! 「叢雲ちゃんッ!方位そのまま、距離300、深度20!いっけぇッ!」 吹雪が両耳に手を当てながら叫ぶ!その視線の先には、雷撃を放ったのち戦果を確認しようと浮上していた潜水ヨ級!

2015-01-06 00:42:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

あの先制雷撃を私たちが回避し切るなんて。あまつさえ不意を打って反撃に移るなんて、敵潜は予想だにしていなかったに違いない。慌てて潜航しようとする敵潜に、叢雲が三式爆雷投射機と自らの腕でありったけの爆雷を投射する! ドオンドンドドン! 無数の水柱に混じって敵潜の艤装の一部が宙を飛ぶ!

2015-01-06 00:48:53
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

隊列に復帰しながら叢雲が言い放った。 「チッ!精々中破止まりね……でも逃げられると思うんじゃないわよ!あの時動けない古鷹を狙ったあんたは!絶対に!私が沈めてやるッ!」 歯を剥きだして敵潜を威嚇する叢雲を、青葉の声がいさめた。 「叢雲さん、冷静に。敵潜への警戒は任せます」

2015-01-06 00:57:41
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「当然よッ!」 「はいッ!」 吹雪ちゃんと叢雲の声を受け、青葉が敵艦隊を見据える。距離はみるみるうちに縮まり、間もなく戦艦タ級や南方棲戦姫の主砲の射程に入る。けれど私たちの艦隊は複縦陣で密集したままだった。普通なら味方を狙った砲撃に巻き込まれないように僚艦はある程度距離を取る。

2015-01-06 01:02:27
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

しかし、私たちは距離を取るどころか肩が触れんばかりの近さを保ったまま敵艦隊へ接近していく! ドウンドドウン! 敵艦の射程内に入ったと同時に、南方棲戦姫が口火を切った! 「取舵ッ!」 それと同時に青葉の指示が飛ぶ!私たちは一糸乱れぬ艦隊運動で南方棲戦姫の巨弾を回避する!

2015-01-06 01:07:58
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

私たちの上空にはタ級二隻の観測機。その主砲も次々に火を噴き、弾着観測射撃で私たちを狙う!それを見て、青葉の唇が歪んだ。怯んだのではない。闘志の漲る目で言い放った! 「回避しますッ!遅れないで下さいッ!」 私たちが応、と応じると同時に海の上で舞うかのような激しい回避運動が始まった!

2015-01-06 01:15:40
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ドオオン!ドンドオン!ドドオオオン! 息つく間もなく私たちの周囲に天を覆い尽くさんばかりの水柱が上がる!至近弾の破片が飛び交い、高い金属音と共に私たちの艤装を傷付ける!けれど、一発たりとも私たちに命中することはない!青葉の指示に従い、艦隊は一つの生き物であるかのように走り続ける!

2015-01-06 01:20:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ジグザグに転舵し、時には敵艦隊に向かって走り、一瞬列ごとに左右に分かれて敵弾を避け、また集合する。複縦陣の先頭で青葉は指示を出し続けた。そして、それは一度たりとも過つことはなかった。敵艦隊の射程内で私たちは砲撃を回避し続ける。けれど、なぜこんな危険な艦隊運動を続けるのか?

2015-01-06 01:26:35
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉は、これまでの戦いで射程で勝る敵艦隊に対して離れて戦っても打開策がないことを思い知っていた。だから、あえて射程内に踏み込むことを選んだ。この数週間を艦隊運動の訓練に費やし、艦隊全員が青葉の指示に遅滞なく追従できるように練度を高めた。そして、その成果が今結実しようとしていた。

2015-01-06 01:30:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

南方棲戦姫、そして戦艦タ級の砲撃が急激に衰え始めた。神業のような回避を続ける私たちに向かって際限なく砲撃を続けていたがために、砲身が焼き付いてしまったのだ!機を得たりとばかりに青葉が笑い、右手を敵艦隊に向かって撃ち振るう! 「今です!第六戦隊、突撃しますッ!」

2015-01-06 01:35:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

重巡の射程内に踏み込むべく、全力で走る!寄せ付けまいとタ級が焼きついた主砲に代わり副砲で砲撃してくるのをランダムにジグザグに走って回避!輪形陣を取る敵艦隊と同航戦に入る! 「目標軽巡へ級!全主砲、斉射ッ!」 青葉の令と共に今まで沈黙を守ってきた第六戦隊の主砲が火を噴く!

2015-01-06 01:40:59
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ドウンドドウンドウン! 敵艦隊は私たちから見て左にタ級、手前に南方棲戦姫、奥にへ級、左にタ級の輪形陣で輸送ワ級を守っている。その奥側のへ級が重巡四隻の一斉砲火で轟沈!深海棲艦たちはワ級を守るべく艦同士の距離を詰める。けれど焼き付いた主砲は使えない。つまり、私たちの独壇場だ!

2015-01-06 01:45:59
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

敵艦隊から距離を取ったまま戦っていたとしたら、この状況には持ち込めなかっただろう。青葉の正確な判断と指揮が勝ち取った千載一遇の好機だ! 「ここが勝負どころですッ!全砲門撃てぇッ!」 言われるまでもなくありったけの砲弾を撃ちまくる!照準は固定したまま、全砲の装填と発射を繰り返す!

2015-01-06 01:51:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

重装甲を誇る戦艦と南方棲戦姫といえども、嵐のように降り注ぐ砲弾に損傷は免れない。ワ級を庇わなければならないから回避行動もとれない!たちまち南方棲戦姫と輪形陣後方のタ級が中破に追い込まれる!一気に勝負を決めたいところだけれど、青葉の目はタ級たちの主砲身が冷えつつあるのを見逃さない!

2015-01-06 01:56:13
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「取舵!距離を取ります!」 青葉の指示に従って左に転舵、その直後に敵艦隊の砲撃が再開する! ドウン!ドウン!ドドウン! 再びの焼き付きを警戒してか、さっきまでより敵艦隊の砲撃が鈍い。砲弾の投射量より狙いを重視しているようだけれど、敵艦から目を離さない青葉の指揮がその上を行く!

2015-01-06 02:01:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

回避行動を繰り返し、このままなら再び近づけなくとも敵艦隊の弾薬を消耗させ続けられる、と目論んだその時。 「敵潜左舷後方7時方向!雷跡4!」 再び吹雪が警告を発した。吹雪と叢雲は、砲撃に参加していない。それどころか主砲も魚雷も機銃すら積まず、艦隊の耳となって敵潜を警戒していたのだ!

2015-01-06 02:05:34
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「取舵ッ!」 青葉が振り向いて雷跡を確認し、回避すべく指示を飛ばす。しかし。 「青葉ッ!」 追わず叫んだ私の声に反応し青葉が再び敵艦隊の方へ頭を向けた時には遅かった。敵弾の一つが青葉の転舵した先に向かっている。油断とも言えない一瞬の隙。全てを避け切ることなど土台不可能だったのか。

2015-01-06 02:15:06