宵の血に依る契約城:二日目昼

──そして、二度目の陽光。
0
フェヌス @conces_rs

——正直全く眠れなかった。 温室の中は十分温かかったし、固いベンチも、いつも草の上で昼寝をしていた己には特に支障もなかったはずで——それでもすぐ隣に誰かが居るままというのは初めてだったからだろうかと、朝焼けの色もまだ十分ではなく薄い中で広間へ向かいながら思う。

2014-12-31 01:04:39
アルカ @Conces_arca

明るくなりつつある城内は、朝が来る事を確かに告げながらも直接陽が指す事はない。広間へ至る道、他の気配は二人を避けるように遠ざかる。 その中を足音が二つ。一つは重く、規則的に。もう一つは、微かに、早く。 エルトヴィア、と敢えて呼称された事に意識が向く。

2014-12-31 01:06:23
アルカ @Conces_arca

それは単なる呼称ではなく、奥の――その名が意味する役目を指していると知れた。 「グラーティア」 記憶の紐が、容易く引き上げられる。幾つかの情報と、思い出。 「その名は」 ウィータスラーウァの息が上がっている事に気付き、歩幅を緩める。

2014-12-31 01:06:34
フェヌス @conces_rs

正直どうして眠れなかったのも判然としなかった。——寝付きは良いはずなのに、変に頭が冴えているような感覚がずっと残って、隣の一人が少し動くたびに心臓が跳ねそうになるのには若干病気を疑った。今でも少し心臓が痛い——思いながら、白い裾を跳ねさせながら、廊下を進む。

2014-12-31 01:06:36
アルカ @Conces_arca

呼吸が楽になるのを待っていたかの様な間合いで続けられる言葉。 そして何を問う隙も無く。 広間の扉をくぐると同時。地へ伏し掛けたウィータスラーウァを咄嗟に出した腕で受け止める。

2014-12-31 01:06:46
フェヌス @conces_rs

戻ってくる合間にコロルとは別れて、一度自分の部屋としてあてがわれていたそこに寄って、衣服と髪を整え直してから再び昨日歩いた通りに道を辿る。 甲冑は、休息の足りない体には重かったからと置いて来た。剣だけは腰に提げて——ドレスに剣はちぐはぐかと、思わないでも無かったが。

2014-12-31 01:06:50
アルカ @Conces_arca

――粛清を視野に、と。 そう、一族の者から声があった。 問う為には。力を無くす小柄な身体を見下ろし、そのまま運ぶ。 前日の惨状の面影が消え失せている広間の中。 手近な椅子へとウィータスラーウァを座らせた。

2014-12-31 01:08:25
フェヌス @conces_rs

思いながら足早に、記憶の場所へと向かって。 破壊されたはずの扉——いつの間にか修繕されもとの姿を取り戻したその扉を押し開いて——見えたその二人に、夕暮れは目を見開いて。 「……なにか、……」 あったのだろうかと、——アルカがそうしたようには思えないまま、足を止めた。

2014-12-31 01:10:05
コロル @Conces_color

――眼鏡、そういえばフェヌスが持ってったままだな。 そう気付いたのは、彼女と別れて一度、自室に戻ってきた時だった。何時ものように眼鏡を押し上げようとして、自分の鼻を突いた時にようやく思い出した。すっかり忘れていたけど、彼女のところにあるならまぁ、いいか。

2014-12-31 01:32:55
コロル @Conces_color

思い直して、シャツとズボンをそれぞれ着替える。 はてさて、彼女はよく眠れたのだろうか。――もし、眠れていなかったとしたら。理由によっては、笑ってしまいそうな自分がいるのは、決して悪くないと思いたい。もし自分の想像している理由だとしたら、かわいすぎるじゃないか。

2014-12-31 01:34:19
コロル @Conces_color

頭を振って、思考を払う。――広間の扉は綺麗に直されていた。ああ、きっとべそかきながら直したんだろうな……と思うと、同情せざるを得なかった。大変だよなぁ、などと他人事のように考えながら、広間の戸を叩く。 「おはよう、いい朝だ――ね?」 甲冑を脱いだ夕暮れと、その奥の二人。

2014-12-31 01:35:48
コロル @Conces_color

ドレスのままも綺麗だよ、とか咄嗟に浮かんだけど今それを言うのはだいぶ空気を読めていない気がしたのでそっと呑み込んだ。 「ウィータスラーウァ、だっけ。どうしたの、その子。体調不良? 大丈夫? この城、人間用の薬とかあるのかな……」 フェヌスの隣に立って、首を傾ぐ。

2014-12-31 01:36:54
コロル @Conces_color

彼女と同じように晴れ空もまた、アルカが何かしたとはちっとも全く思っていなかった。 「アルカ、何かあったの? ヴァエクが何かした?」 問い掛けばかりで申し訳ないな、と苦笑を滲ませ。 「――いや、話は落ち着いてからのがいっか。座ろ、フェヌス?」 手を差し伸べる。夕暮れに向く、晴れ空。

