宵の血に依る契約城:一日目夜

──そして時は移り。
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匿名企画『宵の血に依る契約城』 @Conces_Castle

——月の瞳は開く。 ——夜に上がる月を見上げ、一対の月が瞬く。 ——嘴の音一つ。窓から舞い上がる翼の一対。 ——広間の扉は、鎖される。

2014-12-25 20:00:09
シア @ConcesC_Cia

適当な部屋で大丈夫、お願いします、と。そう伝えて、私は夜色のひとの後を付き従った。アルカに着いて来る意思を示したヴァエクが、ウィータスラーウァを引っ張って(引き擦って)こっちに来ていたような気がする。 「────」 彼の背を見てばかりで、真偽を私はまだ、この目で確認していない。

2014-12-25 20:08:38
アルカ @Conces_arca

幾つかの扉を通り過ぎる。 そうして角を曲がり、また幾つかの扉を通り過ぎ。ひとつの前で立ち止まる。 扉を開く。軽い音とともに抵抗なく開けば、室内は全体的に落ち着いた赤系統で纏められた休憩室。椅子は、誂えたかの様に四つ。

2014-12-25 20:26:37
アルカ @Conces_arca

飴色の照りを返すテーブルと瀟洒な作りのそれに、今度は壊してくれるなよと願ったのは致し方ない事だと思いたい。 室内と揃えた葡萄酒色の厚いカーテンがかかる切り取られた窓の向こう、夜闇の空が広がる。目を凝らさずとも星が見えるだろうか。 「一先ず。此処で、構わないか?」 後ろを振り返る。

2014-12-25 20:28:13
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

「……はっ?」 無造作に、それはもう当然の如くモノのように襟首を掴まれた。俺の意志なんて聞いてないし聞く気もないとでもいうのか、 「逃げ、ない、から! ちょっ……痛い、って」 上げる抗議の声も通らないまま、引き摺るようにして連れて行かれた。 「……ッ、ヴァエク、痛いッ!」

2014-12-25 20:28:25
ヴァエク @elqVaec

掴んだ襟首は、僅かの忘我を経て、ジタバタと暴れ出す。 悲しい事に、掴んでいる者はそんな抗議を聞かぬ。 「はン。お前の歩幅に合わせてたらよォ、いつまで経っても着かねェだろうが」 確かに言われればそうだ。 廊下も、天井も、間取り一つとっても、『人間』を基準にしたサイズではない。

2014-12-25 21:17:48
ヴァエク @elqVaec

まるで──巨躯さえ通れるような。 辿り着いた部屋。 振り返るアルカ。 それにシアが返すより先に、ヴァエク(が掴むウィータスラーウァ)は、ズカズカと乗り込んだ。 「良い部屋じゃねェか。まァもうちったあエッジの聞いた部屋の方がオレ様の好みだがなァ」 言って、早々と腰を下ろした。

2014-12-25 21:24:05
シア @ConcesC_Cia

悲痛な声が否応無く聞こえて来る──現実は、非情だった。 (ごめんね、ウィータスラーウァ……) 私は、無力だった。

2014-12-25 21:53:13
シア @ConcesC_Cia

後ろを見る事が怖くて、アルカの背中を見つめて、恐縮しながら裾を掴ませて貰っていた。そんな調子だったから、もうこの部屋から広間に戻る経路は覚えていない。扉を三つ潜った所で諦めた。扉が、また開く。 「……綺麗」 落ち着いた色合いに吐息を零す。先に聞こえた荒い声が聞こえない素振りで。

2014-12-25 21:54:56
シア @ConcesC_Cia

「是非、此処で。……すみません」 裾からゆっくり手を離した。あまり強く握らないようにはしていたつもりだけど、皺になっていないだろうか。 「……椅子の数も、揃ってますし、ね」 減らさないで欲しい、と共通認識を持つ私は、アルカが広間の椅子の肘掛けを粉砕した事をまだ、知らない。

2014-12-25 21:55:51
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

掴まれて運ばれている側は、吸血鬼の城の事情など思いもよらない。痛いし怖いしそれどころではない。 大して時間もかからず辿り着いた部屋(俺の体感じゃひどく長くて疲れたけど)。なんの遠慮も躊躇もなく椅子に掛けたヴァエクに、まだ俺は掴まれたままだった。まさか手放し方を知らないとかは……。

2014-12-25 22:01:48
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

襟首を掴まれたままじゃ隣の椅子にも届かず、俺が座ったのは絨毯の上。痛みと体勢の辛さから、額に薄らと汗を滲ませて。 「……ヴァエク、痛い。髪が、」 全く雑な扱いで、服の襟首を掴む手の中には、背に下ろしたままの髪も当たり前に巻き込まれていて。もう、訴える声にも大分力がなくなっている。

