【東荒】はこね奇譚

弱虫ペダル二次創作 腐向け 東荒
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ひな@復旧中 @newgibbousmoon

【東荒】はこね奇譚 1 見渡す限りの花だった。 視界を埋め尽くす薄紅は、すべて桜花。 だが、桜花にもいろいろと種類がある。花の形も違えば、色も違う。ほとんど白に近い色もあれば、緋色に近いような鮮やかな色もあり、それらのすべてが今が盛りと咲き誇る様はまさに絢爛豪華という他ない。

2014-12-15 23:07:30
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon その花の中でぽつんと一人、立ち尽くす影が一つ。 「……ねえ、泣いているの?」 「泣いている?俺がか?」 「そう」 その玲瓏たる横顔が泣いているように見えた。 「まさか」 俺にそんな人の子のような感情の持ち合わせはないのだと、彼は言った。

2014-12-15 23:09:49
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「じゃあ、どうしてそんな淋しそうな表情をしているの?」 「淋しそう?俺がか?」 「うん」 「……そうだな、俺は淋しいのかもしれん」 人の世はあまりにもめまぐるしく変わり、もはや、俺達のような者には生きる場所がないのだろう。 彼は、そっと膝をつく。

2014-12-15 23:12:35
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon そのとき初めて、靖友は彼が驚くほど古風な格好をしていることに気がついた。 白一色の袴と浄衣。上に透き通る薄衣を羽織っている。 「おまえ、名は何という?」 「……人に名前を聞くときは、自分から先に名乗るんだよ」 「……この俺に、それを言うとは」

2014-12-15 23:16:56
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 男はくっと口元だけで笑う。 「いいだろう、子供。俺の名は……」 耳元で、その音を紡ぐ。それは、人の子では口にすることができないだろう彼の真名だった。 「じんぱち?どういう字?」 だが、子供が「じんぱち」という音を口にした瞬間、全身に衝撃が走った。

2014-12-15 23:19:35
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「……おい、ちょっと待て、おまえ、何者だ」 「ナニモノ?オレは、アラキタだよ。……たぶん、最後のアラキタだ」 「……まだ、続いていたのか?」 「ただの先祖がえりだ」 幼い子供がにぃっと笑う。 「おまえ!!」 「つかまえた」 子供は満面の笑みで笑う

2014-12-15 23:23:29
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「あのね、オレね、たぶん最後の一人なんだ。何でだろう、そういうのわかるんだ。だから、オレが狙われるってことも……」 「当然だな。神をも誑かすアラキタだ……よもや、この俺が、おまえのような幼子に囚われるとはな」 「ねえ、あなたは誰?」

2014-12-15 23:33:48
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「オレは山神だ。この箱根一帯を縄張りにしている。そんなことも知らずに俺を絡め取ったのか?」 「匂いがしたんだよ……だから辿ってきたんだ」 そうしたらあなたがいた。 「最初から俺を捕えようと?」 「ううん。でも、山神様見てたら捕まえたくなった」

2014-12-15 23:38:25
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 良くも悪くも子供は素直だった。 「なぜ?」 「オレも独りで、山神様も独りだから……一緒にいれば独りじゃなくなるよ」 「……それは……」 「それに、山神様はオレに真名をくれたよね。で、オレが名を呼んで、そうしたら身体がびりってした」 「ああ」

2014-12-15 23:43:41
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 「それって、えーと、折伏したってわけじゃないから、支配下においたっていうわけじゃなくて……たぶん、山神様、オレに求婚して、オレがうなづいたことになっちゃったと思うんだ」 「……確かに」 「あのさ、山神様には申し訳ないけど、オレ、男だから」

2014-12-15 23:45:40
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 名を問い、真名を名乗る。 それは、神と人との古い求婚の形式である。 「そうだな」 わかっているぞ、と男はうなづいた。 そして、目の前の子供とのそれが変則的に成立してしまっていることもわかっていた。 「だから、男同士で結婚はムリだろ?」

2014-12-15 23:53:01
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 目の前の子供は、女児の格好をしていた。 だが、この子供が男であることは最初からわかっていた。 山神たる男の目に、人は、小さな光として認識される。男と女ではその色が違うのだ。 「あのな、子供」 「うん」 「神に、性別など関係ないのだ」 「え?」

2014-12-15 23:56:05
ひな@復旧中 @newgibbousmoon

@newgibbousmoon 男同士だから、成立してしまった求婚を解消できると思っていたらしい子供の顔色がさーっと青ざめる。 「つまり、おまえはこの俺に求婚され、それが成立したということだ」 「え?」 男は柔らかく笑って言った。 「おまえは、この俺の花嫁だ」

2014-12-15 23:59:28

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