2014-12-31 01:43:14
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

力尽きた体が椅子に置かれる。本当に、意思のない人形のように。 食うに困る日々を暮らしてきた身体は、ここ数日、眠ることすら満足にしていなかった。緊張で眠ることができない状態が続けば、限界は突然に訪れる。そうまでなっても、“命令”には背けない。 “あたし”とは、そういうものだった。

2014-12-31 01:52:38
ヴァエク @elqVaec

廊下を、歩く影は一つ。 淀みないその足取りはしかし、今は歩行という機能にのみ終始している。 その周囲に、淀むものがあった。 例えば天井。 例えば廊下。 例えば装飾であり、その影全て。 それらは、見ていた。 伺うように。 監視するように。 ──千載一遇の好機を、待ちわびるように。

2014-12-31 05:54:42
ヴァエク @elqVaec

ここは吸血鬼の域。契約を任されたのが四者であれ、餓える者達はそれを悠に凌いで余りある。 流れ出る鮮血とは言わぬ。 滴り落ちる血の一滴。 頬を伝う汗の一雫。抜け落ちた御髪など何でもよい。 そんな一つ。そんなおこぼれが、一つでも手には入れば、それで己が餓えは── 「────殺す」

2014-12-31 05:56:31
ヴァエク @elqVaec

────一言。 迸る凶念を顕すのは、その一言で済んだ。 「今オレ様の知覚に入った奴は、全員殺す。有象無象の区別無く、鏖してやる」 天井の隅が震えた。 廊下の影が震えた。 扉の闇が、震えて消えた。 これ以上はならぬと、理解した瞬間。  蜘蛛の子を散らすように、潮騒が引いていく。

2014-12-31 05:58:50
ヴァエク @elqVaec

もう、気配は微塵も感じない。 心なしか、廊下自体の明るさが増したと感じられる程に。 それは占有の感情なのかは、分からず。 扉を潜る。 立ち入るその片手には、シアを。 片手には、空いた葡萄酒のボトルを。 進む先は座椅子。 軽く放るように、シアの身体を横たえた。

2014-12-31 08:26:07
シア @ConcesC_Cia

私は、潜む気配から向けられる視線が、居心地の悪さ等と言う可愛らしい物ではないとは知らない。腕の中で暢気にも眠り続けている私は、一喝よりも静かな声に、其れらが払われた事も、知らない。 「────」 この細い躯は椅子の上で軽く弾んだけれど、其の男にしては随分と優しい扱いだっただろう。

2014-12-31 09:41:42
シア @ConcesC_Cia

私は、知らない。部屋に残った二人がその後に如何したのか。ヴァエクが通路を進む途中、発した声に宿る響きがどんな物なのかも。彼が部屋を出る際に手にした筈の、バゲットと瓶の中身が無くなる僅かな間の事さえも。 「ぅ、ん……」 横たえられた座椅子の上で、薄く眸を震わせ開く迄の事は──何も。

2014-12-31 09:43:54
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

気を失っていたのは、ほんの僅かばかり。銀の髪の人形は動き出す。瞼が薄らと開き、菫色が覗く。 靄のかかったようなぼんやりとした視界だった。それでも、明るいことと部屋が随分広いことがすぐにわかった。 (ここ、何処) 途切れた記憶の糸口を探しながら、顔を擦る。頬に硬い感触。眉根が寄る。

2014-12-31 12:29:48
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

顔を上げれば、すぐ傍に吸血鬼がいて、反射的に呼吸が引き攣る。それも一瞬。此処がどういう場かを思い出せば、危険はないと自分に言い聞かせて。 「……アルケーディアス、お前が俺を運んできた、のか?」 “俺”には、歩いた記憶も、それを命じられた記憶もない。それは“あたし”だけが知ること。

2014-12-31 12:29:52
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

視線を巡らせれば、きのうよりも距離の近いフェヌスとコロルの姿が見えた。空の酒瓶を手にしたヴァエクと、場所が変わっても“倒れたまま”のシアが、見えた。 見えた途端、かあっと頭に血が上った。 「――アケイシアッ!!」 悲鳴のような声でその名前を呼んで、立ち上がろうとして、膝が崩れた。

2014-12-31 12:29:55
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

疲労で身体が言うことを聞かない。 無様に、四足で這うようにして、進み出す。 「嫌だ、アケイシア……嫌、嫌だ、死なないで……!」 三日が過ぎるまで、そんなことは起きない。その筈と理解していても、状況が、“俺”の失くした記憶と、どうしようもなく重なって。 「悪いのは、俺だから……!」

2014-12-31 12:29:58
フェヌス @conces_rs

——空が見えた事にほんの少し安堵する。伸ばされた手にはすぐに自分の片手を重ねた。躊躇うような心地がしたまま——銀色の様子には不安を覚えたまま椅子に向かおうとして、寸前に扉をくぐったひとつ——二人に、何度目か目を見開いた。 「シア」

2014-12-31 13:22:31
1 ・・ 14 次へ