2014-12-25 22:02:16
アルカ @Conces_arca

「……お前の好みに合わせていたら、落ち着いて話どころでは無くなるだろう」 乱暴に見える仕種で腰を下ろすヴァエク――らしい、と言えばそれまでだが――に呆れたような声音で返す。 裾を掴まれた瞬間、背後にいた者たちには見えなかっただろうが僅かに眉を上げ。

2014-12-26 07:45:55
アルカ @Conces_arca

そのまま、手を引くでも言葉を掛けるでもなく、ただ何事もなかったかの様に。 だから、部屋に辿り着き緋色を見下ろす翡翠に、変化は見えない。もっとも、紫苑と合う事は無いだろうが。

2014-12-26 07:47:10
アルカ @Conces_arca

そっと手が離されたのを確認し、中へ入るように促す。 緋色が部屋へ踏み込むのを待ってから、扉を支える手を離すだろう。

2014-12-26 07:47:13
ヴァエク @elqVaec

「ン? あァ悪ィ悪ィ。ちっとばかし歩いたたけでこれたァ、人間ッてやつァ変わらず貧相な体してんなァ」 言及すべきはそこではない。 引き上げる腕。浮かぶ体は、ヴァエクの腕の内。 さも当然のように。 その膝の上に、仰向けに寝かせた。 「これで文句ねェだろ。ウィータスラーウァ?」

2014-12-26 08:20:53
ヴァエク @elqVaec

「おゥ、アルカもそこの人間もとっとと座りな。なァに、遠慮はいらねェさ」 主人とばかりに、招くヴァエク。 空いた席は、都合3つ。 その隣が。 その真向かいか、 あるいは、斜め前か。 好きな席を、選ぶがいい。

2014-12-26 08:25:23
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

膝の上。抱き抱えるように寝かされて、また一瞬、思考が停止する。掴む手を放されれば痛くも辛くもなくなったけど、これじゃあ、とても落ち着けない。 「椅子、空いてるだろっ」 膝から降りようと(落ちようと?)身を捩る。 「これ、やだ。近い、から。見えない、から」 距離が近い。視界が狭い。

2014-12-26 10:45:28
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

視界が狭いから見えない。見えなければわからない。わからないものは、怖い。 「お前が、見えないからっ」 これで頬でも染まっていれば、色めいたように聞こえたかもしれない。実際には、怖くて、むしろ青くなっているくらいで。片方しかない目で、助けを求めるような視線を、アルカとシアへと送る。

2014-12-26 10:45:33
シア @ConcesC_Cia

「……すみません、有難うございました」 ご案内と、裾への謝辞と礼を兼ねた言葉は事後になった。無意識に掴んでしまった後、引っ込みが付かなくなって此処まで来ていたものだから。告げてから、真っ直ぐ目を見られない侭で辞儀。そろ、と、部屋の中へと進み出、一つ席の埋まった卓の前で立ち止まる。

2014-12-26 11:25:29
シア @ConcesC_Cia

先に腰掛けた男の言葉に違和感に似たものを感じて、我知らず首を傾げた。 (あ、名前) 人間で充分だと言っていた彼が、ごく自然に名を呼んでいる。選んだ、と言うのは冗談でも無さそうだと。 「……椅子に座りたいみたいだし、下ろして差し上げませんか」 彼女は子犬のような眸をしているけれど。

2014-12-26 11:26:03
シア @ConcesC_Cia

言いながら私は、斜め前の椅子を引く序でに、さりげなく距離を開ける形で位置をずらして腰掛けた。ヴァエクの真横にも、真正面にも、位置して対峙する度胸は私には、無い。

2014-12-26 11:28:09
ヴァエク @elqVaec

向けられたのは、紫苑と、その言葉。 そして、悲鳴。 「………仕方ねェ」 やれやれと、溜め息を一つ吐いた。 浮かべた苦笑と、もう一度片腕を回し、持ち上げる。 ウィータスラーウァの体を置いたのは、テーブルを越えて、シアの隣。 ヴァエクの、真向かい。 「これで、よく見えるかァ?」

2014-12-26 13:05:35
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

ちょこん、と。 向かいの椅子に下ろされれば、少しも和らがない緊張に固まりながらも、大人しくなった。 シアのように椅子をずらしたりはしないかわり、外側の肘に寄って肩を窄める。 「……さっき、よりは、まし」 ましなだけで、十分じゃないけど。ここはまだ輪の中で、俺が居たいのはその外だ。

2014-12-26 16:40:23
ウィータスラーウァ @VitaslavaCC

昼の最初のうち、離れたところで居ようとした俺のことは、きっと覚えてないだろう。ヴァエクはたぶん、餌でしかないモノに気をかけたりしない。昼に“見えた”かぎりでは、そう思う。 (……よく、見えない) 下を向く。膝の上で、痛めた手を隠すように撫でる。横を見る。怖くなって、また下を向く。

2014-12-26 16:40:42
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