駄提督の落ち度初め

竹村京 @kyou_takemura

「何をです？」 「船の年越しだよ」 「ええ、艦艇はほとんど乗ったこともありませんので」 だろうだろう、と訳の分からないことを一人納得して酒を含み、勝手に続ける。 「年前に分隊ごとに鏡餅と縁起物のスルメが配られてよ。正月に給養員が雑煮と松前漬けにするんだ」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

黒豆をつまみ、コップ酒を煽る。 「モグリって知ってる？ 元同僚でさ、カセットアームで戦う奴なんだけど。あいつ料理うまくてな、魚雷員のくせに給養員ほっぽって勝手に料理しちゃうんだよ」 「どんな料理なんです？」#落ちぬい二次

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浜風は突っ込むとややこしくなりそうなカセットアームのくだりを的確にスルーして料理の話に乗る。 「餅は雑煮なんだけどな、醤油味も味噌味も作るし、スルメは炊き込み飯だろ、天ぷらだろ、スープだろ……食いたいって言えば大体作ってたぞ」#落ちぬい二次

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「スルメでそんなにたくさん料理できるなんてすごいですね。あ、でもお餅やスルメってそんなにたくさん配られるんですか？」 「お飾りだからそんなにはないな。だからモグリが料理し始めると暇な奴が買い出しに出るんだよ。んでそれ見た他の艦の奴らも材料持ってうちの艦に来たりして」#落ちぬい二次

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「楽しそうですね」 「ああ、楽しかったぜ。んで正月だからいいだろうって酒を買ってきた奴が先任伍長や副長にぶん殴られたりしてよ」 思い出し笑いをしながらぐっと酒を飲む。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「さすがに艦内でお酒はだめですよ」 「と思うじゃん？ 実は旧軍の時代までは艦内で飲酒できたんだよ。ほら、艦内の売店は酒保っていうじゃん」 「ああ、酒保ってそういうことだったんですね」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「一番ちゃっかりしてんのがギンブチってやつでさ。どういう調整したんだかヘリパイのくせに艦に居座って年越ししてたんだけど、そいつヘリで酒を隠し持ってきててさ。高値で売って儲けてやがった」 おかげでいい正月だったけどな、と笑う。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

浜風は『これだから酔っぱらいは……』とでも言いたそうな微妙な表情で聴いていた。 「ああそうそう、餅っていえばさ、ここの鏡開きでお前料理してみねえ？」#落ちぬい二次

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「料理ってお雑煮とかお汁粉とかですか？ そういうのって食堂の人がやるんじゃないんですか？」 「だからさ、他の奴らと一緒に食うのが苦手でも作る方なら平気じゃね？」 「ま、まあ、作る方なら、考えておきます」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

酔っ払いに逆らうと碌なことにならない。どうせこれだけ酔っていれば明日には忘れているだろうし、もし忘れていなかったとしてもその時はその時だ、と思って生返事を返しておく。#落ちぬい二次

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アルコールが回った頭がひねり出す発想というのは突拍子のないものと相場が決まっているが、食堂で食べるから食堂で作るに飛躍したことは可笑しいというか、呆れるというか。 その後も兵頭はしゃべり続け、飲み続け、黒豆を食い続けて、とうとう一升瓶を空にした。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「あんまり長居しても悪いからこれで帰るわ。黒豆ごっそさん、うまかった」 「どういたしまして。廊下で寝ないでくださいね」 兵頭が部屋を出ると、浜風は後片付けを始めるでもなく先程まで兵頭が座っていたところに座り直す。傍らには兵頭が脱ぎ捨てていったどてら。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

実は、どてらは二着ある。浜風のサイズのものと兵頭のサイズのものをそれぞれ買っていたのだ。柄は同じく矢絣で、浜風のものはピンク。ちなみに矢絣は放たれた矢は戻ってこないということで、嫁が出戻らない縁起物である。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

お揃いだと知ったら兵頭は着ないかもしれないと考えて、寒い思いをしてまで兵頭にこれを着せたのはやってみたいことがあるからだ。 おずおずと兵頭のどてらに手を伸ばし、ゆっくりとそれを着る。#落ちぬい二次

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意を決して襟を引き寄せて口元まで埋まると、兵頭の匂いがする。煙草と、酒と、男の匂いだ。 「兵頭さんに抱かれてるみたい……」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「わりぃ、煙草忘れた」 がちゃり。 ノックも無しに入り込んで来たのはさっき出て行ったばかりの兵頭である。 そして自分が着ていたどてらに包まって自分の世界に入り込んでいる浜風を見た。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「…………見ましたね？」 きりきりきり、と音がしそうなほどぎこちなく浜風の首が回り、兵頭をその目に捉える。 「お取込み中、失礼しました」 危険を察知しじりじりと後ずさりする兵頭。 兵頭がほんの少しだけ飲み残したコップ酒を一気に飲み干す浜風。白い肌が赤く染まる。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「見られたからにはただで帰す訳にはいきません」 「……なんも見てないよ？」 「責任を取ってください」 ぬぅっ、と立ち上がる浜風の目はやばい感じに座っている。 兵頭が走り出すのと浜風が飛び出すのは全くの同時だった。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「待ちなさい提督！責任取ってください！」 「責任なんてねえよ！」 「女の部屋に上がり込んで！手料理を食べて！あんな姿まで見たんですから！責任！取って！」 「部屋に戻って寝ろ！」#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

こうして、駄提督こと兵頭は新年早々官舎で酔っ払い同士の壮絶な痴話喧嘩鬼ごっこをするという新たな駄目伝説をその経歴に刻んだのであった。#落ちぬい二次

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おしまい #落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

「やっちまった……」 兵頭は司令室で頭を抱えていた。 「あああああ……やっちまった……」 直接の原因は今朝、秘書艦が持ってきたものだった。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

それは覗き窓が付いた細いプラスチックの棒で、その覗き窓には赤い線がくっきりと出ていた。 妊娠検査薬である。それも陽性の。 心当たりは、ある。#落ちぬい二次

竹村京 @kyou_takemura

しばらく前に酔った不知火に襲われて、こっちも酒が入っていたせいで返り討ちにしてやってしまったのだ。 そんなつもりはなかったから避妊具は持ち合わせておらず、勢いで生でしてしまった。#落ちぬい二次